貴方だったと分かっても

jun

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泣き叫ぶサンドラ

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ダニエレ視点


ヘルマンとサンドラがいる水晶宮の部屋に向かった。

急だったので、支度するので待って欲しいと応接間で待った。

しばらくすると満面の笑みで歓迎してくれるサンドラに胸が痛んだ。

「急にどうしたのですか?何かありましたか?」

「突然押しかけて申し訳なかった。
実は大事な話しがあるのだが、人払いしてもらえるだろうか。
ヘルマンは私の付き添いだから気にしないで欲しい。」

「人払い…分かりました。
皆さん、ごめんなさいね、ダニエレ様と大事な話しがあるの。ヘルマン様がいてくれるので二人ではありませんから、部屋を出ていてもらえるかしら。」

侍女達が出て行き、三人だけになる。

「お話しというのは何でしょうか?」

「サンドラは“運命の番”の話しは知っているか?」

「あの物語に出てくる大昔にあった絆の事でしょうか?」

「まあ、それだ。その物語を読んだ事はあるか?」

「いえ、私は読んだ事がありません。その物語が何か?」

「私も読んだ事がなかった。だが、最近読んでみた。そこにはこう書いてあった、“運命の番に会うと、全身に雷が落ちたような衝撃が走る”と。
そして、それと同じ事が私に起こったんだ…あの婚約パーティーの日に。」

「え?」

「動けなくなった…。その人と目が合った時、私とその人は衝撃で動けなかったんだ…。」

「ひょっとしてその方は…あの時の…」

「そうだ。ナースカス国の王女、レイチェル姫だ。」

「そんな・・・」

「誰にも言うつもりもなかった。
サンドラと結婚するつもりでいた。
たった一日会った人だ、そのうち忘れると思った。
だが、どれほど離れても番にはお互いの感情が共有されてしまう。
私が悲しめば、あちらも悲しむ。
喜べば喜ぶ。
私の感情が伝わってしまうんだ。
それに私はもうサンドラに、触れられない。世継ぎを作れない…。
だから、王太子はクルトになった。」

「え、王太子はダニエレ様です。私はダニエレ様の婚約者です!王太子じゃなくなっても私はダニエレ様の婚約者です!」

「済まない、サンドラ…。突然こんな事、納得など出来るわけがないと思う。
だが、もう私は生涯誰とも結婚しない。」

「私がお側にいます。子供などいりません。ずっとダニエレ様のお側におります。」
と言って、抱きついてきた。

抗いたいが、あまりにも可哀想でサンドラを抱きしめた。

「本当に済まない。サンドラにはクルトを支えて欲しい。俺は、こうしてサンドラを抱きしめるのも、本当は辛いんだ…」

「構いません、抱きしめてくれなくても、何もしてくれなくても、側にいてくれるのなら、私は何もいりません!」

泣き叫ぶサンドラは、私を離さない。

「私では君を慰める事も出来ない、涙を拭ってあげる事も出来ないんだ…身体が動かないんだ…」

「構いません…お願いです・・・今までダニエレ様とずっと一緒にいる為に頑張ってきたのです…なのに、こんなのって・・・あんまりです…」

「本当に済まない、彼女は今、必死に耐えてくれている、私が何をしているのか伝わっているんだ、だから離れて欲しい。」

「酷い・・・側にいる事も出来ない人の事を心配するなんて。私なら・・・ダニエレ様?」

「彼女が泣いている…だから俺も悲しくて涙が出ているんだろう。
サンドラと一緒にいる事もなんとなく分かっていると思う…。」

「では、全部伝わるのですか?」

「そのようだ…。」

そう言うと、サンドラはいきなりキスをしてきた。

「ん、ん、やめろ!」
サンドラを突き放し、距離を取った。

「今のも伝わったのですか?何をしたのかちゃんと伝わったのですか?」

「お前、分かってやったのか。」

「そうです!だって私の方が貴方の近くにいて慰める事も支える事も出来ますから!」

怒りで我を忘れそうになった時、

「ダニエレ!落ち着け!サンドラ、やめろ!これ以上話しを聞く気がないなら、今後ダニエレと会わせる事はない!」

「だってヘルマン、こんなのってないわ!」

「だから、話しを聞け!
お前が辛いのは分かる。だが、辛いのはお前だけじゃない!ダニエレは姫と結婚する事だって出来る立場なんだ。
それをお前を気遣い、生涯誰とも結婚しないと決めたんだ!
お前だけが被害者だなんて思うな!」

「だって、私は・・・」

「お前の気持ちはみんな知ってる。もちろんダニエレもだ。
だから、苦しんでるんだろ!
本当ならあっちに今すぐ行きたい気持ちを抑えて、幽閉してくれって決めたダニエレの気持ちも考えろ!
お前、王妃教育もしたんだろ!
自分の気持ちを抑え込む教育受けただろうが!」

「ウッ・・ウッ…ウッ・・・」

「ダニエレ、大丈夫か?」

「・・・分からない…もう・・切なくて・・・我慢出来ない…悲しくて…悲しくて…堪らない…また、泣かせてしまった…謝りたい…側に行って慰めてあげたい…」
そう言って唇をゴシゴシ拳で擦った。

「サンドラ、辛いと思う。
だが、もしお前が姫を憎み、苦しめてやろうとダニエレにさっきのように、キスしたり、それ以上の事をしたら、姫は自害するかもしれない。そうすればダニエレは後を追うだろう。それでも、ダニエレを求めるのか?
ああやって、キスされた唇をゴシゴシ拭かれるのを見ていられるのか?
俺は、見ていられない…苦しむダニエレを見ていられない。」

「サンドラ、謝っても許してはもらえないと分かっている。だが、俺にしてあげられる事は誰とも結婚しないという事だけだ。」

「せめて一日だけでも、考えさせて下さい…今はそれしか言えません・・・」

「分かった。もし、クルトが来たら、話しを聞いてやってくれ。頼む。」

「分かりました…」


俯いたままのサンドラは、俺達が部屋を出るまで顔を上げなかった。


「ヘルマン、サンドラを一人にするのは危険だ。誰か女性の騎士か侍女が常に側にいるようにしてくれ。本当は俺がいてあげるのが良いんだろうが、もう疲れた…」

「少し休め。おそらく今度は向こうに動きがあると思う。
こっちと同じ事が起こるならその時に備えて
今は休め。仕事は俺がやっておく。」

「ヘルマン…ありがとう…」


自分と姫の為にもう寝るしかなかった。














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