信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う

jun

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あの時の2人 今の2人

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パトリック視点


リアからノアに、婚約破棄になった経緯を聞きたいと手紙が来た。
その手紙には俺とジャニス殿にも同席してほしいと書いてあった。

リアは記憶を失くしてから、家族に対して一番戸惑っていた。
ノアやジャニス殿には比較的心を開いてきていた。
仕方ないとはいえ、悲しかった。
父、母も同じだろう。
心配で側にいたくても、逆に疲れさせていると分かった時のショックは大きかった。
だから俺を指名してくれたのが嬉しかった。

ノアの休みの日、2人で馬車ではなく馬で領地に向かった。
その途中、
「俺・・・未だに夢に見る…あの時の事…」
とボソッとノアが言った。

そうだった…。
あの時のノアは味方が誰もいなくて1人で絶望の中耐えていたのだ。
げっそり痩せて部屋に篭っていたんだった。
それを自分の口からリアに言わなければならないのはキツイだろうな・・・
でもこればかりは自分で言うのが記憶のないリアにとっては大事なんだと思う。
状況は言えても、ノアがどんな状態だったかは言えないだろうなと思ってた。

そして結局その役は俺に回ってきた。

夕食前にノアとリアの婚約破棄の顛末、エリーの計画、リアの留学準備の日々を話し終わった。
リアは時々顔色を悪くしたり、吐き気がしたり、身体が震えたりと休憩をこまめに入れてなんとか聞き終わった。
今日はもう終わりだと思ったら、リアはその時の自分とノアはどうだったのかを聞きたがった。
ノアが自分では言いづらいだろうし、リアは分からないから、どっちも知っている俺が、となった。

ノアに、
「辛いなら部屋で休んでても良いぞ。」
と言うと、
「リアがいるなら俺もいる。それにさっきの方が辛かった・・・」
と俯いてノアが言った。

よく動じず話し切ったと思う。
あれからだいぶ経ったが、それでも1年も経っていない。
ウチもノアんとこもあの暗く辛かった時期を当事者本人が話すのは辛かっただろう。
でも話せたのはあの辛さを乗り越えたという事だ。
それもリアがいてこそなのに、リアは覚えていない。
それももどかしかっただろうな…。


そして夕食後のお茶を飲み終わった後、俺は淡々と話した。
ノアのボロボロだった状況、仕事も休み食事も取らず、酒浸りの毎日。
リアには会えない、連絡も取れない、うちとは縁を切られ、何の希望もなかったノアの状況。
リアは一度ならず二度もノアに裏切られた状況に耐えられず、領地に逃げた事。
そこでジャニス殿と出会ってリアはノアと向かい合う決心がつき、ノアも被害者なんだと気付いて話し合った事。
リアからの連絡とジャニス殿との交流でノアが立ち直った事。
俺も含めて両家族がジャニス殿に感謝している事。
順を追って話した。
その間の壊れそうになったリアの説明は辛かった。
リアにこれ以上距離を取られるのは悲し過ぎる。

なんとか話し終えるとリアが、
「お兄様、ありがとうございました。
とても分かりやすい説明でした。
今のを聞いて、ノアに話しをさせてしまった自分の無神経さに気付きました・・・辛かっただろうに…ごめんなさい…ノア。だからあんなに顔色悪くなってたんだね…本当にごめんなさい…。
私自身も辛かったんだと分かりました。
そしてお父様、お母様、お兄様に自分の浅はかさの為に迷惑や心配をかけていたんだと思いました。
そしてジャン様にとても助けられた事も分かりました。
それらを乗り越えてノアとのこれからを考えていたんでしょうね…。
そして…私はそんな思いも、愛情も友情も思い出も悩みも希望も忘れてしまったんですね・・・・・」

リアは泣いていた。
多分、初めて忘れてしまった家族、好きな人、友人を思い泣いた。

「リア、俺はね、思い出してくれたら嬉しいけど、あんな出来事は忘れてしまっていても良いと思うんだ。
だから何にも焦る必要なんかないし、俺達に気を使うなんて事もしなくていいんだ。
これからは楽しい事をどんどんしていっていいし、思い出をたくさん作ればいい。
ゆっくり俺達を認識していってくれて構わないから、あんまり気負うなよ、リア。」

「お兄様…ありがとう…ありがとうございます・・・。
私は…どうしても家族…の距離感が分からなくて、苦手・・に思っていました…。
でもこれからはもっとお父様、お母様、お兄様ともっとお話ししようと思いました。
今まですみませんでした。」

やっぱり苦手だったのか・・・だよな、いつも苦笑してたし。
ちょっと悲しいが、リアはこれから前向きに行こうと思ったみたいだ。
何より俺達を家族だと認めてくれた。

「リア、何か聞きたい事、気になった事はある?」と聞くと、今は思い付かないと言ったので今日はこれで解散となった。
ジャニス殿は一旦帰り、明日また来ると言い帰っていった。

ノアを客室に案内し、そのまま2人で酒を飲んだ。

「なあパトリック・・・ララは記憶を取り戻したいかな・・取り戻したくないかな・・・」

「取り戻したいから聞きたかったんだと思うぞ、取り戻すかもしれないし、死ぬまで思い出さないかもしれない。
その時ノアはどうする?
子供が生まれてもしお前似の子だったらどうするんだ?」

「もちろんララとずっと一緒にいたいとは思っている・・・でもこんな状況で前のように俺を好いてくれるかなんて分からない…。
子供までいたらもう駄目だろうな…。
俺はもう一度ララに捨てられるのかな…。
それにジャニス様にも心を許しているララは、俺ではなくてジャニス様を好きになるかもしれない…。
俺・・・だんだん分からなくてなってきた・・
俺をララが選ぶ自信がない…」

「ノア・・・・今日は疲れてるから考えがまとまらないし、悪く考えるんだよ。
それにお前リアの隣りに他の男がいても平気なの?」

「それは嫌だ!」

「だったら今日はもう寝ろ!」

ノアを1人に出来ず、ノアが寝るまで付いていた。

とりあえずリアは落ち着いたみたいだが、逆にノアは不安になったようだ。
これからこの2人がどうなるのか、全く分からなかった。
幼い時から一緒にいた2人がバラバラになる未来なんて考えた事もなかった。

妹と親友の未来を思うと、どうか2人が幸せでありますようにと祈るしかなかった・・・。














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