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優しいお願い

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「そんなわけで私はここに逃げて来たのです…。」

「・・・辛かったですね…。こんなに辛い目にあったのに貴女は誰にも甘えず、周りの事ばかり気遣って自分の事を考えないようにしていたのですね…。

私が抱きしめてあげてたくさんこの胸で泣かせてあげたい…。
それが出来ない事がとても辛いです…。

後2カ月待っていてくれますか?
2カ月後にはミレーヌは実家に戻ります。
そうすれば友人として屋敷に招待しても問題はないでしょう?
その時には、貴女を私が甘やかしてあげますから、待っていてもらえますか?」

「それでもジャン様は独身ではありません…」

「我が家の特殊なこの状況は屋敷の皆が分かっていますし、両親も私を心配していましたが、最近私が笑うようになったと喜んでいるんですよ。
それが誰のおかげなのか、気になっているようです。
私の両親に会ってもらえますか?」

「ご挨拶はきちんとさせて頂きますが、ご迷惑にはなりませんか?」

「友人を招待するのに迷惑などかかりませんよ。だからどうかそれまでは、こうやって二人でお酒を飲む事を続けてもいいですか?」

「はい。こうしてジャン様とお話し出来る事が何より嬉しいです。」

「ありがとうございます。

リアさん、一つお願いがあるのですが、聞いてもらえますか。
無理にとは言いませんし、どうするかはリアさんが決めればいい事です。
それでも私のお願いを聞いてもらえますか?」

「私に出来る事ならば。」

「私がお願いするのもおかしな話しなのですが…。
どうか、もう一度だけ元婚約者の方とお話ししてみてはどうですか?
聞いていたら、私と重なる所があって、とても辛かったのです。

こんなに愛しているのに、
何も自分は悪くないのに、話しもまともに聞いてもらえず、一方的に誰もかれも離れていきました。
リアさんの元婚約者の方も今の私と同じ状態だと思います。
ある日突然、大切なものを全て失って、好きでもない人と結婚しなければならない。
そもそも証拠はなくとも悪いのは、その女性です。悪意の塊のような方に元婚約者の方は目をつけられてしまっただけなのです。
リアさんとの面会の時を狙って媚薬を使い、リアさんに見せつけようとした汚いやり方、私は許せません。
おそらく元婚約者の方は体力も精神力もボロボロの状態だったのでしょう。
抗う力はなかったと思います。
そして愛する人に一番見られたくない姿を見せてしまった彼は、きちんとした説明も立ち上がる気力も残っていないのでしょう。
どうか、一度だけ彼の話しを二人だけでお互いに落ち着いて聞いてみてはもらえないでしょうか?

私には出来なかったから…。」

「私・・・」

「無理にとは言いません。
リアさんが負った傷は深くて痛いものでしょうから。
でも彼も、深くて痛くて血を流している傷が今でも続いている事でしょう。
せめて、血を止めてあげてもらえないでしょうか?
そして、それを治してあげるのか、治療だけをするのかはリアさんが決める事です。

確かに子供が出来てしまっては私のように籍をいれるしかないのかもしれません。
ですが、私のように出産したらミレーヌは実家に返して、時がくれば離婚出来るのです。
リアさん、貴女が結婚しようとしていた方です。
おそらくとても素敵な方なのでしょう。

手紙を出してみる気はありませんか?」

優しくノアの事を心配する声は、私の心に染みていった。

確かに傷付いた。
でもノアも傷付いたはずなのに、私は話しも聞かず逃げ出した。

あんなに泣いていたのに…。


「手紙を出したいと思います。」

「良かった。自分の事のようで彼の事が心配になってしまって…。
もちろんリアさんの事が一番心配ですが、出産するまで後2カ月はありますが、早まる事もありますし、何があるか分からないので、こちらにもあまり来れなくなるかもしれません。
私は私のやるべき事をします。
リアさんもどうか無理せず自分の気持ちの整理をなさって下さいね。」

「はい。ありがとうございます。
ジャン様がいてくれて、本当に良かったです。私も今ほどここには来れないかもしれませんが、私も私が今すべき事をやります。」

「はい。リアさんはとても素直で可愛らしいですね。」

「か、や、もうー揶揄うのはやめて下さい…」

「フフ、揶揄ってはいないのですが、可愛らしい姿を今日も見れて良かった。」

「ジャン様!」

「はい、ごめんなさい。」


ジャン様の優しいお願いを聞いた後、ノアに手紙を書いた。





『大好きなノアへ


ちゃんと話しも聞かず、逃げてごめんなさい。

ちゃんと眠れてる?
ご飯は食べてる?
仕事には行けてるの?
病気にはなってない?

心配する事ばかりだけど、そうさせたのは私なのに、ごめんね。

傷付いたノアを放っておいて、自分だけが傷付いたと逃げ出してごめんなさい。

ノアが誰よりも傷付けられたのに、責められるばかりで辛かったでしょうに…。

今、私は領地の屋敷にいるの。

もし、もう一度、ノアに会いたいと言ったら会いにきてくれる?

ちゃんと話しを聞きたいと言ったら、話してくれる?

もう、私の事を嫌いになってしまったなら、返事はいりません。


ちゃんと食べて、眠って、お風呂にも入るのよ。



あなたのララより』












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