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好きだなんて絶対言わない
しおりを挟むエリー視点
初めて外出した日、汗だくで追いかけて来てくれたダリオ…。
どうして名前を教えたんだろう…。
どうしてあんなに汗だくになってまで追いかけて来たんだろう…。
私が来ても他の女を射精するまで抱き続けたくせに、焦って追いかけ、馬車を追いかけてまで、名刺を渡しに来たのには意味があったの?
帰って来てからずっとそんな事を考えている。
ダリオ…フフ…そんな名前だったんだ…。
このお腹の子がダリオの子なら良いなあ…
ん⁉︎いや、そんな事ない。
誰の子でも関係ない。
もうあたしは普通の令嬢ではないし、ましてや結婚出来たとしても離婚され生まれた子供と共に捨てられる傷物だ。
何の期待もしてないし、幸せになろうなんて思ってもいない。
でも…気になる。
このタイミングで何故無理して名刺を渡したのか。
もう一度…行ってみようか…。
でももう下着屋の裏からは行けない。
どうやって監視の目を潜る?
堂々と薬屋に行く?
行っても問題ないだろうか?
普通の薬屋だ、問題はないだろう。
だけど、長時間、薬屋にいるのはおかしいし、護衛もいる。
メモを渡すだけでもいけるだろうか…
お金を渡す際に一緒にメモを忍ばせよう。
よし!決めた。行こう。
「すみません、外出したいんですけど良いですか?」
「確認してきます。少々お待ち下さい。」
許可がおり、急ぎ支度して出発した。
商店街に着き、端からぶらぶらと店を見て回った。
雑貨屋の店に試しに入ると、護衛も店に入り、ドアのすぐ横に立った。
これでは裏には行けない。
諦めて、適当に見た後、店を出た。
薬屋の前を通り過ぎ、この前入ったパン屋に入った。
バターのいい香りがして、何個か買い、サンドイッチだけ袋を別にしてもらい店を出た。
引き返している途中で、薬屋に入った。
ダリオが店番をしているのを確認出来た。
「すみません、妊婦でも飲める頭痛薬が欲しいのですが。」
「頭痛薬…少々お待ち下さい。」
カウンターにパンの入った袋を置き、手元を見えにくくし、お財布に入れていたカードを確認し、ダリオを待った。
しばらく待つと、薬が入った袋を持って戻ってきた。
「お待たせ致しました、この薬なら妊婦さんでも赤ちゃんにもお母さんにも影響はないですよ。後、浮腫がとれるクリームをサービスで入れておきますね、良かったら使って下さい。」
「ありがとうございます、ではそれをお願いします。」
金額を聞き、お金と一緒にカードをダリオに渡した。
「これ、良かったらどうぞ。小腹が空いたので食べようかと思っていたのですが、サービスして頂いたので。」
「ありがとうございます、丁度お腹が空いてたので助かります。」
「あと、この店もう少しで閉める事になったんです。・・・こんなお綺麗な方に来て頂けたのに、残念です。」
「閉店…される、のですか…」
「はい。父の具合が良くなくて帰って来いと言われてしまいました…。」
「そう・・・ですか。残念、です。」
「今日は…来て頂きありがとうございました。」
「はい。お身体に…お気をつけて。」
「お客様もお身体に気をつけて。可愛い子が無事に生まれますよう祈っております。」
「あり…がとう、ございます…」
ダリオの顔を見れなかった。
見たら泣いてしまいそうだったから。
必死に泣かないよう、歯を食いしばった。
護衛にバレないよう。
ダリオにバレないよう。
急いで馬車に戻った。
馬車に乗り、走りだしたら胸が苦しくて、頭が痛くて、吐きそうになった。
前回と同じく馬車を停めてもらい、馬車から降りると、吐いてしまった。
吐くものがなくなるまで何度も吐いた。
ひょっとしたらまたダリオが来てくれるかもと思った。
護衛に背中を摩られ、落ち着いても、ダリオがまた汗だくで走ってくるかもしれないと期待した。
どんなに待ってもダリオは来なかった。
帰ってからは、お風呂にも入らず横になった。
ベッドサイドに置いた袋を見たら、泣きそうになり袋を持って脱衣所に行き、すぐに中を見た。
中にはメモが入っていた。
急いで買いたんだろう、乱れた文字で、
『いつか必ず。死ぬなよ』
とだけ書かれていた。
涙が出た。
服を脱ぎ、急いで浴場に入り、シャワーを出して泣いた。
もう会えないんだ。
あそこに行ってもいないんだ。
ぶっきらぼうで私を乱暴に抱くあんな男、大嫌いだった。
でも、私を見る目は優しかった。
褒められた事も、優しくされた事も、好きだと言われた事もない。
私も愛想もなかったし、笑顔なんか見せた事もない。でもダリオの胸に抱かれている時は安心出来た。
いつからだろう、他の女を抱いている姿を見るのが嫌になったのは。
本当は、“他の男に抱かれるな”と言って欲しかったと思ったのはいつだっただろう。
そうか…もう店を閉めるからあの時無理してでも追いかけて来てくれたのか…。
私が来るのを待っていてくれたんだ…。
ダリオはマスナルダの間諜かなにかなんだと思う。
でなければ、あんな薬手に入れられない。
そしてダリオは足音をたてない。
気配も消せる。
枕元には常に短刀を置いて寝ていた。
多分もっと早くに逃げなきゃダメだったのかもしれない。
雑貨屋にいたのはいつもの人ではなかった。
そいつはすでに逃げたんだろう。
でも、ダリオは私を待っていてくれたのだろうか…
馬鹿だ。
目を付けられたら、捕まったら、ダリオはきっと死んでしまう。
さっさと逃げれば良かったのに。
馬車を追いかけて来た後すぐに逃げれば良かったのに。
もう逃げただろうか。
捕まってしまったのだろうか。
私のせいなんだろうか。
無事・・・なんだろうか・・。
止めどなく涙は出る。
心配で胸が苦しい。
もう会えないだろう。
なにがいつか必ずなんだろう。
会える可能性などないではないか。
泣くのはこれが最後だ。
私はダリオなんか好きじゃない。
絶対好きだなんて言わない。
私はもう誰の事も好きにはならない。
自分がされて嫌な事をたくさんした女は、好きな人なんか作れない。
でも、生まれてくる子は茶髪でブルーの瞳だったら良いと思う。
*19時にも投稿しますよ。
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