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何なんだ、この人。
しおりを挟むパトリック視点
ノアとは落ち着いて話すが、俺達家族には何処か怯えているような、拒否しているような妹は、ノアがいない時は窓辺に座り、ノアが来るのをずっと外を見て待っている。
俺が部屋に行き、
「リア、外に出てみないか、お兄ちゃんと散歩しよう。」と言っても、首を振るだけ。
「街に行こうか」と誘っても、首を振るだけ。
「どうしたら許してくれる?」と聞いた時だけ、
「私が許してほしいのに、お兄様の何を許すの?」と答えてくれるだけ。
「リアは何も悪くないよ。何か悪い事をしたの?」と聞けば、
「最初から全部だと思う。」
「リアは最初から最後まで悪い事なんかしていないよ。」
するとまた首を振ってそれ以上は答えない。
「リアはエリカちゃんに会いたい?」
「エリカには会いたいけど、もう嫌われてしまったかもしれない…」
「そんな事ないよ、一度会ってみたら?」
その時は、首を振らなかったので、エリカちゃんに連絡してきてもらった。
エリカちゃんは、様子のおかしいリアを見て泣き出し、リアに抱きついて何も言えない状態だった。
「エリカ、ごめんね、私のせいでごめんね、泣かないで。私がいなくなればみんな元気になれるのかな。」
「いやいや、そんな事言わないで!リア、リアは何にも悪くないのに謝らないで!
お願い、元のリアに戻って!
お兄様が変な事言うからこうなったんでしょ、私がちゃんと怒るから、お兄様が二度とリアを悲しませるような事言わないように怒るから!お願い、リア、私の事を見て、お願い…」
「エリカ、泣かないで。ごめんね、ごめんなさい。」
結局エリカちゃんに会っても何も変わらなかった。
父がリアにあった時は、大変だった。
前の時のように、ひたすら謝っていた。
床に座り頭を下げたリアの姿を見て、父は号泣していた。
「済まなかった、ラミリア…。お父様が悪かったから許しておくれ。
ラミリアを気遣ってあげなくてごめんね、
ちゃんとお前を抱きしめてあげなきゃならなかったのに…。
お前はあの時一度だけ、静かに泣いただけなんだろう…。
もっとちゃんと泣かせてあげれば良かった。そんな事もしてあげず、領地に一人で行かせてしまった…。
済まなかった、ラミリア…リア…戻ってきておくれ、お父様が悪かったから、もう謝らないでおくれ・・・・」
「お父様が悪いわけじゃないの、私が無責任だったから。子供だったから。お父様は悪くないの。」
「ウワァーーーーーーーーリアーーーー」
とリアを抱きしめるが、抱きしめ返す事はなかった。
うちにいるより、また領地にいる方が良いのかもしれないが、リア一人にするのが怖い。
突発的に手首でも切ってしまいそうで怖い。
俺が付いて行こう。
母はリアの姿を見て泣いて父を怒り、それから部屋から出てこない。
母が付いて行っても、役に立ちそうにない。
俺が付いて行こう。
父に相談した。
しばらく領地にリアを連れて行くと。
俺が付いてるから、しばらく執務は父と執事のロッドでやって欲しいとお願いした。
父は、
「リアを頼む」とだけ言い、許可してくれた。
すぐ荷造りをしてリアを連れて、領地に向かった。
ノアは、
「前に領地で元気になったんだから、その方が良いのかもしれない。また、俺が行くから。」と快く見送ってくれた。
ゆっくり進む馬車の中で、俺とユリアがリアに話しかけるが、うっすら微笑むだけで、会話はなかった。
何も話さないリアに、兄の俺にも心を開いてくれない事に、気持ちが折れそうになる。
でも、話しかけ続けたら、いつか笑ってくれるだろうと信じ、話し続けた。
ようやく領地に着くと、少しだけ表情が穏やかになったような気がする。
「リア、領地の屋敷に着いたよ。しばらく俺もここにいるからね。
二人で美味しい物をたくさん食べような。」
すると、
「美味しいもの?」
「そうだ!美味しいものを食べに行こう!
何が食べたい?」
「・・・・食べたいけど、もう食べには行けないから…」
と言った。
ユリアを見ると、気まずそうな顔をした。
後でユリアに聞くとして、今は会話が出来た事が嬉しい。
リアを部屋までエスコートし、ユリアに任せた。
リアは、食べに行けないと言った。
と言う事は、ラインハル侯爵と出会った店に行きたいのか…。
一度、会って話してみたい。
今夜は疲れてるだろうリアをユリアに任せて、その店に一人行ってみた。
いつもカウンターに座り、二人で話していたらしい。
俺もカウンターに座った。
カウンターの中にいる男性は店長で、カウンターの端に座っているのが、ラインハル侯爵らしい。
男性が一人静かにカウンターの隅で酒を飲んでいる。
あの人か?
念の為、店長に声をかけてみる。
「すみません、この店によく妹が来ていたようで、とてもお世話になったと言っていました。
私はラミリアの兄で、パトリック・ルーロックと申します。」
「あ、ラミリア様のお兄様ですか、ラミリアさまはお元気ですか?
ラミリア様はこのカウンターでいつもニコニコしながら料理を食べ、お酒を飲んでいたんですよ。」
「そうらしいですね、妹はここの料理が食べたいと言っていました。」
リアの名前を出した瞬間、顔を上げたその男性は間違いなくラインハル侯爵だ。
「すみません、間違っていたら申し訳ないのですが、ラインハル侯爵でしょうか?」
「はい。妹さんにはとてもお世話になりました。私がジャニス・ラインハルです。
妹さんはお元気ですか?お変わりありませんか?」
「・・・少し、お話ししてもよろしいでしょうか…。」
「はい、構いませんが…。」
「少しそちらに行っても宜しいですか?込み入った話なので。」
「どうぞ。何か飲み物を頼みましょうか、喉が渇きますからね。」
落ち着いた声と穏やかな話し方で、リアが懐くのも分かる気がした。
俺はエールを頼み、エールが来てから話し始めた。
「実は、リアは今日、領地に戻ってきました。でも・・・以前のリアではありません…」
「え⁉︎どういう事ですか。」
「今、リアは壊れる寸前で、笑う事も泣く事もしません…。」
驚いてはいたが、リアをとても心配しているのが分かった。
顔に出ている、“なんで⁉︎どうして⁉︎あんなに元気だったのに”と。
なので、俺はこの人を信じて全部話した。
全部聞いた侯爵は、
「なんて事・・・なんて…」
今にも泣いてしまいそうな顔で、それ以上の言葉が出せないようだった。
「ラインハル侯爵の事はリアから聞いています。侯爵は奥様がいらっしゃるのは承知しております。ですが、一度で良いんです、リアに会っては貰えませんか?
我儘を言ってるのは分かっています。
でもノアでさえも、リアの感情を引き出せません。
あの子は一度も思いっきり泣いてないんです。私達が泣かせてあげなかった…。
あの時、抱きしめて泣かせてあげなくちゃならなかったのに、声を出さずに静かに泣くだけだったんです…。
リアは貴方をとても信頼していました。
貴方のお陰で立ち直れたのだと言っていました。どうか、お力をお貸し下さい。」
俺は侯爵に頭を下げた。
「パトリックさん、頭を上げて下さい。
たくさんの事が短期間に起こったのです。
皆さんが余裕のない状態だったのですから、自分を責めないで下さいね。
私はリアさんの友人です。
友人が困っているなら、助けるのが当たり前です。
ですから、頭など下げる必要はないですよ。お兄さんも、心配して疲れているのですから、ほら、料理が冷めないうちに食べましょう。エールも温くなってしまいました。
喉が渇いたでしょう?飲んでのんで。」
涙が出た。この人何なんだ…こんな優しく話されたら、泣いてしまう…。
「パトリックさんも自分を労らないとね。」
と言って、しばらく俺の背中を摩ってくれた。
「昼間が良いですか?明日、仕事を調節しますので、午後からなら、お伺いできますよ。」
「あり、がとう…ござい…ます…」
「ふふ、泣き方がリアさんと同じですね。
たくさん泣いてスッキリしましょう。」
この人、ヤバイ・・・。
でも、俺もいっぱいいっぱいだった。
だから、侯爵の優しい声音と話し方は、グッとくる。
ああ、この人の前ならリアはきっと泣けるだろう。
だって、俺が泣いたのだから。
その日、ラインハル侯爵は、俺にたらふく料理を食べさせ、酒はほどほどにしか飲まさなかった。
「あまり飲み過ぎると、私では運べませんからね。」
と言って、二人で笑った。
久しぶりに楽しくて、明日、侯爵が屋敷に来るのが楽しみになったし、リアが喜ぶ顔が浮かび、その日はぐっすり眠れた。
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