私の婚約者の苦手なもの 番外編

jun

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新婚旅行編

ヘンリー視点

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父上がワソニック領にいる黒竜のクロに会う事が決まってから、何度も自分を連れて行けと言ったが、聞いてはもらえなかった。

父上は最初、父上か俺のどちらかが行く予定にしていたらしいが、クロは顔を認識さえすれば会話が出来る事が分かると、国王としてクロに会わねばならんとか言い出し、万が一を考えて、俺は残れとなった。

後宮跡や王家別荘地などをクロの保護区域にすると決めた為、いずれは王族全員クロと対面させる予定らしいが、先ずはルイを連れて行くとか…。

確かに父上と俺が一緒に行く事は出来ないだろう。


父上はいつも自ら動き、すぐ城を空ける。
エリスの産後の体調も落ち着いたし、ユージンも順調に育っている。
そろそろ自分も視察に出ても良い頃合いだろうと思っていた。
だから自分が行くのが良いのではと言えば、

「お前は次期国王だ。エリスもユージンもいる。万が一を考えて、俺達の後だ。
それは変えない。」

「父上は国王です。ルイは結婚を控えています、私が一人で行きます。」

「国王だから今行くのだ。
ルイはリリーナやロナルドの友人だ。今後、ワソニックに行くのもお前よりルイの方が周りも気を使わんだろう。」

「・・・分かりました。」


分かる、父上の言う事は納得できる。
だが、何か気に入らない。


クロに見せる為の姿絵をシンシア嬢に描いてもらった後、執務室へ戻る途中でカトリーヌに会った。

「カトリーヌ、久しぶりだな、なんだ、ルイと喧嘩でもしたのか?元気がないぞ。」

「ヘンリー様、お久しぶりでございます…。
喧嘩はしておりません…ですが…」

「執務室に戻るところだった。話しを聞くから一緒に行こう。」

とカトリーヌを連れ、執務室へ戻った。


「どうした、カトリーヌ、何があった?」

「お恥ずかしい話なのです、ヘンリー様にお話しするのは憚れます…」

「恥ずかしい話…あっち系なら聞けんが、それ以外なら聞くぞ。」

「あっち系などではございません!」

「じゃあ、なんだ?」

「・・・私だけクロに会っていません…。
お父様もお母様もお兄様も会って話しをしているのに、私だけ会っていません。
そして、今度はルイ様も会われるのです…。
リリー様はご実家の領地ですし、ロナルド様はご主人です、それは分かります…
私がしゃしゃり出る立場ではない事も分かります。
でも…寂しいのです…私だけ、仲間に入れない事が寂しいのです…。」

「・・・分かる、分かるぞ、カトリーヌ!」

「ヘンリー様…?」

「そう、そうなのだ!いつもいつも、俺だけ最後なのだ!何事も終わってからなのだ! 今回もそうだ!
分かっている、俺を思っての事だと分かってはいる。だが、いつも事の最中の輪の中に入れない!俺だってその中に入りたい!」

「そうです、ヘンリー様!そうなのです!
前まではその輪の中にいたのに今は入れない!分かっています、簡単に騒動に巻き込まれてはいけない立場なのだと分かっております!それでも、私はあのワイワイと楽しそうな輪の中に入りたいのです!」

「そうなのだ、カトリーヌ!
いつもいつも楽しそうにワチャワチャしている中に入りたいのだ!それなのに入れてくれない!」

「分かっているのですよ、それでも後から聞く話しが余りにも楽しそうで、悔しいではありませんか!」

「全く俺も同じだ!カトリーヌ!これは由々しき事態だ!断固抗議するべき案件だ!」

「そうです!断固抗議するべきです!少し反省するべきです!」

「良い事を言ったぞ、カトリーヌ!
そうだ、反省させよう!きっと母上も同じ思いだ。母上にも相談しよう!
カトリーヌ、我らは決して負けぬぞ!」

「はい、ヘンリー様。これから作戦会議です!」

「よし、急いで仕事を終える。カトリーヌはルイにしばらく俺の手伝いをすると伝えてこい!」

「承知致しました!行って参ります!」

そしてカトリーヌと共闘を組み、あの愉快な仲間たちのトップと新・愉快な仲間たちのトップに反省させるべく俺達は動き出した。

母上にも話しを通し、その日、カトリーヌと母上は俺の執務室に篭りきり、父上とルイはオロオロし出した。
執務室の扉の前で、


「何かあったのか?どうしてヘンリーの執務室にアイリスとカトリーヌが籠ってるの?」

「兄上、何故カトリーヌが兄上の執務室に篭っているのですか?」

「何も食事までそこで食べる必要はないではないか。ちゃんと話しを聞くから出てきなさい。」

「兄上、俺、何かした?カトリーヌ、返して!」

「アイリス?今朝は機嫌良かったよね?
それから会ってないよね?」

「カトリーヌも午前中はおとなしかったけど、何かあるなら言ってくれ!」

ガチャ。


「イアン、ルイ、食堂に行くわよ!」

母上の後を、俺、カトリーヌと続く。


「え?何?三人とも怒ってる?」

「カトリーヌ、どうした?何故怒っている?」


三人とも無言で食堂まで歩き、その後を父上とルイがついて来た。


食堂に着き、自分の席につくと母上が、

「私とヘンリー、カトリーヌから二人にお話しがあります!」

「何でも聞くぞ、どうした?」

「母上、私は何か怒らせる事をしたという事でしょうか?」

「それではルイからいきましょうか、カトリーヌ、言ってやりなさい!」

「はい、アイリス様!」

「え?何?」

「ルイ様!私、怒っております!
いつもいつも、毎回毎回、私にはすべて事後報告なのです!
分かっているのです、仕方ない事だと!
ですが、その場にいなかった者の事を少しは考えて欲しいのです!
それはそれは楽しそうに話して下さいますから、聞いているこちらも楽しいです。
リリー様が絡んでいたらそりゃあ楽しいでしょう!ですが、残された者たちの寂しさを分かって欲しいのです!
それにイーガー家でクロに会っていないのは私だけです。そして、今度はルイ様。
分かっています、言いたい事は分かっています!けど、寂しいと思ってしまう事は間違っていますか?
我慢も出来ます、連れて行けない理由も理解しています。
けれど、また、楽しい話しを聞かされるのです…私も一緒にその場にいたいと思ってしまうのは…いけないことですか?
寂しいと思ってしまうのはいけないことなんでしょうか…。」

「はい、次、ヘンリー!」

「はい、母上!」

「父上、今、カトリーヌが言った事をよく頭に叩き込んで下さい!
毎回毎回、愉快な仲間たちとワイワイ、ワイワイ、あんな事があった、こんな事があった、あれは面白かった、あれは凄かったとご機嫌に話されますが、一度は楽しく聞きますよ、こっちも!
それが何回も何回も続いたら、聞く方は、
楽しそうだなぁ、良いなぁ、仕事してるのかなぁ、って思うんですよ!
貴方達は聞かされる側の気持ちを全く考えていない!
たまにはそっち側に入りたいと思うんですよ!
今回だって、結局最後だ!
そして、帰って来てから、楽しそうに、ああだこうだと面白い話しをするんでしょう?
たまにはこっちだって、楽しそうに報告する側になりたいですよ!た・ま・に・は!」


「はい、では私の番です。
ヘンリー、カトリーヌが言ったことは、
私が思っていた事と全く同じです。
イアン、貴方は気遣いが足りません。
留守番組の気持ちが全く分かっていません。
私もヘンリーもここ数年遠くへの視察すらありません。
城の中しか知りません。
私もヘンリーも愉快な仲間がいませんので。
イアンやルイの話しは、城の中の事しか知らない私達には楽しいものばかりです。
聞くのが楽しみです。
ですが、羨ましいとも思うのです。
その事はきちんと頭に入れて置いて下さい、
分かりましたか?」

「「はい…すみませんでした…」」

「今回はすでに決まった事です。ですが、
遊びに行くのではないのです!
はしゃぐようなまねは、決してしませんよう、気をつけなさい!以上!」

「「はい!」」

「ヘンリー、カトリーヌ、これでいいかしら?」

「はい、ありがとうございました、母上。」

「はい、ありがとうございました、アイリス様。」

「では、甘い物でも食べましょう、喉も渇いたわね、飲み物でも飲みましょう。」

「「はい」」

「あの、アイリス…俺とルイも一緒にいいかな?」

「どうぞ、私達はスッキリしましたので。」

「あ、はい、すみませんでした。
ヘンリー、決してお前を蔑ろにした訳ではないぞ。
ヘンリーに負担をかけていた事は謝る、申し訳なかった。
ヘンリーは真面目で優秀だから騒がしいのは嫌いだと思っていたのだ、済まなかった。
だがな、ヘンリーに声をかけようとはいつも思っているんだぞ、ローリーの時だってちゃんと思い出したぞ、ヘンリーに見せなくちゃって。」

「ハァ~そういう事ではないですが、もう良いですよ、言うだけ言ったらスッキリしましたから。
ルイに関しては半ば巻き込まれてる事が大半だからな。」

「兄上、すみませんでした。
カトリーヌもごめん、もっと気遣うべきだった、本当にごめん!」

「もう大丈夫です。一度、爆発しておきたかっただけですから。でも、寂しいことだけは覚えていて下さいね。」

「分かった、カトリーヌに寂しいなんて言わせて済まなかった。」

「あらあら、仲良しね、ルイとカトリーヌは。」

「アイリス、俺達だって、仲良しだぞ、な、アイリス!」

「そうかしら?」

「アイリス?仲良しだよね?アイリス?」



まあ、ただの僻みのようなもんだったが、

次は絶対、皆が羨む報告をしてやる!
と、心に誓いデザートを仲良く食べた。












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