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誕生日プレゼント

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あれから、彼とクスクス笑いながら言いたかった罵倒の数々を言いながら、飲むようになった。
因みにユリアとバートはカウンターではなく、テーブル席にいる。


名前も知らない、何処の誰かも知らないその人といると、何故か穏やかな気持ちになれた。

罵倒の種類を思い出せば、どうやら好きな人と別れて、別の人と結婚させられるか、させられたのか、そのどっちかっぽい。

結婚しているのなら、これ以上の気持ちは危険だ。

だから何も聞かない。

ここでだけの付き合いだ。

私もずっとここにいるわけではない。

でもこの心地良い空間を今は失くしたくないと思ってしまっている。

「今日は元気がないですね。どうしました?」

「いえ、少し考え事をしていました…。」

「彼の事ですか?」

「いえ、別の事です。」

「私の事ですか?」

「・・・・そう…ですね。」

「何が気になりますか?」

「有り過ぎて何を聞きたいのか分かりません。」

「それじゃあ、何が気になってっているのか私が当ててみましょう。」

「フフ、当てられますか?」

「頑張ります。」

「私にも分からないのに、貴方に分かりますか?」

「そうですね…質問方式でいきます。」

「質問方式?」

「それでは…私は何者だろうと思ってますか?」

「はい」

「年齢はいくつだろうとか。」

「そうですね。」

「どこに住んでるとか?」

「気になりますね。」

「私は貴女が何処の誰か、ユリアさんとの話しで知っています。貴女は私が誰か知りたいですか?」

「…分かりません…。知りたいけど、知ったらもうこうして話せなくなりそうなので…。」

「なるほど。じゃあ、愛称と年齢だけ言っても良いですか?」

「それくらいなら…」

「ジャンとお呼び下さい。年齢は25です。」

「ジャン様」

「様はいりません。」

「でも私はもう少しで20歳ですが、今は19です。呼び捨てはさすがに出来ません。」

「私は先日誕生日でした。なので5歳離れているのですね。」

「誕生日だったのですか?いつですか?」

「先週です。6月4日です。」

「言って下さい!お祝いしたかったのに!」

「アハハ、さすがに自分からは言えませんよ。」

「次にプレゼントを持ってきます。」

「楽しみです。ここ数年誕生日プレゼントなどもらっていませんから。」

「それは責任重大ですね。頑張ります。」

「アハハハ、頑張らないでください、そんな事で。貴女とこうして飲める事がプレゼントになりますから。」

「ダメです!私の誕生日に貰いづらいじゃないですか!」

「貰う気満々ですね、フフ。」

「なので、次に会った時に渡しますからお楽しみに。」

「はい、楽しみにしています。」

「あ・・・食べ物とかの方が良いのでしょうか…?」

「ん?何故でしょう?」

「えーと、形に残る物は、その~貴方に迷惑をかけてしまうのではないですか?」

「ジャンですよ、リアさん。」

「あ…そうでした。」

「気になるのであれば、花を一輪下さい。」

「花?ですか?」

「はい。貴女がくれた花を飾りたいです。」

「そんな言い方は…やめて下さい…勘違いしてしまいます…」

「・・・そうですね。すみません、言い方を変えます。
貴女が選んだ花を下さい。」

「変わってないような気もしますが、分かりました。」

「とても…とても楽しみにしています。」




ジャン様の腰まで伸びた金髪は後ろで一つに束ね、アメジストのような綺麗な瞳をやんわり細めて微笑む姿を最近はまともに見れなくなっている。

決してジャン様に対する自分の気持ちを明確にしてはいけない。
もう諦めるしかない想いは嫌だ。

なのに、誕生日プレゼントを渡したい、
私の誕生日にプレゼントを貰いたい、
私から貰った花を飾りたいと言われて涙が出てしまいそうなほど嬉しかった。


ノアの事は今でも好きだ。
辛くて辛くて夜も眠れなかった。
今でも、ノアが子供を抱っこして、あの人と微笑み合っている夢を見る。

そんな時は、ジャン様の穏やかな笑みを思い出して、気持ちを落ち着かせた。


私・・・ジャン様の事…



うん、分かってる、自覚はしてる。
でも、その二文字は決して口にはしないし、頭の中でも浮かべないようにしなければ。
そしたら、彼と楽しくお酒を飲める。


私の2度目の恋も実る事なく終わるだろう。










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