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願い

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アントン視点


さて、遊びに行こうかとしていた時、ジャンのとこから至急来て欲しいと連絡が来た。
何事⁉︎と思って急いで向かった。

屋敷に付けば、外に騎士隊が数人いた。
何だ⁉︎と思い中に入れば、執事のじいちゃんが駆け寄ってきた。
「アントン様、ジャニス様をお助け下さい。
ミレーヌ様がお客様をナイフで刺し、今治療中ですが、ジャニス様が普通ではないのです!どうかお助け下さい!」

「待って待って!とにかく落ち着け!ジャンは何処?」

ジャンの所に連れていかれ、ジャンを見ると知らない兄ちゃんと2人、部屋の前に立ち尽くしていた。

丁度その時、中から医者が出てきて説明が始まった。
家族を呼んだ方がいいと言われた瞬間、2人とも倒れそうなほど血の気の引いた顔になった。
兄ちゃんが部屋に入り、ジャンは動かず立ったままだった。

声をかけても返事をしない。
肩を揺すってようやく気が付いた。

「アン・・トン・・」とやっと焦点があって、俺を認識した。
こんなジャンは見た事がない。
こんなに動揺してるのも。

泣きそうなジャンを抱きしめ、
「大丈夫」と言い続けた。

続々とルーロック家、エリソン家、ブルゾン公爵の嫡男が到着し、ラインハル邸は事情が分からなくて狼狽えている人達をジャンは執事のじいちゃんに、案内させていた。
真っ青な顔のままのジャンは倒れてしまいそうだった。
それぞれ、ルーロック家、エリソン家などが令嬢を静かに見舞い、女性陣は泣き崩れ、それを男性陣が支える感じになった。
王宮医師も来ていたらしく、改めて治療すると部屋から出された面々は大広間のサロンに集められ、お茶を出したが誰も口にはしなかった。

黙る中、エリソン侯爵が街の噂をジャンに教えた辺りからヤバいなと思った。
ジャンは青色通り越して、白になった顔はショックに耐えられそうにない。
案の定倒れた。
俺はジャンを抱き上げ、ジャンの部屋に連れて行くと、じいちゃんが付いてきていた。

「なあ、刺された子とジャンは仲が良かったの?彼氏いるんじゃないの?」

「ジャニス様は何も仰らないので詳しくは分かりませんが、一時、ララリア様が隣りの領地、ルーロックの領地に静養されていた時がありました。
その時、ララリア様は婚約破棄のショックで体調を崩されてこちらに来られたとお聞きしました。
何度か偶然、いつものお店でお会いして、親交を深めていらしたようです。
その頃のジャニス様はとても楽しそうで、ララリア様から頂いた花を飾り、毎日眺めておりました。
ですが、ジャニス様は既婚者ですから・・。
ですが、元婚約者のノア様とも仲良くされていて、今日もとても大切な方達が来るから頼むと仰っておりました…。

とてもララリア様を大切にしていると私は思っております…。」

じいちゃんが出て行って、ジャンの顔を見ていた。

なんでコイツばっか酷い事続くんだよ…
多分、噂の“秘密の恋人”は刺された子なんだろうな…でなきゃジャンがこうはならない。

ミレーヌ・・・俺はコイツが昔から嫌いだった。
ジャンは気付いてなかったが、いつでも“女”の顔をしていた。
ジャンにバレないよう巧妙に隠していた。
まだフィリアの方が性格が良かったし、可愛らしかった、男遊びが酷かったが。

ミレーヌさえいなければ、フィリアと結婚してたし、結婚したら多分フィリアは浮気なんてしなかった。
ジャンの事が好きだったから。
それをミレーヌがぶち壊し、ジャンの評判を地に落とした。

そしてこれだ。

あの女・・・

とりあえず、当主が寝込んでるなら俺が皆さんの様子を見ようかなと戻ると、医者が説明するところだった。

かなりヤバい状態らしい事が分かる。

元婚約者もジャンと変わらない位顔色が悪い。
とうとう、パニックになり、気を失った。
ずっと見てたら思い出した。
有名なカップルの片割れだ。

そういや噂で聞いた。
あの彼女と婚約破棄になったと。
今の状況を見ると何か訳があったんだろう。

とにかくこの状況をなんとかしないとと、じいちゃんと部屋の割り振りをし、夜食の準備やなんやかんや手伝って、ジャンの部屋に戻ると、ジャンは起きていて、静かに泣いていた。

「ジャン、大丈夫か?」

「アントン・・私は・・」

「今はあんま考えんな。みんな部屋に戻って休んでる。夜食も用意した。
なんか食べれるか?水飲む?」

「アントン…リアさんは?」

「さっき医者が説明してた。
意識さえ戻れば大丈夫だって言ってた。
最近、運動してたみたいで体力ありそうだから大丈夫かもってさ。
だから安心して眠れ。」

「リアさんは…最近…お掃除をしたり、洗濯をしたり、市場に野菜を買いに行ったりしていたんです…。
とても、とても楽しそうにしていました…。
トマトを値切ったりしていたんです…。
嬉しそうにトマトを買っていたんです…。
エプロンを付けたまま来てしまったり、
とても・・・とても・・・可愛い…らしくて…。
お酒も・・とても強いのです…。
私は・・リア・・さんの…事が・・大好き・・なのです…」

「そうか…」

「なのに・・私は・・リア…さん…を…」

「お前のせいじゃねえだろ?そんなに楽しそうに毎日動いて体力付けてたんだ、頑張ってるよ、お前が諦めてどうするよ。」

「アントン・・ノアさんは?」

「兄ちゃんは・・お前と同じ、倒れた。
ちゃんと親父さんも友達もいたから大丈夫だ。でも少しパニクってたかな。
怖いって泣いてた…リアちゃんが死んでしまうのが怖いって泣いてた。」

「ノアさん・・」

「だーかーらー、お前のせいじゃねえの!
あの兄ちゃんだって分かってるからお前に何にも言わなかっただろ。
多分、お前の事を心配してた。
倒れる前、お前顔色悪かっただろ?
それに気付いて心配した顔してたのが分かった。優しい兄ちゃんだな。」

「ノアさんはとても良い人なんです…。
なのに…」

「お前も良い奴だよ。だから、少し休め。
もしリアちゃん起きたら起こすから。
明日も色々あんだろ?俺が手ぇ繋いでやるから寝ろ!」

「手は…いいです」

「文句言えるなら大丈夫だな。おやすみ、ジャン。」

「おやすみなさい、アントン。

アントン・・・ありがとう…」



しばらくするとジャンの寝息が聞こえた。

そっか・・ジャンも辛いな、この状況。


静かに部屋を出て、食堂に行くと、じいちゃんが待ってた。

「アントン様、ジャニス様は?」

「寝かしつけた。今日は俺が付いてるからジャンの事は任せな。」

「アントン様、ありがとうございます。わたくしだけでしたらジャニス様を落ち着かせてあげられませんでした。」

「良いの良いの、いつも世話になってるからね。他の人は?」

「皆さんお部屋に。おそらくまだお休みにはなられていないようです。」

「だよね。俺もジャンのとこにいるから、何かあったら言ってね。ついでに夜食ちょうだい。」

「後で部屋の前に置いておきますので」


ジャンのとこに行く前に、リアちゃんがいる部屋の前に立った。
頭を下げてお願いした。

「頑張れ、頑張ってくれ。」



神様なんかより本人にお願いしたかった。

ジャンの為にどうか頑張ってくれ、頼む…














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