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どうしても最後に顔を見たかった
しおりを挟むダリオ視点
アイツは最初から気になった。
最初は可愛い普通の令嬢だったのに、少しずつ少しずつ荒んでいった。
恐る恐る店に入り、何かを探していた。
しばらく経ってからまた来てキョロキョロ探している。
聞いてきたら相手にするが、何も聞かないのならこっちからは声はかけない。
危ない薬が欲しいなら、声をかけるくらいの覚悟がなきゃ使えねえだろと思ったから。
俺はマスナルダの伯爵家の妾腹の子だった。
全く顧みられる事なんてなかったが、勉強だけはさせてもらえた。
剣術、体術を覚えたら、師匠に暗殺術も覚えさせられた。
気付けば騎士団の諜報部隊に入れられていた。
そして更に隠密部隊に入れられた。
国内外の諜報、暗殺、国の後ろめたい部分を隠す為、アホな貴族の息子の尻拭い、プライドの高い王太子の監視、報告、他国の情報収集、王族の反対勢力への牽制、毎日毎日貴族の裏側のきったない部分しか見てないから、クソ面白い事なんかなかった。
ただ外国での情報収集は気が紛れて嫌いじゃなかった。
外国の情報なんて、大体女を抱いてたら面白いほどたくさんの情報を教えてくれる。
楽しくはないが、楽だ。
時折、面白い女にも会えるし。
ヴィンカ国は意外と楽しめた。
先ず俺の仮の仕事が薬屋な事。
薬草は好きだ。
子供の頃、植物図鑑しか見るものがなかったからそればっかり見ていた。
そのせいか植物は好きだ。
そしてなんだか知らないが、やたらと死にたがりな貴族のおっさん。
破滅するしかない事をしようとしているその男は、師匠と俺が命を受けて接触した男だ。
良い鉱山を持っているとかで国王に目を付けられた。
国王は頭がおかしい。
だから下っ端は苦労する。
命は受けても、のらりくらりと上手く避けながら国王の思い通りにならないように、優秀な宰相に相談しながら仕事をこなしていたが、
この死にたがりの男は、自国の情報を売ろうとしていた。
ダメダメ。あんな国にこんな楽しい国あげちゃダメでしょと師匠と2人でこの男からの情報は流しても大丈夫そうなものだけを宰相に渡し、後は廃棄し、宰相の台本通りに話していた。
薬は俺の趣味で色んな種類を作り、渡していたら、それを作って勝手に何かやっていた。
ま、これくらいなら誰かが何とかするだろうと思って放っていた。
その死にたがりの息子と娘も自暴自棄で、やりたい放題。
夫人は見たこともない。
ひでぇなと思った。
寂しそうな娘の相手を数回した時、俺がヤリながらボソッと言った事に、くしゃって顔を歪めたのが分かった。
それからはヤってない。
そして、アイツに会った。
何に使うのか、必死に薬の情報が欲しいが為にブルブル震えながら俺に抱かれた女。
貴族の令嬢が処女捨ててどうするよ、と思った。
くれるなら貰うとばかりに貰ったが、どうにも危なっかしくて放って置けなかった。
何がアイツをこうも必死にさせているのか知りたくて、調べてみたら、なんて事ない婚約者の浮気だった。
浮気とも言えないほどでただの憧れだ。
ちゃんと結婚しようとしていた。
でもアイツは隣りで見続けるのが辛かったんだろう。
あんな美男美女カップルの邪魔しようなんて普通思わんだろと思ったが、アイツは身体まで投げ捨ててまで、やり返してやりたかったんだろうなぁ…
なんもしてないあの幸せそうなカップルを壊さずにはいられないほど、悔しくて辛かったんだろうと思ったら、薬の事を教えていた。
渡してやったら一瞬泣きそうな顔になったが、何にも言わずに出て行って、それからは会わなかった。
上手くいったらここには来ないと言っていた。
なら上手くいったんだろう。
アイツはスッキリしたんだろうか。
誰も幸せにならない復讐。
自分自身すら幸せにならない。
アイツは誰の子を身籠ったんだろう…
冷遇されて大丈夫なんだろうか。
エリソン侯爵は常識人だ。
息子も優しい男らしい。
だが最愛を奪われ、殴られ・・・・あの優しい男が妊婦を殴らないか。
アイツは死んでもいいと思っている。
だから無茶しそうで怖い。
第一、男なんて腐るほどいるのになんでそこまでやるかな、俺なら・・・・・
俺ならなんだよ。
ま、達者でやってるだろう。
たまにアイツを思い出しながら、娼館行って薬あげたり、死にたがりの屋敷に行ったりしていた。
暇ですぐヤレる女とヤってる最中、アイツが突然来た。
え⁉︎と思ったが、薬やってたから腰は止まらずアイツの所になかなか行けなかった。
もうすぐ終わると思ったら、
「帰る」と言って出て行った。
とにかく腰振って出して、足跡辿ってすぐ追いかけた。
なのにいない。
逆か!
と思って逆に走った。
それでもいない。
クソッ!
と思ったら、馬車停めの馬車に乗ったアイツがいた。
最悪、めっちゃ遠い!
とにかく走った。
すると馬車が停まってアイツが外でしゃがんでた。
だからとにかくアイツのとこに行って、声をかけた。
アイツは驚いた顔してた。
その顔が可愛いと思った。
もっと話したかったけど、他人のフリしてるアイツに、迷惑かけるわけにはいかなくて、馬車に乗るアイツを見送った。
歩いて帰る間、アイツのあの隠れ家に入ってきた時の顔を思い出して、切なくなった。
帰ると言った時の無表情に胸が苦しくなった。
ああ、俺、アイツのこと好きなんだわ。
でも、俺はアイツの護衛に顔を見られた。
多分、アイツは誰と会うのか見張られていた。
俺を調べるだろう。
長くあそこにはいられない。
それに俺はアイツに薬屋で使っている名刺を渡した。
アイツは決して名前を聞かなかったのに。
どうして名刺を渡したのか気になるだろう。
きっとまた来る。
だからギリギリまでアイツを待った。
そして、アイツ…エリーは来た。
薬を買うふりをして、俺に差し入れまで買って、会いに来た。
裏で急いでカードに気の利いた事書こうと思った。
でも何も思い浮かばない。
何か何か一言、そう思い、たった一行だけ書いた。
“いつか必ず。死ぬな”と。
薬と一緒にカードを入れ、エリーに渡した。
そして、この店を閉店すると言った時、
エリーが涙を溜めたのが分かった…。
クソッ、護衛がいなかったら抱いてやるのに!
俯き、俺の顔を見なかった。
見ないまま店を出て行った。
追いかけたかった。
見送ってやりたかった。
好きだと言ってやりたかった。
でもエリーが俺と顔見知りって事はもうバレてる。
これからエリーは尋問される。
エリーは意地でも何も話さないだろう。
下手すれば殺されてしまう。
もう1人の死にたがりが死なないで済むように、考えなければ。
雑貨屋の師匠に助けてくれと言ってみた。
「お前なぁ~あんま一緒にいるなって言っただろ、離れられなくなるからって!
捕まったら尋問はされるだろうな。
どんだけ耐えられるか…。
万が一に賭けれるなら良いこと教えてやる。
成功確率は一割ってとこかな。
どうする、乗る?」
そして師匠に教えてもらった方法は、方法とも言えないものだった。
あの噂のラインハル侯爵に丸投げする話しだった。
ラインハル侯爵にエリーの今の状況を説明させる。
おそらくラインハル侯爵は妊婦であり、最初は被害者でもあったエリーを気にかけていたと仮定して、必ずエリーは俺を助けてと言う…と予想。
俺を庇い、必死な姿に絆されたラインハル侯爵は、俺が諜報員としてエリーとは会っていない事を証明するしか道はない事を説明し、己と俺を助ける為に何をすべきか、的確に、且つ丁寧にエリーを導く…はず。
全部予想。
「だからラインハルの本邸に返さないように、あの美人の令嬢を王都に一刻も早く戻せ。出ないとあの美人に懸想してるラインハルは向こうに行っちまう。
急げ、時間ないぞ。
走れ、小僧!」
もう賭けるしかない。
だから俺は急いで向かったんだよ。
そしたら途中でルーロックの家紋が入った馬車とすれ違った。
護衛もいる。
荷物も結構ある。
あれ、これあの美人が王都に帰ってる?
急いで後を追い、なんとか宿に潜り込んだは良いが、護衛が優秀だった。
でも、多分、エリーに会ってた男だって気付くはず。
なら、早朝にここを出るならエリーが捕まる前に何とかなるかもしれない。
後は祈るしかない。
頼む、ラインハル侯爵、エリーを助けてくれ。
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