貴方だったと分かっても

jun

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サンドラ様のお父様

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レイチェル視点


バルコニーでのダニエレ様とのひと時は夢のような時間だった。
まるで恋焦がれていた人に出会えたように心が躍った。
ずっと一緒にいたいと思った。

今日会ったばかりの人なのに・・・。

テレスといると安心する。
このままずっといると思っている。
でもダニエレ様に対するような切なくなるような、離れたくないと縋りたくなるような思いになった事はない。

ダニエレ様のハンカチを見つめる。

ダニエレ様は私のハンカチが欲しいと言った。

それはどうして?私のだから?
ダニエレ様も同じ気持ちなの?

でもダニエレ様はサンドラ様と婚約したのだ、今夜。

私にもテレスがいる。


どんなに想っても叶うことなどないのだ。


なら、今夜だけの思い出として、大事に大事に胸にしまっておこう。


ハンカチを胸に布団に入った。
なかなか寝付けなかったが、気付けば眠っていた。


次の日、朝早くに起こされ、帰り支度をし、お兄様と王宮を出た。

昨日言っていたようにダニエレ様は見送りに来てくれた。

「ロルフ王太子、レイチェル姫、お気をつけてお帰り下さい。また、機会がありましたらお越し下さい。」
そう言って、私の手を取り、軽いキスをして手を離した。

私は目を合わせることが出来ず、ダニエレ様の手を見ていた。
握っている拳が白くなっていた。
それほど力を入れてどうしたんだろうと思い、顔を見た。
見てしまった。
綺麗なブルーの瞳が揺れている。

咄嗟に目を伏せた。

「ダニエレ様、態々のお見送りありがとうございました。我が国にも機会があればお越し下さい。歓迎いたします。」

「ダニエレ様、お身体にお気をつけて下さいませ。ありがとうございました。」
震えないよう気をつけ、なんとか挨拶が出来た。

お兄様と馬車に乗り、窓からダニエレ様を見る。

ジッと私を見ていた。
手を…振りたかった。

さよなら、ダニエレ様…


「レイ、お前、大丈夫か?」

「え?だ、大丈夫よ。どうして?」

「いや、別に。」

「変なお兄様。あ、観光はしないの?」

「もう帰る。この国にいるのは良くない。早く国へ帰る。」

「どうして、昨日は少しくらいならって言っていたのに!」

「どうしてもだ。」

「ねえ、何か隠してるの?昨日、私の話しを聞いた後から変よ。」

「お前の話し聞いてたら、フランに会いたくなっただけだ。」

「あら、お兄様がそんな事いうなんて珍しい。照れ屋なのに。」

「五月蝿い、お前だってテレスに会いたいだろ?」

「テレス…そうね、帰ったらテレスにアティリア国について報告書を提出しろとか言われそうだわ。」

「あー言いそう…。」

干渉に浸っていても仕方ない。
もう会う事もない人だ、忘れよう。

馬車の中で、お兄様とテレスの事で盛り上がってる間に、今夜の宿に着いた。

大きな宿なので、大勢の貴族が泊まっていた。
私達は小国と言えど王族。最上階のフロアすべてを借りた。護衛や侍女、メイド全員が同じフロアの為、安心だ。

食事は部屋まで運んでもらい、お兄様と食べていた。部屋の中まで聞こえる怒鳴り声が聞こえる。

「何事だ!」
お兄様がドアを開け、護衛に尋ねると、
「何やら最上階に泊まらせろと騒いでいる者がいるようです。」

「何処の国の誰だ、分かるか。」

「アティリア国のベッケン侯爵と名乗っているようです。」

「ベッケン侯爵…あ~ダニエレ王太子の婚約者の父親か~」

「放っておきましょう、宿の主人が対応しています。ロルフ様方が出る必要はございません。」

「何かあれば呼んでくれ。」

ドアを閉め、お兄様が、
「あんなのが将来の王妃の父親とはな。ちょっとがっかりだな。」

「お兄様、そのような事を軽々しく言ってはダメよ!」

「だって、王妃の実家の品位が下がるってもんだろ。恥ずかしい。」

「ダニエレ様とサンドラ様は幼馴染みと聞きました。とても仲が良いと。」

「お前、なんでそんな事知ってるんだ。」

「それは…噂で…。メイドの子達が言っていたから…」

「ふぅ~ん、そうなんだ…」

「なによ!」

「別に~。」

「さあ、冷めてしまうわ、食べましょう。」

しばらく大声が聞こえていたが、そのうち静かになったので諦めたのだろう。


次の日、朝食を食べた後、出発する為一階に降りると、ちょうど宿を出ようとしている貴族の方々がいた。

私達を見て、
「何処の国の王族かと思いきや、遠くからいらしたナースカス国の方々でしたか。
それなら致し方あるまい、何分遠くていらっしゃる二度と来る事もなかろう方々だ、私共が譲って差し上げれて良かった。
道中、お気をつけて。長い移動ですので。」

名前も名乗らず、馬鹿にした言い方にカチンときた。

「どちらの何方か知りませんが、こちらの国のご挨拶は随分、他国の王族に対しあまりにも不敬。
改めてアティリア国に抗議させてもらう。
名を名乗れ!」
とお兄様が怒鳴った。

急に弱腰になったベッケン侯爵は、

「・・・申し訳ございません。私は低血圧でございまして、今朝はイライラしておりました。何卒、ご容赦下さいませ。
私はベッケン侯爵家当主アンドレアと申します。」

「もう行かれよ、不愉快だ。」

「失礼致します…」

ゾロゾロ引き連れ馬車に乗り、ようやく静かになった。

「アイツなんなんだ!馬鹿にされたままでは済まさん、帰ったら抗議文を送る!」

「お兄様、早く出ましょう、宿のご主人が困っていますよ。」

「ああ、そうだな、では世話になった。騒がしくして済まなかった。」


なんだか気不味い空気になり、早く馬車に乗りたかった。

途中二泊宿屋に泊まり、やっと祖国に帰ってきた。


こうして色々あった初めての外交は終わった。















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