私の婚約者の苦手なもの 番外編

jun

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新婚旅行編

イアン視点

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今、目の前にジュリア、サイモン、元影のセバスチャンがいる。

皆が揃うまでは、何も言わないらしい。

ジュリアの顔が今まで見た事がないほど、憔悴しているように見える。
それが何より不安を煽る。

横のオスカーも嫌な話しだと思っているのだろう、何も言わない。
今日はリチャードもいるが、リチャードは眉間に皺を寄せ、考え込んでいる。

今聞いてしまえば、マリア達が来た時に冷静でいられないかもしれないと思い、聞くに聞けない。

お茶だけが減っていく。


「セバス、久しぶりだな、元気だったか?」

「はい、変わりなく過ごさせて頂いております。」

「急な要請で申し訳なかったな、でも久しぶりの現場はどうだ?」

「そうですね、まだ一日ですので、なんとも。」

「だよな…」

「「・・・・・・・・」」

「…皆、遅いな…」

「もうそろそろかと。」

「そうだな。」

カイル、早く来て…


その時、カイル達が来た事が知らされる。


「すみません、遅くなりました。」

「まあ、皆、座ってくれ。マリアもリリーナもロナルドも済まないな、遅くに。
あー、挨拶は今日は良い。」

「いえ、お待たせ致しました。」

とマリアとリリーナが座った。


「皆様、お揃いになられましたので、今日有りました事象を順を追って説明させて頂きたいと思います。説明は私、イーガー家執事、元影のセバスチャン・プラントがさせて頂きます。皆様宜しいでしょうか?」

「ああ、皆構わないな?」

皆が頷く。

「では、説明させて頂きます。
先ず、明け方のドラゴンによるアラン様の連れ去りの事は皆様はもうご存知で宜しいでしょうか?」

「ああ、皆承知している。」

「では、ジュリア様、チャールズ様、トーマス様がワソニック領に向かっている所からご説明させて頂きます。
トーマス様、チャールズ様は馬車に乗り、ジュリア様は馬にて移動していました。
ワソニック領に入る直前にチャールズ様が馬車をお止めになり、ジュリア様にドラゴンが何か喋っている事をトーマス様とチャールズ様が報告なさいました。
トーマス様は、ずっと何か話しているようなので、アラン様と会話しているのではないかと推察し、アラン様の無事を確信した模様です。ジュリア様も先を急ごうと馬車を走らせ、ワソニック領に入り、まもなく領地のお屋敷という所で馬車の中から大きな声がした為、馬車を止め、中を確認しますと、
トーマス様がご自分の名前をドラゴンに呼ばれたと仰り、ドラゴンは敵意がないから、今すぐ行こうと、ジュリア様に必死に進言なさったようです。どうしようか迷っている所に、ハロルド様が到着し、トーマス様、ハロルド様は土煙が上がっていた場所があると、その場へ馬で向かい、ジュリア様とチャールズ様は屋敷へ向かいました。その後、ジュリア様はハロルド様が向かった先に急いで向かいました。」


「次からは私、ジュリア・イーガーが説明を引き継ぎます。
その後私はハロルド達が向かった所を馬で追い、途中から歩いて向かいました。
ドラゴンが歩いた為に木が薙ぎ倒されていましたので、後を追いやすい状態でした。
ドラゴンが私を警戒しているのが分かり、私も殺気を放ちました。
その後すぐにハロルドが走って私の所に来て、ドラゴンが怯えているので殺気を抑えろと言われました。
ハロルドもドラゴンの声を聴き取れるようになったそうです。

アラン様はドラゴンに“クロ”と名付け、会話をしていたようです。
ハロルドとアラン様とトーマスがいる場所まで行くと、アラン様がドラゴンの背中に乗っていたのが見えました。
何かをずっとドラゴンに話していたようです。トーマスはアラン様とドラゴンから少し離れていました。

私はハロルドの後ろにいて、アラン様を見た後、ドラゴンを見てしまい、思わず殺気を放ってしまいました。

…ドラゴンは驚いたのか急に羽を広げ、上へと飛びました…。

ハロルドは私が殺気を放った瞬間にドラゴンに向かって走り出していました。
トーマスは飛んだ瞬間にドラゴンの下まで行き、手を広げていました…。

アラン様は…急な事で体勢を保てず、ドラゴンから落下しました…」


皆が、息を飲んだ。


「トーマスが受け止めようとしましたが、勢いがあり、受け止めきれず倒れる間際にハロルドが突っ込み二人を抱え込み倒れました。
その際…アラン様は頭を強く打ったようで…身動きしませんでした。

私のせいでこのような事になり茫然自失となり、私は動く事が出来ず、トーマスがクロを落ち着かせ、アラン様を屋敷まで運んでくれるよう頼んでいました。
私にはクロの言葉が分かりませんから確証はありませんが、トーマスの話す内容から推察して、クロはアラン様の事を心配していたようです。
その後、トーマスがアラン様を抱き、その後ろをハロルドが支え、クロがアラン様を労わるように静かに飛んで屋敷まで運んだようです。私はその後に到着しましたので、屋敷に着いた様子は分かりませんが、アラン様にとても懐いていたようですので、とても静かに飛び、静かに到着したものと思われます。

アラン様は今は治療も終えております。
左腕、左足骨折、肋骨三本骨折、頭部裂傷七針、内臓の損傷はありません。私達が領地を出る時までは意識は戻っておりませんでした。
今日有った事象は以上です。

陛下、私からマリア様、リリーナ夫人に謝罪の機会を与えて頂けないでしょうか?」


「・・・・分かった。」

ジュリアは膝と手を付き、額を床に付けた。
「マリア様、リリーナ夫人、本当に私のせいで、アラン様に大怪我を負わせてしまいました事、心から謝罪致します。
私は、アラン様がクロの背に乗っているのを目視していたのに…クロを怯えさせてしまいました…。
ハロルドに殺気を抑えろと言われていたのに…殺気を放ってしまいました…。
アラン様はおそらく私の事を必死にクロに教えていたんだと思います。だから、背中に乗って話していたんだと思います。
それなのに…私は…。
宿でも、アラン様はあの大きなクロに怯む事なく、トーマスを助けようとクロを説得していました。
トーマスを返して欲しいと、自分が行くから返してと、繰り返しておりました。
クロの事も庇っておりました。
産まれたばかりの子供なのだと。
そんなアラン様の苦労を無にする所でした。皆を危険に晒しました。
許される事などない事も分かっておりますが、どうか謝罪させて下さい…

マリア様、リリーナ夫人、本当に申し訳ございませんでした…
この不始末の処遇は陛下、並びに長官のハロルドに一任致しておりますが、お二人のお気持ちに少しでも応えられるよう進言して下さっても構いません。
もう二度と表に出るような事も致しません。
ですが、クロは私に怯えた為の事でございます、どうかクロの事は許してあげて下さいませ。」


と、頭を下げ続けた。


「ジュリア様…頭を上げて下さい。」
とマリアが言った。

マリアもリリーナも涙をポロポロ溢していた。

「セバスチャン様とジュリア様の説明でどのような事があったのかよく分かりました。
今は混乱していて、考えがまとまりません…。
今、考えられるのは一刻も早くアランの元に行かなければという思いだけです。
昨日からずっとジュリア様はアランやトーマス、チャールズ様に付き添い、守って下さっていたのでしょう。
そして目の前でアランが攫われたのです、
殺気も出てしまうのでしょう。
ですが、殺気さえ出さなければとも、やはり思ってしまいます。
謝罪を受ける受けないも、今は何も考えられません…。
ですが、おそらく、アランは目覚めたら、自分の事よりも、トーマスやハロルド様、ジュリア様の事を心配するでしょう。
怪我はなかったのかと。
そんなアランがジュリア様を許すのならば私はジュリア様に恨みや怒りを向ける事はありません。
もちろん娘もです。
ですから、今はアランが目覚める事だけを考えましょう、ジュリア様。
そして、クロ?をどうするのか皆で考えましょう。そして、ジュリア様が引っ込んでしまっては誰が万が一の時、戦うのですか?
ですので、二度と表に出ないなどと仰らないで下さいよ!」

とアランの妻らしい言葉をジュリアに向けた。

そうだなと思った。
アランは目覚めたらそういうだろうと、ここにいる皆が思っただろう。

ジュリアは何も分からない状況で行ったのだ。
アランを攫われ、夫とトーマスもドラゴンと共にいる。
殺気も出てしまうのも仕方ない。
だが、マリアも言ったように、殺気さえ出さなければとも思う。

ジュリアは自分の責任だと感じ、魔王と言われたジュリアが動けなくなるほどの罪悪感に苛まれたのだろう。

ハロルドにも叱責されただろう。

それでも自分で報告せねばと、
マリアとリリーナに自分が言わねばと、気持ちを奮い立たせてここまでジュリアは来たのだ。

そして、そんなジュリアを心配し、ハロルドはセバスを一緒に来させたに違いない。

「ジュリア、マリアもこう言っている、そんな所にいつまでも座っているな。」

「陛下・・・私は自分が許せません…」

「そうだな、確かにジュリアが殺気を抑えていたらこんな事にはならなかったのかもしれない。
だが、別の事でドラゴンを怒らせたかもしれない。
誰もドラゴンの事など分からんのだから。
アランはお前を笑って許すぞ、きっと。
“もう~ジュリア様、そんなに怖い顔してたらクロが怖がるに決まってるじゃないですかぁ~”てな。」

「私もそう思うぞ、ジュリア。
アランなら“ドラゴン相手に殺気を放てるのはやっぱり魔王様だけですね”って言うと思う。」

「違いますよ、オスカー様。アランなら、“ジュリア様は殺気なんて放たなくても素でドラゴンが怯えますから~”ですよ。」

「違うぞ、カイル、アランなら“ジュリア様、子供相手に大人気ないなぁ~”だよ。」

「リチャードはまだまだだな、「いつまで続くんですか?」」

とリリーナ。
一斉にリリーナを見た。

真っ赤な目で、

「お父様の目覚めの一言は“お腹空いた~”ですよ!ジュリア様には、“ジュリア様、心配かけてごめんなさい”です!」

と言って笑った。


ジュリアがそれから号泣し、サイモンが宥めたがダメで、マリアとリリーナがジュリアを慰めていた。

俺はアランが怪我したと聞いた時、一瞬、ジュリアを憎んだ。

ひょっとしたらマリアもリリーナも思ったかもしれない。
でも、アランの想いを優先した。
アランならそうするだろうと。


この家族…やはり精霊か何かに愛されているのかもしれないと心から思った。

そして、

「マリアとリリーナに話しておく事がある。」
と言い、リリーナ、そしておそらくマリアもドラゴンに選ばれている事を告げた。

「マリア、リリーナ、ワソニック領へ行ってこい。後は私達に任せなさい。」

そう言い、二人を帰した。
二人の顔はアランの怪我を聞いた時とは違っていた。

アランに会える事が嬉しいのだろう、例え、意識がなかったとしても。


俺もアランに会いたいなあ~。


アランがいないと…つまらん…。










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