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新婚旅行編
ハロルド視点
しおりを挟む夜明け前、地響きする程の何かの鳴き声が響いた。
咄嗟にドラゴンを思い出し、飛び起きた。
窓を開け、ジュリア達が向かった方向を見る。
何も見えはしない。
カトリーヌが飛んできた。
「お父様、今のは?」
「何だろうな、まだ分からない。」
「ドラゴンの鳴き声ではないのですか?お母様やアラン様達は大丈夫でしょうか?」
「何かあれば連絡が来るはずだ。カトリーヌは心配せず、休みなさい。まだ、早いよ。」
「・・・気になって眠れません…」
「ここか、陛下に連絡が行くまでは動けない。
部屋で待ってなさい。」
「・・・分かりました…何か分かったらすぐ教えて下さいね。」
「分かったよ。」
さっきのはおそらくドラゴンだろう。
と言う事は襲われたのか…。
落ち着かないまま、連絡を待った。
ハンスが飛び込んできた。
「ドラゴンが出ました。アラン様がドラゴンに攫われました。隣り街の宿屋に昨日は泊まりにました。」
「ハンス、少し落ち着いてから、話しなさい。」
「…はい、すみません…。」
「何があった。」
「夜明け前、急に大きな音…鳴き声がしたので、飛び起きて外に出ました。
空に真っ黒なドラゴンがトーマスを捕まえていました。アラン様は必死にトーマスの名前を呼び続けましたが、反応はありませんでした。おそらく気絶したのかと。
その後、ドラゴンとアラン様が何か会話をしていたようです。
私達にはただの音にしか聞こえませんでした。その後、すぐジュリア様とアラン様の部屋に戻り、ジュリア様がドラゴンに向かって行こうとしたら、アラン様が産まれたばかりだからやめろとジュリア様を止めました。
そして、大丈夫だからと、後は頼むと言うとドラゴンがアラン様を捕まえ、飛んで行きました。
その後すぐに長官に連絡するようジュリア様に言われたのでここに来た次第です。」
「最初はトーマスが捕まえられてたんだな?」
「はい、皆でトーマスの名前を呼びました。」
「そして、何かアランとドラゴンは会話していたんだな?」
「はい、でも俺には言葉とは認識出来ませんでしたが、アラン様の言葉に反応していたようです。」
「何故、トーマスを離した?」
「移動している時の会話は分かりませんが、アラン様は必死にトーマスを返せと言っていました。」
「アランは大丈夫と言ったんだな?」
「はい、大丈夫だからと。」
「フゥーーーーー。トーマスの怪我は?」
「骨が折れてはいなかったようです。風圧で割れたガラスによる切り傷くらいだと思います。」
「チャールズ殿は?」
「怪我はなかったと思います。すみません、チャールズ様の怪我を確認してませんでした。」
「気にならなかったのなら、大きな怪我はないのだろう。
ハンス、大丈夫か?」
「・・昼間、トーマスとたくさん話しました…。初対面でも気さくに俺と話してくれました…
アラン様も楽しく昼食を取りました…
何も出来なくて…アラン様も助けられなくて…俺…」
「ドラゴンなんてものと誰も出会った事もないんだ、気にするなと言ってもダメだろうが、今はやるべき事をしろ。泣き言は終わってからだ。お前はすぐジュリアの所へ戻れ。私はワソニックに行ってから、陛下に報告し、人員を送る。」
「御意」
ハンスがまた飛び出して行き、入れ替わりにカトリーヌが入って来た。
「お父様!何があったのですか?さっきいたのはハンスです。一体何があったのですか?」
「アランがドラゴンに攫われた。だが、ドラゴンとは会話をしていたらしい。
すぐ、ワソニックに行く。カトリーヌは家にいろ!いいな!」
「…はい。」
すぐに馬の準備をさせる。
執事のセバスが、
「ワソニック家の方々には大恩がございます、わたくしに出来る事があればいつでも動きます。」
「ああ、その時は頼む。」
「長官、大丈夫ですか?」
「・・アランは私の友だ。必ず助け出す!」
「はい、ご武運を。」
ワソニック家に馬を走らせながら、アランの顔が浮かぶ。
唇を知らず、噛んでいたのか血の味がする。
手綱を握る手に力が入る。
少し落ち着かなかければ…。
息を深く吸い、長く息を吐いて落ち着かせる。
ワソニック家に着き、急ぎマリア殿に目通り願う。
「ハロルド様、こんな早くにどうされました?」
「早くから申し訳ない。
マリア殿、落ち着いて聞いてほしい。
アランがドラゴンに攫われた。」
「え?ハロルド様、今なんと?」
「アランが夜明け前、ドラゴンに攫われた。」
「アランが…攫われた?」
「マリア殿、座って話そう。」
「攫われた・・・ドラゴンに・・・アラン、アラン、イヤ、アラン、アラン、イヤーーーーーーー、ハロルド様、助けて下さい。アランを、アランを助けて下さい、アランが死んでしまう、早く、早く助けに行って下さい、お願いします、お願いします、お願い…」
マリア殿は私にしがみ付き、倒れそうだ。
「必ず、アランを助ける!
誰か、どこか落ち着ける場所を貸してくれ!詳しく説明する!済まないが、グランディのカイルとリリーナ、ロナルドにもすぐ来るように連絡してくれ!」
近くの部屋に入り、マリア殿をソファに座らせる。
「今、リリーナ達を呼んだ。
先にカイルを呼べば良かった。済まない。」
「申し訳ございません…取り乱しました。」
「今、話しを聞くか?カイル達が来てから聞くか?」
「カイル様達を待ちます。申し訳ございません…」
「そうしよう。お茶を持って来させよう。」
「ハロルド様…アランは…生きて・・・」
「アランとドラゴンは会話していたそうだ。産まれたばかりだからと、言っていた。
と言う事は意思疎通が出来ている。
だから、アランは生きている可能性が高い。大丈夫だ、アランは機転がきく。
周りの者皆から愛される男だ。
ドラゴンにも懐かれているだろう。
そう思わないか、マリア殿。」
「・・・そうかも・・・しれませんね…ありがとう…ございます…ハロルド様…」
「お母様!」
「ハロルド!」
「マリア母様!」
「ハロルド、何があった!アランは?」
「今、説明する。皆、座ってくれ。」
そして、分かっている事を説明した。
リリーナはマリア殿と抱き合って泣いている。
カイルとロナルドは黙ったままだ。
「カイル、私は陛下に報告しに行く。
ここを頼めるか?」
「ああ、大丈夫だ。」
「それでは行ってくる。
マリア殿、リリーナ、必ず、アランを取り戻す。信じて待っていてくれ。」
部屋から出ると、カイルとロナルドが追いかけて来た。
「ハロルド、頼む、アランを必ず助けくれ!頼む…」
「ハロルド様、僕からもお願いします。アラン父様をどうか…どうか…助けて下さい…」
「分かった、必ずだ。」
それしか言えない自分が情けないが、陛下の元へ急ぐ。
馬を最速で走らせ、王宮へ走り込む。
今まで走った事などない王宮を駆け抜ける。
「陛下ー!」
「ハロルド、今朝のあれは何だ!アランは大丈夫なのか!」
「申し訳ございません…アランが…ドラゴンに攫われました。」
「クソッ…‼︎」
「アラン達は朝方、何か聞こえると窓を開けて外を見ていた所にドラゴンが来たようです。
最初はトーマスを捉えたようですが、
ドラゴンはアランと会話したそうです。
その後、トーマスを解放し、アランを攫ったとの事です。」
「会話してたとは?」
「ジュリア達にはただの音に聞こえたそうですが、アランは必死にトーマスを返せと言っていたそうです。
その後に何かドラゴンが話し、交渉が成立したのかもしれません。
取り急ぎの情報なので、今はまだこれだけです。」
「トーマスの怪我は?」
「目立った外傷はなかったそうです。
後、アランがドラゴンは産まれたばかりの子供だと言って、ジュリアの攻撃を止めたそうです。」
「子供…やはり孵ったばかりなのだな。」
「陛下、アラン達は隣り街にいたそうです。すぐ、人員を増やしたいのですが。」
「ハロルド、お前が行け!ここは何とでもなる。サイモンは行かせられないが、お前が行け!そして、アランを絶対連れ帰れ!絶対だ!頼む…ハロルド。何人でも必要な数連れて行け。早く…行け…」
「御意」
ルイジェルド殿下の元へ行き、サイモンに伝える。
二人は驚いて何も言わない。
「もう行く、サイモン、ここを頼む。」
「父上、・・お気をつけて。」
「ああ、行ってくる。」
廊下を走らず、ゆっくり歩いて気持ちを落ち着かせる。
己の手が微かに震えていた。
何事にも冷静でいられるよう幼い頃より訓練してきた。
誰よりも冷静でいられる自信があった。
陛下への襲撃事件も、カトリーヌの件も冷静に対処してきた。
なのに…
あのいつでも優しい笑顔を失くすのが何より怖い…
生まれて初めての恐怖を抑え込み馬に乗った。
アラン…待っていろ。俺が必ずお前を助け出す。
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