84 / 143
新婚旅行編
マリア視点
しおりを挟むアランがドラゴンに攫われたと聞いた時、最初こそ取り乱し泣き叫んだが、一気に感情を出した後は、ボォーっとしている状態だった。
ロイ君が怪我した時のリリーもこんな感じだったのかなぁと思った後は頭が真っ白な状態だった。
カイル様にグランディの屋敷に行こうと言われても行かないと言っているのも分かる、
シェリル様にもリリーにも声をかけられているのも分かる、
自分も大丈夫と答えているのも分かる、
でも膜が張っているように遠くから聞こえているようで自分の中には届いていない感じだった。
アランの執務室に入ると、アランのいつも付けているコロンの香りがした。
あ~アランの香りだと思ったら涙が出た。
ただ立っていた。
どれくらい立っていたのか分からないほど立っていたと思う。
リリーが何か食べようと誘いに来た。
カイル様がいて、アランの話しになった時、
“アラン”と言う言葉に一瞬、膜が取れた。
アランがドラゴンを飼っていいか言うぞと言うので、確かに言うなと思ったら、笑ってしまった。
そうなのだ。
アランは放って置けない人なのだ。
困っていたり、一人だったり、人だろうが動物だろうが、植物だろうが、何にでも手を伸ばしてしまう人なのだ。
たくさんの友人がいて、皆に愛されるアラン。
トーマスを助ける為なら自分が身代わりになるくらいなんとも思わなかっただろう。
ドラゴンの事も気遣い、アランなら楽しく会話しているだろう。
そう思ったら、膜が完全に取れた。
そうだ、きっとアランはドラゴンを引き連れ帰ってきて、“マリア、この子困ってるみたいなんだよね…”と言いそうだ。
私は知っている、アランはそういう人だ。
会話が出来るなら何も心配はいらない。
もう私は大丈夫、と思えた。
そんな時の登城要請。
行きたくない…
おそらく良い話ではない。
だが知りたい、アランに関する事ならなんでもいいから知りたい。
その思いだけで動いた。
アランが攫われてからのトーマス達の様子、
アランがドラゴンと会話をしているのだろうという報告にホッとした。
ハロルド様とトーマスがドラゴンの所に向かった話しは軽く息を飲んだ。
そして、アランがドラゴンの背から落ちたと聞いた時、その場の者全員が息を飲んだ。
ジュリア様の話しに集中した。
隣りでリリーが泣いている。
私も泣いている。
でも、一言も漏らすまいと耳に神経が集まっている。
目はジュリア様から離せなかった。
心はぐちゃぐちゃなのに頭は冷静だった。
アランが落ちた場面からは悲痛な顔でジュリア様は話している。
アランの怪我はトーマスとハロルド様が庇ってくれたお陰で生死に関わる怪我ではなかったようだ。
意識は戻っていない。
でも生きている。
生きてくれていた。
それだけでいい、アランが息をしてくれているのならそれだけでいい。
ジュリア様が泣きながら謝罪していた。
床に頭を付けて、自分のせいだと泣いていた。
そうなんだろう…ドラゴンを怯えさせさえしなければアランは落ちなかっただろうから。
でも、今の私にはアランが生きてワソニックの領地のベッドに寝ている事実だけが重要なのだ。
今は誰のせいなんて関係ない。
早くアランの側に行かなければ、それだけだった。
そして、落ち着いた時、アランが目覚めていたら、怒りや恨みなんて無くなっているだろう。
例え、目覚めていなかったとしても、寝ているアランを見ていたら、目覚めたらこう言うだろう、ああ言うだろうと思って自分はジュリア様を許しているだろう。
影最強と言われているジュリア様が二度と表には出ないと泣いている。
ジュリア様が悪い訳ではないときちんと理解出来たので、私は今思った事、アランならジュリア様を許すであろう事、ジュリア様が気に病む事はないと、これからの事を考えていこうと伝えた。
それからは、皆の緊張が取れたのか、
アランはこう言う、ああ言うといつもの調子に戻った時、リリーも参加して笑顔を見せた。
そこからジュリア様の号泣を止める為にリリーと二人でなんとか落ち着かせた。
ジュリア様は目の前で、アランを攫われ、自分のせいでアランが怪我をしたのを見ていたのだ。
罪悪感に潰されそうになりながらも、私達に自分から説明せねばと思い詰めていたのだろう。
私に罵声を浴びると覚悟して来ただろう。
もう笑顔を向けてくれる事もないだろうと思っていただろう、誰からも。
皆に愛されているアランを怪我させたのだから。
でも、そんなアランだから皆がジュリア様を許すのだ。
アランならそうするだろうと。
さあ、アランの所へ行く準備をしなきゃ!
ドラゴンともお話ししてあげないと!
私はアランがいてくれるだけで、
それだけでいい。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
394
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる