信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う

jun

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笑顔にしたい

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ジャン視点


結婚してから、何も楽しい事がなくなった。

元々結婚したかった人は妻ではない。
ずっと想い続けていた人と後少しで、一緒になれる筈だった、あの日、ミレーヌの所にいかなければ。

ミレーヌは幼馴染みだ。
親同士の付き合いで、子供の頃から一緒に遊んだ妹のような子だった。
ミレーヌも私の事を兄のように思っていた。
だから、あの日、ミレーヌが宿屋で自害しようとしたと聞いて、駆けつけた。

どうして私の所に連絡が来たのかは、ミレーヌが病院に運ばれる時に私の名前を言ったからだ。

なので、誰よりも早く病院に着いた。
医者からの説明も私が最初に聞いた。
ミレーヌの両親が駆けつけた時に説明したのは私だ。

病室にはミレーヌの両親と私が入った。

手首を切ったミレーヌは錯乱状態で、

「ジャニス兄様、赤ちゃんが、赤ちゃんが出来てしまったのです…」

と私に向かって大声で言っていた。

詳しく聞けば、相手は平民の男で、名前も職場もなにもかも嘘で、子供が出来たと告げたら逃げられたというのが、真実なのだが、瞬く間に噂が広がった。

“ジャニス・ラインハル侯爵がミレーヌ・レグリス子爵令嬢を妊娠させた”

ミレーヌに悪気があったわけではないのはあの場にいた全員が知っている。
ただ“兄”として私に助けを求めただけだったのだが、その声を聞いた人達はそうは思わなかった。
そして、ミレーヌが自害しようとした事も広がり、私はミレーヌを妊娠させて、捨てようとした男となっていた。

我が家もレグリス家も否定したが、すればするほど非難された。

私の想い人のフィリアも信じてはくれなかった。

どうする事も出来なかった。
ミレーヌは、申し訳ないと何度も自害しようとする。
気にするなと言っても、泣いて暴れる。
家督を譲った私の両親もミレーヌの両親も、疲れ果て、子供を産んで数年したら離縁しても良いから結婚しろとなった。

私には選択肢などなかった。

籍だけ入れて、ミレーヌをラインハル家に迎え入れた。

使用人も複雑な関係に戸惑っていた。

ミレーヌは妊娠してる事もあり精神的に不安定で、目が離せない。

恋人に捨てられた事がトラウマなのか、今度は私が離れるのかと騒ぐ。

ただ仕事はしないとと思っているようで、仕事と言えば離れていても大丈夫なようだ。

とにかく子供が生まれたらイグリス家でミレーヌは療養させるという事でおさまった。

だが、醜聞は消えない。

イグリス子爵と夫人は申し訳ないと頭を下げるばかりだし、私の両親も窶れ果てている。

その日の仕事を終わらせれば、お気に入りの店で酒を煽るくらいしか楽しみはなかった。

そんな日が続いていたある日、銀髪で淡いピンクの瞳の美しい女性がその店に来るようになった。

お酒に強いようで、連れの女性が毎回酔っている。
どうやらこの領地のルーロック伯爵家の“ラミリア”嬢らしい。
連れの女性は毎回ラミリア嬢の元婚約者らしき人の事を怒っている。
手酷い裏切りにあって領地に来たようだ。

いつも連れの“ユリア”嬢を気遣い、周りの客に気遣い、自分の気晴らしになっているとは思えなかった。

その日も変わらずユリア嬢が酔って元婚約者を罵っていたが、パタっと寝てしまった。

急に静かになり、彼女は店長と話していた。

盗み聞きする気はなかったが、彼女の状況は私に似ているような気がして、聞き入ってしまった。

店長が離れたので、彼女を見たら、静かに泣いていた。
声すらも出せないのかと切なくなった。
冷静になろうとしているのか、手元のグラスに口を付けているが、その口元は震えている。グラスを持つ手も微かに震えている。
時折、手を見つめてはまた震える手でグラスに口を付けている。
その間、涙は止まってはいない。

見ていられなかった。
思いっきり泣かせてあげたかった。
しかしこんな所では、泣かせてあげるより笑顔にしてあげたい。
そう思い、ハンカチを思わず出してしまった。

急にハンカチを出したからか驚いてこちらを見た瞳には涙の幕が張り、私の顔も見えてはいないだろうが、怯えさせないように、怖がらせないように、微笑んだ。

その後、少し彼女と話した。

それぞれの相手になんて罵声を浴びせようかと二人で言い合い、ようやく彼女が笑った。

なんて愛らしいのだろう。




こんなに穏やかな気持ちになったのは久しぶりだった。














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