貴方だったと分かっても

jun

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耐えられない

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レイチェル視点


ようやく帰ってきた。
嬉しいような、悲しいようなそんな気分で馬車から降りると、テレスが出迎えてくれた。

「おかえりなさい、レイ。」

「ただいま、テレス。」

やっぱりテレスは安心する。
帰ってきたって感じがする。

「さあ、陛下にご挨拶してきて下さい。行きますよ。」
と私の手を取り、エスコートしながら歩いているテレスを見る。

「何?寂しかったの?」

「いや、テレスを見たら帰ってきた気がしただけよ。」

「へぇ~珍しい。何かあった?」

「なんで?」

「照れ屋のくせに、そんな事言うから。」

「べ、別に、たまには言うわよ!」

「ふぅ~ん、で、アティリアはどうだったの?なんか後ろでロルフは難しい顔してるけど。」

「アティリアはさすが大国って感じだったかな。すぐ帰ってきたからよく分からないけど。」

「てっきり我儘言って観光してくるものと思ってたのに、早かったから驚いた。」

「お兄様がダメだって許してくれなかったのよ。」

「王太子はどうだった?」

「え⁉︎」

「王太子。ダニエル王太子!どんな人だったの?」

「え、あ、凄く良い人だった…」

「ん?何?失敗したの?」

「いや、少し緊張しただけよ…でも優しい方だったから大丈夫だったわよ、婚約者のサンドラ様も美しい方だったし。」

「へえ~緊張なんてしたんだ。いつも堂々としてるのに。」

「初めての外交だったんだもの、仕方ないでしょ!」

「テレス、今日父上はこの後何かある?」

「今日は誰とも謁見はなかったし、執務くらいかな。」

「そうか、分かった。じゃあ今は執務室?」

「ゆっくり話すならサロンの方が良いんじゃないか?」

「とにかく挨拶してからだな」

お兄様はまだサンドラ様のお父様の事を怒ってるんだろうか…。
なんだか機嫌が悪い。

「ロルフ、機嫌悪かったりする?」

「まあ、色々あってな。」 

「帰り道に、王太子の婚約者の方のお父様が私達に絡んできたのよ、それのせいじゃないかしら。」

「そんな事があったのか、ま、陛下に報告したらスッキリするだろう」

そして、お父様に帰国の挨拶をした後、私だけ執務室を出された。

お兄様はあの事をお父様に報告するんだろう。

テレスが、

「お部屋まで送りますよ、久しぶりにお茶でも淹れてよ、レイ。」

「帰ってきたばかりなのに、テレスは容赦がないわね。」

「うーーん、なんとなくレイが変わったような気がするから。」

「え?何で?どこが?」

「俺が触ると、ビクッとする。ほんの少しだけど。」

「そんな事気付かなかった…」

「無意識なら尚、気になる。何があった?」

「別に何もないわよ。ただ大国の王族の迫力に圧倒されただけ。
王太子の婚約者の方も私より王族らしかったわ。」

「へえ~落ち込んだのか?ま、大国は見栄えが大事だからな。レイもきちんとすれば立派な王女だ。」

「ありがとう、よほどテレスの方が王族らしいけどね。」


テレスにお茶を淹れながら心の中では焦っていた。
テレスの洞察力は侮れない。
決してテレスに悟らせてはダメだ。

あの想いをテレスにだけは知られてはいけない。


「はい、どうぞ。愛情込めて淹れたわ。」

「ありがとう、どれだけの愛情が入ってるかな?甘っ⁉︎何このお茶⁉︎」

「アップルティーにジャムも入れたから甘くて美味しいでしょ?」

「うーん、レイの愛情は分かったけど甘すぎだ。」

テレスは一気に飲んで、

「じゃあな、ゆっくり休めよ。」と私の頬にキスをして戻って行った。

頬を触ると、ダニエレ様がバルコニーで涙を拭いてくれた時を思い出した。

涙が出そうになったが、侍女やメイドがいる所では泣けない。

「少し、寝室で休むわ。」と声をかけ、ベッドに潜り込んだ。

誰かに話したい。
聞いて欲しい。
でも、お兄様は誰にも言うなと言っていた。
あの時からお兄様はおかしかった。

てっきり私の態度に怒っていると思ったけれど、別の理由があるのかしら…

でも私では何も思いつかない。
何かないかしら…
怒っている事が私のダニエレ様への態度の事なら直せば良いだけの話だし、
あんなに真剣な顔で怒ることでもない。
あの話しをするまでは、笑っていたんだから。
何かに思い至ったのか?
何に?
一目惚れってこと?
たった一瞬の出来事をあんなに警戒するのはなぜ?
確かに一目惚れなんてした事ないから何とも言えないけど、あの国から一刻も早く出ようとするほど警戒する理由は何?

ガバっと起きて、寝室を出ると、
「図書館に行くわ。」と言って、軽く髪型整えてもらい、図書館で、先ず恋愛小説の棚を見た。

目でタイトルを追っていると、気になるタイトルが目に留まった。

『運命の番の二人』

“運命の番”・・・聞いた事がある。
大昔に、そんな嘘のような絆で繋がる愛があったのだとか。

でも、ひょっとしてと思った。

その本とは別に適当に恋愛小説以外も混ぜて選び、部屋に戻り読み始めた。

話しは、よくある悲恋ものだ。
だが、出会いは全く私に起こった事と同じだ。
離れたくなかったし、考えると涙が出るほど辛い。

その物語は、運命の番と出逢っても一緒にはなれなかった二人の話だった。
離ればなれになった二人の苦しみが書かれていた。
お互いの気持ちが伝わり、目に見えない分、想像する内容は決して良いものではない。

楽しい気持ちも伝わるのに、楽しませているのが自分ではないのだと悲しみ、

悲しんでいるのが分かると、側にいてあげられない辛さで胸が引き裂かされるほど辛くなる。

そして何より辛いのは快楽の共有だ。

快楽を共有するというのは、愛する人が自分ではない人と、性交をしているという事だ。

吐き気がするほどの絶望感は表現出来ないと書いてある。

正に今、想像してしまった…

あの人があの美しい人と夜を共にしている所を・・・・。


嫌だ・・・そんな事耐えられない・・・


こんなの忘れられる訳がない。

何の予告もなく伝えられるあの人の想いや感情に私はきっと耐えられない・・・

どうしたらいいのだろう・・・・

ダニエレ様…

ハッとした。

こうした私の想いもダニエレ様に伝わっているのではないかと。

いけない、あの人を苦しめてしまう!

絶対苦しめたくなんかない。


ダニエレ様・・・・助けて…

貴方に会いたい・・・
















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