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ゴシップ雑誌
しおりを挟むミレーヌ視点
兄様に最後に会った時からだいぶ経った。
ジャックは最近ようやく退院出来て実家に連れて行けた。
ギスギスしていた家も小さなジャックがいるだけで、明るくなった。
笑うようにもなってみんな可愛がってくれた。
通院は続けているが、順調に育っている。
直接、母乳を飲めるようになったのでお腹いっぱいになるまで吸う姿は可愛い。
ジャックと乳母と3人で病院に行った時、待合室で何気なくゴシップ雑誌を手にした。
ペラペラとめくっていると、兄様の名前があった。
姿絵も描かれているその記事の内容は、街で密会するラインハル侯爵と書かれていた。
『時々街を銀髪の女性と親しげに歩いている姿が目的されている。ラインハル侯爵が愛おしげにその女性を見つめる様子は、とても友人とは思えないものだった。』
他にもつらつらと何か書いてあったが、私は姿絵に釘付けだった。
兄様と見つめ合う銀髪の美しい女性。
兄様の眼差しは、あの元婚約者を見つめる眼差しと同じだった。
この時の私はゴシップ雑誌だという事なんて頭になかった。
ゴシップ雑誌なんて、たくさんの嘘が書かれている事を忘れていた。
ただその姿絵の兄様から目が離せなかった。
優しく見つめている姿に釘付けになった。
私達の順番になるまで、雑誌から目が離せなかった。
診察が終わり、ジャックを連れて家に帰ってもあの姿絵ばかり頭に浮かんだ。
お父様とお母様は、私が具合が悪いのかと思い、少し休めと寝室に私を寝かせたが、私は寝る事もしなかった。
次の日、目の下に隈を作り顔色の悪い私を見てお父様達は心配していたが、
ジャックの世話をする姿を見て少し安心したようだ。
午後に少し気晴らしに出掛けると家を出た。
この頃には外出を止められる事もなかった。
だから街に行く予定をラインハル侯爵邸に変更させた御者も何も言わなかった。
屋敷に着くと、執事は兄様が来客の対応をしているから今日は帰って欲しいと言ってたが、
荷物を取りにきただけだからすぐ帰ると言った。
兄様に確認すると、戻って行った。
外を見ると、見覚えのない馬車が停まっていた。来客のものだろう。
来客って誰?
銀髪の人?
そんな事を考えていると兄様が出てきてくれた。
顔を下げる事を忘れて兄様を見てしまった。
兄様は、
「今、大切なお客様が来ています。
明日にして頂けますか?」
と言った。
なんとなく私に会わせたくない人がいるのが分かったから、誰が来ているのか確認したくて、
「部屋に置きっぱなしの荷物の中にどうしても持って帰りたい物があるんです。
すぐ帰りますから、お願いします。
それに、ジャニス兄様が屋敷に招待するほど大切な方なら、私のせいで色々ご心配かけていたと思いますので、ご挨拶だけさせて頂きたいのですが宜しくでしょうか。」
淡々と嘘がポンポン口から出た。
兄様は悩んでいたが、私を屋敷に入れてくれた。
サロンに案内すると、驚いた。
サロンにはあの姿絵の銀髪の女性が1人でいた。
「そう・・この人が・・・」
ドレスのポケットに入れていた小型ナイフをその人に近付きながら握った。
そのまま近付き、気が付いたらナイフをその人に刺していた。
その後はあまり覚えていない。
刺してすぐ、女性の名前を叫びながら部屋に飛び込んできた男性がいた。
兄様に怒鳴られてようやく私を捕まえていた。
兄様が大声で怒鳴るのなんて見た事なかったなぁと思った。
私を捕まえている男の人が震えているのが分かった。
怖いからなのか、怒りでなのかは分からないが、多分怒りだろう。
兄様の恋人ではなくこの人の恋人だったんだろうか…
ぼんやりそんな事を考えているうちに、やる事をやり終わったのか、近くに兄様が立っていた。
私を捕まえている男の人は、唇を強く噛んでいた。
兄様は私を睨んだ後、何か言いそうだったが、目を逸らし唇を噛んでいた。
騎士隊に連れられ、牢屋に入れられた。
なんで刺したんだろう・・・・
あの女の人を見たら近付いてた。
どうしてポケットにナイフが入ってたんだろう・・・・
今朝、護身用のナイフをポケットに入れた。
そう、
私は一晩考えて、また邪魔者は消してしまえばいいと決めたんだった。
前の女は妊娠騒ぎで消えた。
前回は“子供”という武器があった。
今回は何の武器もない。
このままでは兄様の隣りには銀髪の美しい人が立ってしまうと思った。
せっかく誰もいなくなったのに。
だから消さないとと思った。
そして新しい武器のナイフをポケットに入れた。
殺そうと思った。
牢屋から出されて、小さな部屋の粗末な椅子に座らされ、たくさん質問された。
あの女性とは知り合いなのか?
“あんな人知らない”
どうして今日ラインハル侯爵邸に行った?
“兄様に会いたかったから”
ナイフは家から持ってきたのか?
“いつか殺そうと思っていたから”
来客の事を知っていたのか?
“知らない”
どうしてあの女性を刺したんだ?
“殺そうと思ってたから”
黙秘するのもいい加減にしろ!
“言わない。だって言ってしまったら兄様が来ないもの”
絶対言わない。
必ずここに来る。
怒っていても必ず来る。
どうしてこんな事をしたのか知りたいはずだ。
だから私は何も言わない。
でも・・・ゴシップ雑誌を手にしてしまった事は後悔してる。
あれさえ見なければ私は…ジャックとお父様とお母様、屋敷のみんなで楽しく暮らしていけた…
ジャックから目を離してしまった私は、もう元には戻れなくなった。
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