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弟
しおりを挟むヘンリー王太子 視点
俺の弟は可愛げがない。
口も悪いし、愛想もない。
だが、兄の俺をちゃんと敬い、慕ってくれる可愛い弟だ。
小さい時は、後ろをちょこちょこ追いかけて来て、鬱陶しいと思いつつも可愛かった。
第一王子として、幼い頃から厳しく教育され、自由も楽しみもなかった。
もちろん父や母からの愛情は貰っていたが、
辛い時の方が多かった。
それは弟も同じで、
段々、話さなくなり、たまに話すと弟は俺に対して敬語になっていた。
俺が学院へ入学する頃はほとんど会話はなかった。
婚約者のエリスの存在が唯一の癒しで、
父のように仲のいい友人もいなかった。
卒業し、結婚した頃に弟は学院に入学した。
俺と同じで、淡々と毎日を過ごし、楽しい事もないままのように見えていた。
だが、側近候補を付けたあたりから弟の様子が変わった。
夕食の席で楽しそうに学院の話しをするようになった。
ある生徒の名前をよく出していた。
“ロイ”と“リリーちゃん”。
その二人の話しは、とにかく破茶滅茶で、
父と母と一緒に笑った。
その後、たまに別の女の子の名前が出るようになる。
それが“トリーちゃん”だ。
トリーちゃん率いる『愛でる会』の話しも面白かった。
それにトリーちゃんは、サイモンの妹だった。
そのうち、弟はトリーちゃんの話しが多くなった。
弟に付き纏っていた女子生徒を撃退した話しにはちょっと感動した。父と母は爆笑していたが。
羨ましいと思った。
それから弟は、トリーちゃんと婚約した。
友の怪我が心配で食欲を無くし、夜も眠れない様子は見ていて心配になった。
次の日には元気になっていたが。
父に連れられ温泉地に行って、父が襲われたと母と聞いた時は、肝が冷えた。
父と弟がいなくなったらと、王太子になって初めて怖いと思った。
そんな弟の卒業式を見たかった。
楽しく過ごした学院の最後に何を話すのか聞きたかったし、
それを聞く皆の様子を見てみたかった。
父も母もいない留守を守るのは俺だけだ。
しかし見たい。少しだけでも見たい。
初めて我儘を言った。
「ルイの卒業式が見たい」と。
父と母は笑って許してくれた。
俺は弟に見えないように、
皆に見つからないように、
こっそり見ていた。
弟の挨拶は素晴らしかった。
弟の話しに、笑い、泣き、号泣する様に、
本当に弟を好いていてくれる皆に、
涙が出た。
父と母はずっと泣いていたが。
挨拶が終わり、急いで城に戻った。
なんだか興奮して、仕事が手につかない。
ユージンを見て落ち着こうと部屋へ行くと、エリスがいて、
「ヘンリー、どうしたの?目が赤いわ」
と聞かれ、ゴミが入ったと誤魔化した。
夕食が終わり、各自部屋へ戻ろうとした時、
「兄上!」
と弟が呼び止めた。
「今日は来てくれてありがとう。兄上が見ていてくれて嬉しかった!」
と子供の頃のように笑った。
「ルイ、卒業おめでとうー!」
と言って別れた。
いつ気付かれたのか分からんが、
昔の可愛い弟に戻ったルイは、
俺の自慢の弟だ。
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