私の婚約者の苦手なもの 番外編

新婚旅行編

アラン視点

昼間話しに盛り上がり過ぎて宿屋に泊まってしまい、ほとんど進んでいない。
まあ、明日早くに出れば着けるだろう。

叔父上と明日は早いからと早めにベッドに入った。


明け方、何か聞こえ、目が覚めた。

隣りを見ると叔父上も起きていた。

「何か聞こえたか？」

「聞こえた。なんだろう…」

何か微かに聞こえる。

外からだろうかと二人で窓を開けた。

すると、隣りの部屋のトーマスも窓を開けた。

何か聞こえたかと聞いてきたので、聞こえたと答えた。

この街に知り合いがいる訳でもなく、ましてやまだ日も明けていない。

段々声が聞こえてくる。

耳を澄ますというより、神経を集中させる感じで聞く。

誰かを探しているようだ。


そして、

見つけた。

それはそう言った。


気付けば空に巨大な真っ黒なドラゴンが飛んでいた。

一瞬動けなくなった。
トーマスに逃げろと叫んだが、ドラゴンの鳴き声で動けない。


トーマス、トーマス、…声が出せない…


やっと声が出せて叫んだ。

「トーマス、トーマス、トーマスを返せーーーーーーー！」

さっきの鳴き声でジュリア様、ハンスも飛び起きたのだろう。
外にいて、息子の名前を呼んでいる。


「頼む、トーマスを返してくれ！お願いだ、トーマスを、トーマスを返してくれーーー」

「・・・・・・ﾄｰﾏｽ、ｱｿﾝﾃﾞ、ﾘﾘｰﾅ、ｱｿﾝﾃﾞ」

遊ぶ？子供？そうか、産まれて左程経っていないのか！
リリーナ？リリーナも選ばれたのか…


「遊んであげるよ、でも、ここでは遊べないんだ。」


「ｻﾐｼｲ、ﾂﾚﾃｲｸ」




「待って、待って、頼む！俺が行くから、俺が行くから、トーマスを返してくれ、頼む…」

「ｱﾗﾝ、ｱｿﾌﾞ」

「うんうん、遊んであげるよ、だから、トーマスを返して、お願い！」

「やめろ、アラン、ダメだ！」

「叔父上、俺は息子を助ける為ならなんでもするよ、後の事は頼んだから。大丈夫だから！


俺が行くから、トーマス返してくれる？」

すると、トーマスをこちらに投げてきた。



息子を叔父上と二人で受け止めて、

「叔父上、トーマスと下がってて。」


「「アラン様！」」

外にいたジュリア様達も部屋にきた。


「アラン様、離れて下さい、私がやります。」

「だめだよ、ジュリア様。あのドラゴンは産まれたばかりの子供なんだ、言い聞かせれば大丈夫だよ、でも今は行ってきますね、後の事、よろしくお願いします。」



空を飛んでいるドラゴンがこちらに滑空してきて、思わず目を閉じた。

身体が締められて苦しい。


「少し…力…抜いて。」

するとほんの少し緩めた。



そしてあっという間に高く飛び、それからは意識を失った。











〈ドラゴン視点〉

ここはどこ？
とっても狭いところ。
丸まっていないといられないところ。
暗くてうるさいところ。


いっぱい音がする。
どの音も嫌い。
眠れないよ。
嫌いな音ばっかり。
嫌いな音がする。
嫌い。
身体に力が入る。
嫌いなの、あっちいって。

ギュッとしてたら嫌いな音がしなくなった。


嫌いな音ばかりだけどたまに好きな音がした。
でもすぐ聞こえなくなる。
だから眠る。


眠っていたら好きな音がした。
この音が好き。
この音ならぐっすり眠れそう。
うわあ、ずっと聞こえる。
うれしい…


あ、この音嫌いな音だ。
でもいつも好きな音が聞こえる。
うれしい。


好きな音はいつも“ちゃーるず”、
嫌いな音はいつも“きーす”


好きな音が聞こえない。
でも、違う音がする。
この音は好き。

でもいつもじゃない。


この音は“あらん”
好きな音。あったかい音。


でもすぐ聞こえなくなる。



いっぱい寝た。


なにも聞こえない。





ふたつ、聞こえる。
好きな音、ふたつ。
“あらん”みたいな音。


僕をいつも起こしてくれる音。
二つ、
“とーます”
“りりーな”

楽しい音。


トントントントン


僕を起こしてくれてる。


“とーます”
“りりーな”


“あらん”

もう一つ、聞こえる。

“まりあ”


ここは好きがいっぱい。
“とーます”
“りりーな”
あそぶ。
トントントントン



だから、いっぱい眠れる。





起きた。


何も聞こえない。


“あらん”

“とーます”

“りりーな”

“まりあ”

“ちゃーるず”


聞こえない。


ここから出たい。


また遊んで。


もう眠くない。


もうここから出る。


出たい、出たい、


出たい、出たい、出たい。


ギュッと力をいれる。

口でトントンする。


手も足もグッ、グッとやる。


もっといっぱいギュッとする。




パリ…パリパリ…



もっともっと。



パリパリパリパリパリパリパリーン





うわあー明るい…



いっぱい聞こえて、いっぱい見える…


あらん、いない。

とーます、いない。

りりーな、いない。

まりあ、いない。

ちゃーるず、いない。


こわい…


こわい…



はねをバタバタしたら少しとべた。

でも少し。


おうち、ぼくのおうち、


したは、うるさい。

うえは、しずか。


うえでねむりたい。


すこし、ねむる…




とーますの音、ちいさい。

きこえる。


ちいさい。


とーます、


まだ、少ししかとべない。



とーます、音、ちいさい音。


まだ少ししかとべない。



とーます、いつも、ちいさい音。


ちょっととべる。



いっぱい、とべたら、とーます、大きい音になる？




いっぱい、いっぱい飛べるようになった。



とーます、どこ？


とーます、あっち？


でも、嫌いな音、いっぱい。

怖い…。



また、小さい音。




好きな音、いっぱい、ちいさいけど、いっぱい。


とーます、あらん、ちゃーるず、小さい音、

でも、いっぱい。


行くよ、どこ？


あっち、大きい、


さがしてるの、


あっち、あったかい音、



いっぱいする、あっち、もっとあっち、





とーます、みつけた。


あそんで。


あらん、ちゃーるず、



あらん、かなしい音、



あらん、あそんでくれる？



とーます、あそびたい…


あらん、かなしい…


かなしい、いや。


あらん、いっしょ。


うれしい。