私の婚約者の苦手なもの 番外編

jun

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新婚旅行編

ジュリア視点

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昨日、処刑台に向かうような気持ちで城へ向かった。

陛下やオスカー様の顔が見れなかった。

マリア様達が来るのが怖かった。


マリア様達が揃い、セバスが報告を始めた。
私が最初から説明すれば良いのだろうが、
セバスが、
「私が前半、報告しますので、ジュリア様はその流れで後半お願いします。
昔を思い出して頭が切り替わりますよ。」
と言ってくれた。

セバスの報告を聞いていていたら、確かに長官や陛下に報告する際を思い出す。

そして、私の番になり、流れを切らず話し始められた。

最初は淡々と報告出来た。
でも、私が現場に着いてからを話す時には、声が震えてしまいそうになった。

すべて話し終え、マリア様とリリーナちゃんに謝罪した。
怒鳴られると思った。
睨みながら私に罵声を浴びせるだろうと覚悟していた。
陛下もオスカー様も、カイル様もリチャード様も、皆、私を許さないだろう、そう思っていた。

だが、そうはならなかった。

マリア様は、アラン様が生きている事が重要なのだと、今はそれだけだと。

アラン様はきっと、目覚めたら、私を恨むどころか、怪我はなかったかと心配するだろうと、
アラン様が許すのだからマリア様もリリーナちゃんも私に恨みはないと言ってくれた。

陛下も、アラン様が起きたら、こう言うだろうとモノマネをしながら、笑顔で言ってくれた。
オスカー様も、カイル様も、リチャード様も、アラン様が目覚めた時の一言を予想し、笑顔を向けてくれている。

その予想した一言は、どうなの?と思ったが、有り難かった…。

リリーナちゃんが泣き腫らした顔で、アラン様はきっとこう言うよと言って笑ってくれた時、もう我慢できなかった。


怖くて怖くて仕方なかった。
決して許しては貰えないと思っていた。

でも、ここにいる誰も私を責める人がいなかった。
アラン様が私を責めないと確信しているから。
有り難かったが、余計に辛くなった。
そんなに愛され、私の事まで心配するような人に、あんな大怪我をさせてしまった事が耐えられなくて、大泣きしてしまった。

サイモンは私を宥めるのを諦め、マリア様とリリーナちゃんが私を慰めてくれた。
それもまた嬉しくて泣き止むことなどできなかった。

陛下がいい加減にしろと頭をど突いてくれて、ようやく落ち着いた。

そして、もう二度と行く事がないだろうと思っていたワソニック領に向かっている。

出発する前に、サイモンと私でどっちが行くか揉めたが、王妃様にどっちも行って、ハロルドと誰か交代してきなさい!と怒られた。

途中、また馬車の中から大声が聞こえ、一瞬ビクッとなったが、
クロと話すので気にするなと言われ、そのままにしていたが、大声で会話しているのが、なんだか可笑しくて笑えた。

サイモンが、
「母上、良かったですね、昨日は死にそうな顔でしたよ」
と笑っていた。

本当に良かった…また泣きそうになって気を引き締めた。


しばらくして、屋敷に着くと、馬車の扉を開けた瞬間、リリーナちゃんとマリア様が飛び出して行った。


それをサイモンと見送っていたらハロルドが来た。

「ジュリア、大丈夫か!」

心配気に聞いてきた。

「誰も責めなかった。マリア様もリリーナちゃんも。陛下やカイル様達も。
みんながアラン様は私を怒らないって…。
アラン様は許すよって…。
私に…笑いかけてくれた…。
ハロルド…私…笑ってもいいのかな…。
マリア様は私が裏に引っ込むのはダメだって…誰が何かあった時戦うのって…言ってくれた…。
私…まだやれるかな…。
やってもいいかな…」

「そうか、皆、許してくれたのだな、良かった…心配していた。」

「ごめんね…ハロルド…私…「あの、お二人さん、息子がここにいるんで!」」

「サイモン、来ていたのか。」

「ずっといたから!そろそろ交代して、陛下に報告しに行くでしょ!」

「そうだな、助かる。」

「そういえば、父上もドラゴンの声聴けるようになったんですか?」

「サイモン、ドラゴンではない。クロだ。」

「は?あークロね、クロとは話したんですか?」

「昨日、一晩、クロと一緒だった。たくさん話した。サイモンの事も覚えたぞ、クロは。」

「え?凄い!もしかして、俺も話せるのかな?」

「まだ、分からんな。それに、ジュリアのことは“おばさん”と覚えた。」

「「は?」」

「どうして私はおばさんなの?嫌われたから?」

「違う。トーマスがこれくらいの意地悪してもいいだろうと、クロにおばさんと教え込んでいた。今はジュリアは“おばさん”と認識されている。」

「おばさん…」

「アハハハ、トーマス、やるな~。
母上、これくらいは許さないと。」

「そ、そうね、私はおばさんで良いわ。
クロにちゃんと謝りたいわ…」

「後で行こう。クロはちゃんと分かっている。可愛い子だ。」

「あ!俺も行きたいです、紹介して下さい!」

「皆で行こう。その前に引き継ぎをする。」


屋敷に入り、引き継ぎをしていると、


チャールズ様がきた。


「チャールズ様、こ「ジュリア、申し訳なかった。」」

「チャールズ様?」

「あの時はアランの怪我を見て、動転してしまった。元はと言えば私が一番の原因なのに、ジュリアを責めてしまった。
本当に申し訳ない。
アランの友人の奥さんを怒鳴ったなどと知れたら、アランに怒られてしまうと思ってな。本当に済まなかった。」

と頭を下げて下さった。

「いえ、私が原因の怪我です。怒鳴られて当たり前なのです。お気になさらないで下さい。」

「今、リリーナ達がアランの所にいる。後でアランに会って行ってくれ。」

と言ってくれた。


「ジュリア、後でアランに会うといい。その前に私は、マリア殿とリリーナに謝罪してくる。」

と言ってハロルドはマリア様達の所に行った。

「母上、前に陛下が、ワソニック家には精霊か何かの加護がついてるのかって騒いでた時がありましたけど、案外、本当かもしれないですね。」

「家と言うより、アラン様にかもしれないわね。」




陛下、私もそう思います、きっとアラン様は妖精が見えると思います。


ハロルドの謝罪が終わったら、私もアラン様に会わせてもらおう。
そして、例え、目覚めていなくても頭を下げよう。
アラン様は目を開けていなくても分かってくれそうな気がするから。














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