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君に会いたくて
しおりを挟むダニエレ視点
具合が悪くなったレイチェル姫が気になり、立ち尽くしていると、
「ダニエレ様?どなたが体調を崩されたのですか?」
とサンドラが私の所に来て聞いてきた。
「ナースカスの姫君だ。顔色が悪かったが、王太子が付いて行ったから大丈夫だろう。」
「そうですか、良かった。ダニエレ様、何か飲まれますか?」
「そうだな、喉が渇いたから何か飲もうか。」
近くのウエイターに飲み物をもらい、二人で飲んでいると、
「兄上、おめでとう。」と第二王子で私の弟クルトが声をかけてきた。
「クルト、お前、ずっといなかっただろう、何処行ってたんだ。」
「挨拶長いから隠れてた。」
「だと思ったよ。でも、俺が国王になったら逃がさないよ。」
「兄上がなったら、ちゃんとするよ。」
「ハァ~お前は本当に・・・とにかくあまりあからさまな態度は気をつけろよ。」
「分かってる分かってる。」
「お前は俺よりも優秀なのだから、お前が王太子になっても俺は良いと思うんだがな。」
「ダニエレ様⁉︎そのような事は仰らないで下さいませ。ダニエレ様は聡明で誠実で優秀でございます!」
「だってさ、兄上。相変わらずサンドラ様は兄上が好きだね~」
「クルト様、おやめ下さい、ダニエレ様が困ってしまいますから…。」
「ありがとう、サンドラ。そんなに私は優秀ではないんだけどね。」
実際、私よりもクルトの方が何事も優秀で、私に合わせる為に敢えて手を抜いている。
総合的には私が上だったとしても、弟にそんな事をさせてしまっている自分が情けない。
「少し風に当たってくる。クルト、サンドラを頼む。」
そう言って、二人から離れ、バルコニーに出た。
弟とサンドラは昔から仲が良い。クルトはサンドラの事が好きなようだ。
クルトが歳下だからか、サンドラは“弟”としてしかクルトを見ない。
どうせならサンドラはクルトの婚約者になれば良かったのに、そうすれば私は・・・。
私は?
ダンスの時一瞬だけ見えた彼女の涙が頭を過ぎる。
何故泣いていた?
胸が苦しくなる…
彼女の具合は良くなっただろうか…
もう一度会ってみたい。
会って、この気持ちが何なのか確かめたい。
だが、こちらから遅い時間に行くのもおかしな話しだ。
しかし・・
「ダニエレ様。」
振り返るとサンドラがいた。
「サンドラ、クルトはどうした?」
「ここまで連れてきてくれました。」
「そうか…風が心地良いぞ、だが、サンドラは冷えてしまうな、会場に戻ろう。」
と会場に戻ろうとすると、サンドラが抱きついてきた。
「ダニエレ様と一緒ならば寒くはございません。」
「そうだな、だが、そろそろ戻らねば父上に叱られてしまう。」
サンドラの額にキスしようとして、止まってしまった。
いつもしていた事なのに、どうしても“したくない”という気持ちが強く、頭を撫でるに終わった。
サンドラは、あら?という顔をしていたが、二人で会場に戻り、今夜のパーティーの主役の務めを果たし、サンドラを母上と同じ水晶宮に送り、自室に戻った。
風呂に入り、パーティーで食べる事が出来なかった夕食の代わりの軽食とお祝いだとシャンパンも出されていた。
シャンパンを飲み、一息つくと、頭に浮かぶのは彼女の事。
どうしてこんなに気になるのだろう…
一目惚れとかではない。
それとは違う…何か…運命的なもの・・・・
馬鹿らしい。そんな物語のような事が現実としてあるわけがない。
じゃあ一目惚れなのか?
確かに可愛らしさと聡明さが出ていて好ましい。
だが、サンドラのような女王然としたものはない。サンドラは薔薇のような美しさを持ち、華やかさもある。
彼女は・・・ダメだ…俺には彼女だけが輝いていたから客観的に見れない。
やっぱり頭を冷やそうと、軽装に着替え、庭園の散歩に出かけた。
広い庭園はちょっとした運動にもなるし、夜の庭園になど人もいないので、気楽に歩ける。ヘルマンとシモンに見つかると怒られるが。
ふと、来賓達が泊まっている珊瑚宮に彼女がいるという事に気付いた。
自然と足が向く。
会えるわけではないし、どの部屋に泊まっているのかも知らない。
でも、彼女の近くに行きたかった。
珊瑚宮に着いた時、
「何これ、美味しい~!」
と誰かの声がした。ふと上を見ると、
「レイチェル姫?」
驚いた。会えるなんて思っていなかったし、ましてや本人がバルコニーにいるなんて…。
「ダニエレ様⁉︎」
驚いた顔も可愛い。
もっと話したくて部屋の前の木に登り、姫のいるバルコニーに降りた。
話せば話すほど愛しさが増す。
触れたいと、
抱きしめたいと、
その小さな可愛い唇にキスがしたいと、
会話をしながらそんな事を考えていた。
そしてふと姫には婚約者がいるのだろうかと気になった。
やはりいた・・・。
私と同じ幼馴染みの婚約者。
きっと優秀で優しい人なんだろう、彼女の婚約者となれるのだから。
黒い気持ちが渦巻く。
私の傷に気付き、手当てをし、ハンカチを巻いてくれた。
私の手に彼女が触れた時の喜び。
どうしても彼女の物が欲しくてハンカチをねだった。
彼女が刺繍したハンカチ。
彼女は代わりに俺が彼女の涙を拭いたハンカチが欲しいと言った。
彼女も俺の物が欲しかったのだろうか…そうだとしたら嬉しい。
帰ろうと、また木に飛び移りスルスルと降りると、上から「木登りはダメって言ったのに!」と怒っている。可愛い。
楽しくてたまらなかった。
少し歩いて振り返ると、まだ彼女は私を見送っていた。
手を振ると、振り返してくれた。
自分の部屋まで走った。
部屋に戻り、ベッドにバタンと仰向けに倒れた。
「俺、彼女が好きなんだ…」
自覚した、彼女が好きだ。
初めて恋した人に出会ったのに、出会ったのは別の人との婚約パーティーなんて…。
その日初めて切なさで涙した。
彼女と結婚することなんて出来ないのだから。
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