貴方だったと分かっても

jun

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バルコニーで

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レイチェル視点


部屋に戻り、お兄様と行儀が悪いが、ソファにドサっと座った。
お兄様の部屋は私の部屋の隣りだ。
とりあえず私に付いてくれるのだろう。

「今日、調子悪そうだけど、なんかあった?あの王太子に挨拶してからだろ?」

「そういうわけではないけど…何かダニエレ様を見たら、ビリビリしたのよ、何だったのか分からなくて、それでなのかチラチラ見てしまって…。何やってるのかしら、私。」

「待て。それ、挨拶した時に固まったのはそういう事か?」

「うん。動けなくなった。」

「それ、絶対誰にも言うな、分かったな。
テレスにも絶対言うな。もちろん父上にも母上にもだ。」

「恥ずかしいから言わないわよ。お兄様も言わないでね。」

「ああ、約束する。今日はもう風呂入って寝ろ。明日朝一で帰る。」

「えーーー、観光しないの?」

「あーー、ここ出てからなら観光しても良いかな。でも少しだけだ。遊びに来たわけじゃないからな。」

「分かったってば。疲れたし、もう寝るわ。」

「ああ、俺も寝る。おやすみ。」

「おやすみなさい。」

隣りの部屋に戻ったお兄様は、何か真剣に考え込むような顔で部屋を出て行った。

私もおかしいが、お兄様も何かおかしかった。

私に付いてくれているメイド達に寝支度を整えてもらい、布団に入った。
寝る前に、少しお酒と軽食を準備してもらって、誰もいなくなってから、バルコニーに出て、サンドイッチを摘みながら、シャンパンを飲んだ。

「うわ、なにコレ、美味しい~!」
一人シャンパンの美味しさに感動していると、

「レイチェル姫?」と声が聞こえた。

下を見ると、

「え?ダニエレ様?」

「はい。眠れなくて散歩をしていました。」

「私もです。暖かいのでバルコニーでシャンパンを飲んでいました。」

「ちょっと待っていて下さい。」
と言うと、バルコニーの横に生えている木を、枝を足がかりにスルスルと登ってバルコニーに来てしまった。

「え?凄い!」

「いえいえ、我が家の庭みたいなものですから。でも、こうやってバルコニーに来れてしまうのは問題ですね、対処します。」

「フフ、そうですね、これからここを使う方のためにもお願いします。侵入者一人目はダニエレ様ですね。」

「それは秘密でお願いします。」

「サンドラ様は王宮においでではないのですか?こんな所にいたら叱られますよ。」

「一緒の宮ではないんですよ。」

「バルコニーなのでギリギリセーフです…かね?」

「セーフです。部屋には入りませんよ。」

「良ければシャンパン、飲みますか?」

「頂けるのなら。」

「では、乾杯を。」

部屋にあるグラスをもう一つ持ってきてシャンパンを注ぐ。
ダニエレ様がグラスを持つと、

「では、御婚約に乾杯しましょうか?」

「・・・今はレイチェル姫との出会いに乾杯しても宜しいですか?」

「私との…ですか?」

顔が赤くなる。恥ずかしい…。

「はい。何故かレイチェル姫と目が合ってから貴方のことばかり見てしまいました。
それが何なのか気になり過ぎて、散歩していたのです。」

「あ、私もです。ダニエレ様と目があった時、ビリビリして動けなくなりました。」

「私もです。不思議ですね。もうお会いする事もないかもしれませんが、貴方との出会いに、乾杯。」

「はい。乾杯。」

グラスを合わせ、夜のバルコニーにチンと響く音が、二人だけの世界のようでドキドキしてしまう。

「なんだか悪い事をしているようでドキドキしてしまいます。」

「私もです。さっきから心臓の音が五月蝿いです。
明日のご予定は?」

「明日は朝一で帰る予定です。でも昼間は少し市街地を観光しようかと兄と話しておりました。」

「そうですか…そんなに早く出立されるんですね…。
時間があれば私がご案内出来たのですが、他の来賓の見送りも残っていますし、またの機会ですね。お見送りはさせて頂きます。」

「そんな態々、私共のような小国の者に王太子自らお見送りなど恐れ多いことです。」

「いえ、こうして姫と出会えたのです。
どうか、お見送りさせて下さい。」

「では、最後にダニエレ様にお会いできるのですね、とても嬉しいです。」

「レイチェル姫…姫には婚約者はおられるのですか?」

「はい…。祖国に幼い時からの幼馴染みのような方と婚約しております…」

「そう・・ですか…。御結婚はいつ?」

「来年です。」

「私と同じ…ですね。」

「・・・はい。」

「すみません、変な聞き方をしてしまいました。婚約者の方は素敵な方なんでしょうね、レイチェル姫が選んだ方なのですから。」

「そうですね、幼い時から側にいたので、それが当たり前だと思っていました。
ダニエレ様はサンドラ様とは長いお付き合いなのですか?」

「私も幼い時から横にはサンドラがいました。他に婚約者候補はいたのですが、最終的にはサンドラしか残りませんでした。」

「サンドラ様はこんな素敵なダニエレ様と御結婚されるなんてとても羨ましいですね。」

「レイチェル姫・・・何故、泣いているのですか…?」

「え・・・すみません…今日は何だか涙腺が緩いようです…どうしてでしょう…」

「泣かないで下さい…貴方が泣く姿はとても辛い。」

私の涙をハンカチで拭いてくれるダニエレ様の手を見ると、傷だらけだった。

「ダニエレ様⁉︎手が傷だらけです!木登りなどするからです!待っていて下さい!」

部屋をみても薬箱を見つけられず、ハンカチを濡らして血を拭くくらいしか出来そうもない。
濡らしたハンカチと新しいハンカチを持ってバルコニーに戻り、ダニエレ様の手を綺麗に拭いた後、新しいハンカチで傷の部分を縛った。

「これしか出来ませんが、お帰りになったら、ちゃんと消毒して下さいね。
ダメですよ、もう木登りは!」

「フフ、分かりました。ありがとうございます。このハンカチは綺麗に洗って私が持っていてもいいですか、もし会えた時お返しします。」

「返すなんて、良ければ貰って下さい。たくさんありますから。その代わり、そのハンカチを頂いても良いですか?きちんと洗っておきますから。」

「差し上げますよ。このハンカチの刺繍は?」

「私が刺したものです。あまり自慢出来るものではないですが。」

「いえ、大事にします。では、明日はお早いのでしょう、私はこれで失礼致します。
貴方に、今夜会えて良かった。」
そう言って、私の手を取り、指先に軽くキスをして、また登ってきた木を降りていった。

「木登りはダメと言ったのに!」

「ハハハ、ごめん。おやすみなさい、レイチェル姫。」

「おやすみなさい、ダニエレ様。」


満月に照らされたダニエレ様の金髪がキラキラと輝いて、天使のようだった。

途中まで行った所で、振り返り、手を振るダニエレ様を見送った後、バルコニーで一人泣いていた私は、まだ自分の気持ちがなんなのか分からなかった。















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