信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う

jun

文字の大きさ
上 下
50 / 78

好きだなんて絶対言わない

しおりを挟む


エリー視点


初めて外出した日、汗だくで追いかけて来てくれたダリオ…。

どうして名前を教えたんだろう…。
どうしてあんなに汗だくになってまで追いかけて来たんだろう…。
私が来ても他の女を射精するまで抱き続けたくせに、焦って追いかけ、馬車を追いかけてまで、名刺を渡しに来たのには意味があったの?

帰って来てからずっとそんな事を考えている。

ダリオ…フフ…そんな名前だったんだ…。

このお腹の子がダリオの子なら良いなあ…


ん⁉︎いや、そんな事ない。
誰の子でも関係ない。
もうあたしは普通の令嬢ではないし、ましてや結婚出来たとしても離婚され生まれた子供と共に捨てられる傷物だ。

何の期待もしてないし、幸せになろうなんて思ってもいない。

でも…気になる。
このタイミングで何故無理して名刺を渡したのか。

もう一度…行ってみようか…。

でももう下着屋の裏からは行けない。
どうやって監視の目を潜る?

堂々と薬屋に行く?
行っても問題ないだろうか?
普通の薬屋だ、問題はないだろう。
だけど、長時間、薬屋にいるのはおかしいし、護衛もいる。 

メモを渡すだけでもいけるだろうか…
お金を渡す際に一緒にメモを忍ばせよう。


よし!決めた。行こう。


「すみません、外出したいんですけど良いですか?」

「確認してきます。少々お待ち下さい。」

許可がおり、急ぎ支度して出発した。


商店街に着き、端からぶらぶらと店を見て回った。
雑貨屋の店に試しに入ると、護衛も店に入り、ドアのすぐ横に立った。
これでは裏には行けない。
諦めて、適当に見た後、店を出た。

薬屋の前を通り過ぎ、この前入ったパン屋に入った。
バターのいい香りがして、何個か買い、サンドイッチだけ袋を別にしてもらい店を出た。

引き返している途中で、薬屋に入った。
ダリオが店番をしているのを確認出来た。

「すみません、妊婦でも飲める頭痛薬が欲しいのですが。」

「頭痛薬…少々お待ち下さい。」

カウンターにパンの入った袋を置き、手元を見えにくくし、お財布に入れていたカードを確認し、ダリオを待った。
しばらく待つと、薬が入った袋を持って戻ってきた。

「お待たせ致しました、この薬なら妊婦さんでも赤ちゃんにもお母さんにも影響はないですよ。後、浮腫がとれるクリームをサービスで入れておきますね、良かったら使って下さい。」

「ありがとうございます、ではそれをお願いします。」

金額を聞き、お金と一緒にカードをダリオに渡した。

「これ、良かったらどうぞ。小腹が空いたので食べようかと思っていたのですが、サービスして頂いたので。」

「ありがとうございます、丁度お腹が空いてたので助かります。」

「あと、この店もう少しで閉める事になったんです。・・・こんなお綺麗な方に来て頂けたのに、残念です。」

「閉店…される、のですか…」

「はい。父の具合が良くなくて帰って来いと言われてしまいました…。」

「そう・・・ですか。残念、です。」

「今日は…来て頂きありがとうございました。」

「はい。お身体に…お気をつけて。」

「お客様もお身体に気をつけて。可愛い子が無事に生まれますよう祈っております。」

「あり…がとう、ございます…」

ダリオの顔を見れなかった。
見たら泣いてしまいそうだったから。
必死に泣かないよう、歯を食いしばった。

護衛にバレないよう。
ダリオにバレないよう。
急いで馬車に戻った。

馬車に乗り、走りだしたら胸が苦しくて、頭が痛くて、吐きそうになった。
前回と同じく馬車を停めてもらい、馬車から降りると、吐いてしまった。
吐くものがなくなるまで何度も吐いた。
ひょっとしたらまたダリオが来てくれるかもと思った。

護衛に背中を摩られ、落ち着いても、ダリオがまた汗だくで走ってくるかもしれないと期待した。



どんなに待ってもダリオは来なかった。



帰ってからは、お風呂にも入らず横になった。
ベッドサイドに置いた袋を見たら、泣きそうになり袋を持って脱衣所に行き、すぐに中を見た。

中にはメモが入っていた。
急いで買いたんだろう、乱れた文字で、

『いつか必ず。死ぬなよ』

とだけ書かれていた。


涙が出た。
服を脱ぎ、急いで浴場に入り、シャワーを出して泣いた。

もう会えないんだ。
あそこに行ってもいないんだ。
ぶっきらぼうで私を乱暴に抱くあんな男、大嫌いだった。
でも、私を見る目は優しかった。
褒められた事も、優しくされた事も、好きだと言われた事もない。
私も愛想もなかったし、笑顔なんか見せた事もない。でもダリオの胸に抱かれている時は安心出来た。

いつからだろう、他の女を抱いている姿を見るのが嫌になったのは。
本当は、“他の男に抱かれるな”と言って欲しかったと思ったのはいつだっただろう。

そうか…もう店を閉めるからあの時無理してでも追いかけて来てくれたのか…。
私が来るのを待っていてくれたんだ…。

ダリオはマスナルダの間諜かなにかなんだと思う。
でなければ、あんな薬手に入れられない。
そしてダリオは足音をたてない。
気配も消せる。
枕元には常に短刀を置いて寝ていた。

多分もっと早くに逃げなきゃダメだったのかもしれない。
雑貨屋にいたのはいつもの人ではなかった。
そいつはすでに逃げたんだろう。
でも、ダリオは私を待っていてくれたのだろうか…

馬鹿だ。
目を付けられたら、捕まったら、ダリオはきっと死んでしまう。
さっさと逃げれば良かったのに。
馬車を追いかけて来た後すぐに逃げれば良かったのに。

もう逃げただろうか。
捕まってしまったのだろうか。
私のせいなんだろうか。
無事・・・なんだろうか・・。

止めどなく涙は出る。


心配で胸が苦しい。



もう会えないだろう。
なにがいつか必ずなんだろう。
会える可能性などないではないか。

泣くのはこれが最後だ。

私はダリオなんか好きじゃない。


絶対好きだなんて言わない。


私はもう誰の事も好きにはならない。


自分がされて嫌な事をたくさんした女は、好きな人なんか作れない。

でも、生まれてくる子は茶髪でブルーの瞳だったら良いと思う。










*19時にも投稿しますよ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】元婚約者の次の婚約者は私の妹だそうです。ところでご存知ないでしょうが、妹は貴方の妹でもありますよ。

葉桜鹿乃
恋愛
あらぬ罪を着せられ婚約破棄を言い渡されたジュリア・スカーレット伯爵令嬢は、ある秘密を抱えていた。 それは、元婚約者モーガンが次の婚約者に望んだジュリアの妹マリアが、モーガンの実の妹でもある、という秘密だ。 本当ならば墓まで持っていくつもりだったが、ジュリアを婚約者にとモーガンの親友である第一王子フィリップが望んでくれた事で、ジュリアは真実を突きつける事を決める。 ※エピローグにてひとまず完結ですが、疑問点があがっていた所や、具体的な姉妹に対する差など、サクサク読んでもらうのに削った所を(現在他作を書いているので不定期で)番外編で更新しますので、暫く連載中のままとさせていただきます。よろしくお願いします。 番外編に手が回らないため、一旦完結と致します。 (2021/02/07 02:00) 小説家になろう・カクヨムでも別名義にて連載を始めました。 恋愛及び全体1位ありがとうございます! ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

処理中です...