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新婚旅行編
サイモン視点
しおりを挟むアラン様の救助に向けての対応が着々と進んでいっている最中、ハンスから報告があった。
“ドラゴンの雄叫び”が聞こえたと。
城には聞こえはしなかったと思う、誰も騒いではいないから。
殿下もロナルドも聞こえなかったと言う。
「サイモン、どう思う?」
「何かあったとは思いますが…」
「父様は、アラン父様は大丈夫でしょうか?」
「今は何とも言えないな…」
「とにかく、父上に伝えてくれ。」
陛下に報告すると、
「最初の鳴いた時は、トーマスを見つけた時か?うーーーーん、当事者が誰もいないから分からんな…影はもう向こうに行かせたのだろう?」
「はい、到着したら父か母から何か報告があると思いますので、それからですね。」
「そうだな…何もなければいいが…。
サイモン、ハロルドから連絡があったらすぐ報告しろ。
お前にばかり負担をかけて済まないな。」
「いえ、私の仕事ですから。では、報告が有り次第伺います。」
今はもう夕方だ。
セバス達に向かわせたのが昼よりだいぶ前だった。
最速の馬を使ったのなら、もう到着しただろう。
とんぼ返りしたとしてもまだ先だ。
殿下の執務室で、
「ドラゴンが鳴く時って、どんな時だと思います?」
と聞いてみた。
「怒った時とか、悲しい時とかか?」
「そうですね、怒った時が多そうですよね。」
「ですよね…どんな時怒ります?」
「どんな時…気に入らない事があった時だろうな」
「気に入らない事…そのドラゴンは人を選んでますよね、選ばれてない人が近付いたら怒りますよね?」
「まあ、怒りそうだよな、って、ハロルドかジュリア殿の事?」
「そうだと思います。おそらく何か父か母に対して怒ったのではないかと。」
「それってヤバくないか?アラン殿はどうなる?他の皆も、もちろんハロルドもジュリア殿も!」
「そうです。かなりヤバい事があったと思います。なので、その心算でいて下さい。
もちろん私もですが。」
「・・・・リリー達にはまだ何も言わない方が…いいですよね…」
「何も確証がないのでハッキリするまでは言わない方が良いと思う。ロナルド、大丈夫か?」
「僕は…大丈夫です…」
「ロイ、まだそうと決まったわけではない。だが、何が有ってもお前がリリーちゃんを支えなければならない。俺もサイモンもいる。気を強く持て。」
「…ありがとうございます。大丈夫です、リリーとマリア母様は僕が守ります。」
酷だとは思ったが、突然知らされる悪い知らせよりも、先に克明にこの先の最悪を予想させるのも大事な事だ。
父と母もいる。アラン様の機転もある。
大丈夫だと思う。
でも得体の知れない生き物だ。
何があってもおかしくはない。
一度、ハンスと打ち合わせした方がいいかもしれない。
「殿下、隣りの対応はもう大丈夫そうですか?」
「大分、落ち着いてきたようだが、事が事だ、しばらくザワザワはしてるだろうが混乱はないようだ。宿を規制している警備隊には何か大きな鳥が数羽、ガラスに写った自分に驚いて暴れたと説明させている。」
「何ですかそれ?そんなんで、納得します?」
「だって他に言いようがないだろう!ドラゴンとは言えんし、かと言って地にいる獣とも言えんし、鳥しかないだろう!」
「まあ、そうですけど」
「だろ?」
「とりあえず、ハンスと打ち合わせしときたいので、行ってきます。」
「分かった。サイモンは大丈夫か?」
「私は大丈夫です。ありがとうございます。何かあったら報告にきます。
ロナルド、大丈夫だ、ウチの魔王が行ってんだ、ドラゴンくらい倒すぞ、あの人。」
「魔王…ハハ、そうですね、ありがとうございます!」
いつもとは全く違うロナルドに軽口を叩いて執務室を出た。
さすがの魔王もドラゴンは倒せないだろう…。
馬でハンスがいる宿まで行き、おそらく今夜何かしらの報告が来る事を予想し、増員の場合の人選を話し合ったり、誰かが襲われた時の事を話し合ったりしていた。
一番の最悪はアラン様が襲われた時だろう。
次はトーマス、チャールズ様、
父と母は…仕方ない…。
覚悟は出来ている。
ハンスと気を引き締め、今まで一番の集中力を出し、ピリピリしている時に、
母とセバスが宿に来た。
一度も休まず来たのだろう、馬も限界だ。
「母上、何があったのですか?セバスだけではなく何故母上も一緒に?」
「若、私から報告致します。少しジュリア様には休憩させて頂きたいです。これからの事もありますので。」
とセバスが言った。
「サイモン…私のせいでアラン様が大怪我をした…詳細はセバスに聞いて。私は陛下に報告しなければならないから軽く汚れを落とすわ…」
考えられない程小さな声で呟くと、空いてる部屋に入って行った。
「セバス、どういう事だ!」
セバスから聞いたアラン様が怪我をした経緯は、
これから陛下達、
リリーちゃん達に自ら報告するには辛いものだった…。
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