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誠意には誠意を
しおりを挟むダニエレ視点
泣いていたサンドラが顔をあげると、跪き言った。
「ナースカス国王太子殿下…この度は大変申し訳ございませんでした。
私は、嫉妬心と逆恨みで王女殿下に悪意を持って今回の事を計画致しました。
どんな処罰も受ける所存でございます。
王女殿下に対し、取り返しのつかない事をしてしまい、本当に申し訳ございませんでした。心から謝罪させて頂きます。
二度とこのような事は致しませんが、
先程王太子殿下が仰った通りに戒めの為にも私をずっと監視なさって下さいませ。
ダニエレ様、改めて謝罪させて頂きたいと思います。
私の醜い嫉妬心が貴方様と貴方様の大切な方に肉体的にも精神的にも償いきれない程の傷をつけてしまい、申し訳ございませんでした。
今の今まで反省も後悔もしておりませんでした。
幼馴染みと呼んでくれていたダニエレ様、ヘルマン様のお心も踏み躙ってしまい、申し訳ございませんでした。
どうか私を北の修道院に送って下さいませ。
その地で皆様の、この国の、そしてナースカス国にいるレイチェル様の幸せを生涯祈っていこうと思います。
本当に申し訳ございませんでした。」
両膝をつき真っ直ぐ俺たちを見つめていたサンドラは、床に手を付き頭を下げた。
憑き物が堕ちたようなサンドラの姿を3人で見ていた。
貴族牢を出た俺達は無言で歩いた。
俺の自室に3人で入ると、
「サンドラはどうして急に態度を変えたんだろう…」
とポツリとヘルマンが言った。
「君のお陰だろうね、彼女に真っ直ぐ向けた言葉がスッと心に入ったんだろう。
ヘルマン殿がサンドラ嬢を想い、語った言葉と最後の言葉で我に返ったんだよ。」
「俺は…私はただ悲しかったし、怒っていた。
もう昔のサンドラはいないんだと…。
俺の言葉が届いて、素直で一生懸命なサンドラに戻ってくれたのなら嬉しいです…。
それにしても・・・恥ずかしい…」
と言って耳を赤くして手で顔を覆ってしまった。
「でも私は良い報告が出来そうで良かった。一時は戦争でも起こそうかと思っていたよ。」
「本当に申し訳ありませんでした。
ただただ私が至らなかったばかりに、このような事になったこと、謝罪致します。
申し訳ございませんでした。」
「いえ、ダニエレ殿も被害者ですから。
サンドラ嬢からの心からの謝罪も頂きましたし、ヘルマン殿の今後も楽しみですし、後は妹が目覚めるだけです。」
そうだ、俺はナースカス国に行ってレイチェルを起こしに行かなければ。
レイチェルが待っている。
「陛下の許可は貰っていますので、俺はいつでも出発しても構いません。いつ出発されますか?」
「では明日にでも行きましょうか。」
「はい」
そして王太子と元王太子と数名の護衛を連れて、ロルフ殿が来た道を戻るかたちでナースカス国へと急いだ。
俺の夢の話しを聞いていたからか、ロルフ殿も何処か安心しているようで、男だけの長旅は野営をしながらワイワイ楽しかった。
のんびりしていた気がしていたが、計算よりも早くナースカス国に入国出来た俺達は、レイチェルがいる王都へと急いだ。
そして、今ナースカス国王に謁見する為に大急ぎで支度し、ロルフ殿と謁見の間にむかっている。
「ダニエレ殿、父上も母上も貴方にお会いするのを喜んでいた。
あんまり緊張なんかしなくてもいいからね。」
「両陛下にお会いする事は大丈夫なのですが…その…テレス殿にお会いするのが…ちょっと緊張するというか…」
「あ~テレスね。見た目は違うけどヘルマンと変わらない感じだよ。
だから大丈夫。
自分の大切なものの為にできる事をする男だから。」
「とても素敵な方なんですね…」
「まあね、妹を任せられる男だからね。
でもね、俺もテレスも一番大事なのはレイチェルの幸せだから。」
「はい、ありがとうございます、落ち着きました。」
謁見の間かと思えば、どうやら陛下の自室のようだ。
ゆったりソファに両陛下が座っていた。
近寄り、礼をしようとすると、
「ダニエレ殿、礼はいらないので、そちらにかけてくれないかな。」
「はい…」
気が削がれ、挨拶もままならないうちにロルフ殿の隣りに座らされた。
「では改めて、私から両親を紹介しようかな。私の父のドミニク・ナースカス。この国の国王だね。隣りが母のエミリア・ナースカス。
父上、母上、こちらがアティリア国第一王子のダニエレ・アティリア殿です。」
「お初にお目に掛かります。
私がダニエレ・アティリアと申します。
急な訪問、申し訳ございません。」
「こちらこそ息子が押しかけて申し訳なかった。
私がドミニク・ナースカス、一応この国の王様をやっているんだよ。」
「初めましてダニエレ様。私がロルフとレイチェルの母でこの国の王妃を面倒だけどやっている、エミリアよ、よろしくお願いしますね。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「先ずはあの夜会に出席出来なかった事、申し訳なかった。
私さえ行っていれば、こんなややこしい事にはならなかった。
今でも良かったのか悪かったのか分からないが、窶れていくレイチェルを見ているのは辛かった。
ダニエレ殿が来てくれて、正直有り難い。
アティリアの方でも大変だったようだが、もう落ち着いたのかい?」
「まだまだやる事はありますが、今優先するべき事はレイチェル姫の回復、それのみだと思っております。
ロルフ殿からどれほどの報告があったのかは分かりませんが、私はアティリアで意識を無くしている間に見ていた夢の中で、レイチェル姫にお会いしました。
一人暗い中、泣いていました。
真っ暗で自分の身体すら見えない状態でしたが、なんとか近くまで行き、冷えた身体を抱きしめて温めながら、たくさんの話しを致しました。
今まで何が辛く悲しかったか、
皆に心配をかけている事と婚約者のテレス殿の事をとても気にかけていました。
そんな話しをしている時に、ロルフ殿が私に話しかけている声を二人で聞いていました。
レイチェル姫は、待っているから起こしにきてくれと約束し、こうして姫を起こしに参りました。」
「なんと、夢の中で⁉︎ロルフ、そんな話しは聞いてないぞ!教えてくれたら、もっと沢山話しかけに行ったのに!」
「レイチェルがある時から血の気のなかった顔が急に赤くなって、少しずつ体温が上がったそうなの。
そう、貴方が温めてくれていたのね…。
ありがとうございます、ダニエレ様。」
「いえ、夢の中の姫はとても寒がっていたので…。そうですか、良かった…。」
「その話しを聞けば、おそらくダニエレ殿がレイチェルに会いに行けば目覚めそうだ。
その前に会って欲しいやつがいるんだが、良いだろうか?」
「はい、姫の婚約者のテレス殿でしょうか?」
「そうなんだ。一度話して欲しい。」
「私もお話ししたいと思っておりました。
一発殴られる覚悟はしておりますから。」
「ははは、さすがのテレスも他国の王族に手は出さんだろうが、お互いじっくり話して欲しい。」
「ダニエレ様、どうかレイチェルをよろしくお願いします。」
両陛下が王太子でもなくなった俺に頭を下げてくれてギョッとしてしまった。
「陛下、おやめ下さい、そんな事されては私など土下座せねばなりません!」
「ダニエレ殿のお父上はウチのロルフに父親として頭を下げて下さったそうだ。
こんな小国の王太子と王女の為に頭を下げられるアティリア国王は素晴らしいお方だな。
誠意には誠意を返さねば失礼だろう?」
と優しく微笑む両陛下も素晴らしい方達だと思った。
もう一度挨拶した後、ロルフ殿と共に退室した。
「父上は…ロルフ殿に謝罪してくれたのだな…知らなかった…。」
「到着して謁見してすぐに王としてではなく父親として話したいと仰って、頭を下げて下さった。
父も尊敬しているが、ダニエレ殿のお父上も素晴らしい方だった。
謁見した場所はダニエレ殿の自室の応接室だったが。」
「は⁉︎俺の部屋⁉︎」
「そうだよ、ヘルマンがその方が早いからって。あの人すごいよね、俺が疲れてるだろうからって、君の部屋で謁見したら早いから、だってさ。
で、陛下と話した後、すぐ君の寝室に行ったって訳。」
「知らなかった…初めて聞いた…」
「ま、バタバタしてたしね。
さて、テレスに会うけど二人が良い?俺はいた方が良いのかな?」
「二人で話したい気持ちもあるけど、今日はロルフ殿にもいて頂きたい…です…」
「ねえねえ、面倒だからダニエレって呼んでもいい?
ダニエレもロルフって呼んでくれていいから。」
「正直助かります。じゃあ俺もロルフと呼ばせてもらおうかな。」
「うんうん、歳も左程変わらないし、同じ王族だし。」
「・・・レイチェル…姫は、テレス殿の事をとても気にしていた。
裏切ってしまった事と悲しませてしまった事を悩んでいた。
だから今はテレス殿に認めてもらえるよう何度でも頭を下げるとレイチェル…姫と話していたんだ。」
「ねえねえ、今まで散々呼び捨てしておいて今更姫って…。」
「だよな、途中で気付いた。あれ?俺、いつの間に呼び捨てしてたんだろと思ったら、急に恥ずかしくなった…」
「アハハハ、なんだそれ。ま、テレスの前では姫付けといたら良いんじゃないかな、今は。
さあ、ご対面だ。」
そしてレイチェルがいる部屋に着いた。
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