貴方だったと分かっても

jun

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アティリア国へ

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レイチェル視点


私が目覚めてからの日々は目紛しく過ぎていき、ダニエレ様や皆のお陰で少しずつ食事や軽い運動、ダニエレ様を囲んでお兄様やテレスとの楽しいお茶会など幸せな時間を送っている。
私の体力が戻り次第、ダニエレ様と一度アティリアに行き、御挨拶をすることになった。
何度もお兄様が国を空ける事も出来ないので、テレスがついてきてくれる事になった。
ダニエレ様は一旦戻ればこちらにはなかなか来る事が出来なくなるので、帰りはテレスと二人きりになるのに気付くと、テレスと喧嘩?していた。

「テレスとレイチェルが同じ馬車に二人きりなんて耐えられない…だってテレスは男も惚れる男前だから!」
と言って、テレスの顔を真っ赤にさせた。
それを見て、みんなで大笑いしてしまった。

「お前はホンットにバカだな!馬鹿ダニ!」

「ダニって言うな!血ぃ吸うみたいだろ!」

「テレスは照れ屋のスだもんな!」

「泣き虫王子!」

「テレスだって初めて会った時泣いてたくせに!」

「うるさい!お前のせいだろ!」

なんだか兄弟喧嘩みたいで微笑ましい。

ダニエレ様はすっかりみんなと仲良くなり、王子様なのに気さくですっかり人気者になってしまいました。

でも事情を知らない方は、

「あの美しい方は何方かしら?」
と年頃の令嬢の方々から追いかけまわされています。
でも、その都度ダニエレ様は走って逃げ、あちこちに避難所を作っては、楽しそうに私に教えてくれています。

「厩にはさすが令嬢は来ないね、次は厨房。」
「騎士隊の訓練所に逃げ込んだら、捕まってえらい目にあったよ」
「間違えてロルフの執務室に逃げ込んだら、雑用をテレスに押し付けられた!」

など自分の家のように伸び伸びして、毎日の報告が楽しい。
そんなダニエレ様をお父様もお母様も楽しそうに見守ってくれていて、私も嬉しくなってしまい、意外とテレスとウマが合うのか、何かとテレスに引っ付く姿は、昔の私のようで笑ってしまう。

そんなこんなでダニエレ様がアティリアに帰る前日、仲良しの騎士の方々や王宮で働く職員の方々も交えて、簡単な送別会をした。

ダニエレ様は、みんなにまた来てほしいと声をかけられ、行かないで欲しいと庭師の爺やに泣かれてしまった時は、
「爺やーー」と言って抱き合いながら泣いていた。
ダニエレ様は本当に泣き虫で優しい人だ。


次の日、お父様、お母様、お兄様に見送られ、沢山のお土産とともにアティリアへ向かった。
馬車の中では、書類仕事をしていたテレスは目を真っ赤にしたダニエレ様に、

「鬱陶しい!そんなに帰りたくないならレイチェルの婿になればいい!
そして俺がこき使いまくってやる!」

「え?いいの?」

「婿に来るか、レイチェルが嫁に行くかしかないだろうが!
レイチェルが虐められるかもしれないからお前が婿に来たら問題ない。
それを詰める為に俺が行くんだよ!」

「じゃあテレスの家の養子になりたい」

「ハア⁉︎絶対嫌だ!こんな弟いらん!」

「フフ、私、子供の時、全く同じ事テレスに言った事があるわ。」

「フン、所詮お前は子供と同じと言う事だ。」

「俺は…テレスが好きだから…言ったのに…」

「は⁉︎馬鹿ダニ、黙れ!仕事するから黙ってろ!」

「テレス、耳真っ赤…」

「レイチェル!
ホントにお前達は似た者夫婦だな、俺のことを好き過ぎる!」

そんな楽しい道程をゆっくり進み、アティリアに入国すると、

「ハァ~」とダニエレ様は溜息が増えた。

「どうしたのですか、ダニエレ様。」

「帰りたくないなぁって…用事が済めばレイチェルもテレスも帰ってしまうだろ…。
仕事も山積みだし…」

「お前がアハハオホホと遊んでたんだ、当たり前だろが!」

「遊んでたんじゃない、交流を深めてたんだ!それに後半は訓練とテレスの雑用で一日が終わってた!」

「はいはい、ほら王都に入ったぞ。」

「ハァ~」

「レイチェル、なんとかしろ、うるさくて集中出来ん。
お前分かってる?お前とレイチェルの事なんだからな。」

「はい…すみません、兄上…」

「いつ俺がお前の兄貴になったんだ!」

「気持ちはいつでもテレスとロルフの弟だった…」

「フフ、それは五月蝿そうな兄弟ですね。」

そんな会話しているうちに王宮に到着した。


正門に到着し馬車から降りると、
国王陛下、王妃様、クルト王太子、おそらくヘルマン様が出迎えてくれた。

「父上、母上、長らく城を留守にしすみませんでした。只今帰りました。
クルト、ヘルマン、迷惑かけて申し訳なかった。」

「ダニエレ、無事帰還出来て良かった。
レイチェル姫も長距離の移動は疲れたであろう、ゆっくり身体を休めなさい。」

「国王陛下、王妃陛下、ナースカス国第一王女レイチェル・ナースカスが御挨拶申し上げます。
私の為にダニエレ様を長期間拘束してしまい、申し訳ございませんでした。
また、お見舞いのお手紙、贈り物もありがとうございました。
両親、兄からのお礼状も預かっております、後ほどお渡しさせて頂きとうございます。」

「レイチェル様、さあさあ身体が冷えてしまうわ、中に入りましょう。
フフ、後ろにいるダニエレが睨んでいるから早く行きましょう。」

「はい、あのクルト王太子に御挨拶を…」

「中に入ってからで構いませんよ、兄上が姫が心配で五月蝿いですからね。」

「フフ、そうですよ、レイチェル様行きましょう。」

後ろから来るダニエレ様とテレスにクルト様とヘルマン様が小声で何か話しているけど、テレスはクルト様ともヘルマン様とも会った事がないのに、親そうなのはどうしてだろう?

「レイチェル様、あちらでのダニエレは…どうだったのでしょうか…」

「フフフ、ダニエレ様は我が家のように伸び伸びされておりました。
一緒に来た私の元婚約者のテレスとは兄弟のような仲になっています。
私よりも友人が多いくらいでしたよ。
送別会では行かないでくれと庭師の爺やと抱き合って泣いていました。」

「まあ!あの方はテレス様なのですね。お手紙は何度か来てきたのですよ。
ダニエレの様子もマメに報告してくれていましたが、そんな様子は書いてなかったわ。
そう…そんなに温かく迎えて下さったのですね…」

「ダニエレ様のお人柄もあると思います。大人気でしたから。」

「フフ、そうなのね、後でゆっくり教えてね。」

「はい。」

「なんだか楽しそうだな、私も後で混ぜておくれ。」

「ダニエレはあちらで我が家のような振る舞いだったそうですよ。」

「なんと!様子は手紙で知っていたが、気を遣っておられるとばかり思っておった。
そんなにあやつは伸び伸びしておったとは…。心配して損したな。」

「さっきまで帰りたくないと溜息をはかれておりましたよ。」

「まあ、それほどなの?もう親不孝者ね!」

「私の兄が言っておりました。
ダニエレ様のご両親は素晴らしい方だと。
そんなご両親だからこそダニエレ様は我が国にいても皆から慕われるのでしょう。」

「まあ!私は会っていないけど、こう見えてこの人とっても優しい人なのよ、だからレイチェルちゃんも気軽にね。」

レイチェルちゃん…

「フフ、ありがとうございます。」


後ろでは男性陣がワチャワチャしているけど、
緊張していたダニエレ様のご両親への挨拶は無事何事もなく終わり、少しホッと出来た。













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