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番外編

拓也と里奈が離婚するまでの話 拓也視点

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可菜に別れを告げられた日、俺は呆然とし、どうマンションから帰ったのか覚えていなかった。

出て行った俺が戻ってきた事に里奈は驚いていたらしいが、声をかけてもボォーっとしたままソファに座り、ずっと床を見つめていたそうだ。

里奈は俺と可菜に何かあったのは分かったが、何も聞こえていないようだったので、放っておいたそうだ。

俺は一睡もせず朝を迎え、シャワーを浴びている時にようやく可菜と別れた事を思い出した。

可菜に言われた言葉が頭の中で何度も再生された。

俺が里奈を選んだ?
最初から?

言われてみれば、俺は一度も里奈に可菜の事を言わなかった。
会いたくなかったのは本当だ。
話したくもなかったのも本当だ。
だから

なんで俺は可菜の事を言わなかったんだろう。
一言でも里奈に結婚予定の恋人がいると何故言わなかったんだろう。

そうだ…可菜に言われた事が正解だ。
俺は断れないと最初から分かってた。

可菜と別れたくないのは本当だった。
なんとかしようとしていた。
でもどうにもならないだろうと最初から気付いていた。
だから里奈には言わなかった。
ガチャガチャ言われるのが面倒だったから。
可菜に何かされるのが嫌だったし、結婚するしかないなら、面倒は起こしたくない。
だから諦めたんだ、俺は。

可菜以外の女に触れるのは嫌だったのは確かだった。
初夜に吐きそうになったのも本当だ。
でもそのうち何も感じなくなった。
どうでも良いと思っていたから。
結婚式で俺と可菜の事を知った里奈は、罪悪感で俺が無視しても何も言わなかったのが分かったから、優位に立ったと思った。
だから里奈の存在も気にならなくなったし、俺に跨っても好きにさせていた。
俺のを咥えようが、勝手にキスしようが放っていた。

それを俺は可菜に話していた。
そんな事されても俺は可菜以外には勃たないよと知ってほしかったから。
可菜に言われるまで気付かなかった。
愛する人が他の女性に挿入はしていなくても、それ以外はしているのだ。
それを得意げに話していた俺の言葉に可菜が傷付かない訳がないのに…。

里奈に妊娠したと言われても動揺なんてしなかった。
勝手に産めば?としか思わなかったから。
子供も生んだらちゃんと可愛がると思った。

でも可菜もほぼ同時期に子供を産む。
その時、俺はどっちの出産に立ち会っているんだろう。
生まれたら可愛いだろう、きっと。
ハイハイした。
歩いた。
喋った。
何をしても可愛いと思い、散歩も買い物も行くだろう、と。

俺は最低だ。

可菜の言う通りだ。
可菜が子供さえ出来れば俺と別れる事はないと思っていたが、子供こそ作るべきではなかった、どちらとも。
俺は可菜に言われた通りになるだろう。
その時の可菜の気持ちを考えていなかった。

里奈が産んだ子供でも可愛がってしまうだろう。
そしたら可菜は?
可菜が子供を産んだら俺はその子と散歩出来るのか?
三人で買い物に行けるのか?
無意識に可菜を日陰の身にしていたのに、堂々と外を親子三人で俺は歩いたのか?
いや、俺はごめんなって言って二人を閉じ込める。
里奈との子とは堂々と公園にでも行けるのに。

何も考えていなかった。
そこまで考えていなかった。

馬鹿だな…そんな事も分からなくなっていた。
可菜は少しずつ、少しずつ、俺に傷付けられてたんだなぁ…

捨てられても仕方ない…。

でも、それでも、やっぱり可菜が良い・・・
側にいて欲しいのは可菜だけだ・・

「可菜・・・ごめん・・可菜・・・・可菜・・」

そこへ里奈が来た。

「可菜さんと別れたの?」

「ああ・・・」

「私が妊娠したから?」

「可菜が妊娠したからだ・・」

「は⁉︎なんで⁉︎なんで妊娠したのに別れるのよ⁉︎」

「外を子供と堂々と歩きたいからだそうだ…。
お前の生んだ子は俺と外を歩けるのに、可菜の生んだ子とはそれが出来ないから・・・。

なんで・・・なんで愛してる女の子供を抱く事も出来ないんだよ…なんでお前は俺を好きになったんだよ…なんで・・・」

「そんなに愛してるなら私と離婚すればいいじゃない!」

「出来たら結婚なんかしていない…。
だが少しずつ準備はしてる。
でもまだ出来ない…従業員がいる…俺の勝手で放り出せるなど出来ない。

済まない・・・俺の我儘だが別居して欲しい・・・。
子供が言葉を話す前に離婚して欲しい…。

親父の会社にいた従業員達を何とかするから…まだ離婚はしないで欲しいが、俺と親父はどうなってもいいから、全て片付いたら離婚して欲しい…。

俺はお前が生んだ子でも可愛がると思う。
愛すると思う。
でも俺にその子を愛する資格はない…。
お前も俺よりももっと良い男と再婚した方が良い。

それに、もう俺に触らないでくれ…頼む…。
俺はもう耐えられない・・・。
どうでも良いと思っていたが、もう可菜を裏切る事をしたくない・・・。
可菜は俺を捨てた…。
遠くへ行ってしまう…。
会う事も子供を見る事も出来ないけど、俺は可菜にも子供にも、お前にもお前が生んだ子供にも恥ずかしくない男になりたい・・・」

「・・・ハア…元々私のせいだもの…。
最初から言ってくれてたら無理強いはしなかったのに…。
でも私も貴方が断るなんて少しも思っていなかったのも悪いの。
お父様が勝手にやった事でも元凶は私。
本当に私は他の人を不幸にしてまで結婚なんかしたくなかった。
今更だけど・・・。
結婚してからは意地になってたし、やっぱり貴方が好きだったし。
でも一緒にいればいるほど、虚しくなった。
こうなってしまったら愛する事も、愛されようとも思わない。

ここを出て実家に帰るわ。
父には言わないけど母にだけは事情を話しておくから。
子供は私が育てる。
産まれた時は連絡する。
ここにはもう戻らないから、貴方が全てを終わらせるまで住めば良い。
離婚届は送ってくれたらすぐサインして出すから。
慰謝料も養育費もいらない。
父には手を出さないよう母から言ってもらうから。

改めて、ごめんなさい、私が貴方達をめちゃめちゃにしてしまいました。
可菜さんには本当に申し訳ない事をしたと思ってます。
でも、私は貴方には謝らない。
貴方が一言、愛している人がいると言ってくれてたらこんな事にはならなかったんだから。」

「・・・可菜にも言われた…。
俺はお義父さんに諦めてもらうしかないとしか考えてなかった。
君に会いたくなかったから、何も伝えていなかった。
済まなかった…。
申し訳ありませんでした・・・。」

「許せないけど、許さないとは私には言えないから・・・。」


こうして俺と里奈は別居した。

俺の両親に事情を説明した。
親父に殴られ、母には怒鳴られた。
可菜にも里奈にも俺がした事は最低だと、母は泣きながら怒っていた。

可菜の両親には、俺と両親が頭を下げた。

「妻とは離婚する事には同意を貰っています。妻との子供とは一度だけ会う事を許してもらいましたが、俺の存在を子供には伝えたくないそうです。
会社の事もありすぐには離婚出来ません。
ですが、離婚しましたら一度だけ、遠くからでも良いんです、可菜を、子供を見る事をお許し下さい。

待っていて欲しいとは言いません。
可菜が他の人と結婚しても構いません。
二度と可菜には会えなくても構いません。
ただ俺が可菜を愛し続ける事をゆるして下さい。
可菜が別の人を愛して幸せになるまで、可菜を愛させて下さい。
お願いします、お願いします!」

可菜の両親は、俺が離婚してから考えますと言ってその場では認めてもらえなかった。

両親には帰りに頭を叩かれた。

「あんたは謝罪にきて何言ってんの!タイミングってものがあるでしょ!
誠意が足りない!圧倒的に誠意が足りない!」
と母がブチギレていた。

それからは父とひたすら仕事をしながら、父の会社をたたむ準備をした。

その合間に俺は可菜に手紙を書いた。
渡せなくても、可菜が読んでくれなくても、今日何をしたか、何を見て可菜を思い出したか、短くても毎日便箋一枚書いた。
1週間分を封筒に入れ、可菜の父親の病院に行った。
父親ではなく可菜の兄が継いでいて、俺が行くと患者以外はお断りと帰された。
それでも毎日通い、頭を下げた。
渡さなくてもいい、可菜が読まないで捨ててもいい、捨てても構わないから受け取って欲しいと頼み続けると、可菜の義理の姉の美穂さんが、
「私が預かるけど、渡すかどうか私には決められない。でも、貴方が可菜ちゃんを想い続けている事は伝わったから、もう頭は下げないで。」と言ってくれた。


そして里奈が無事に子供を産んだ。
連絡が来て、産まれたばかりの子供を抱かせてもらった。
男の子だ。
涙が出た。
たった一度だけしか抱けない我が子。
名前すらつけてやれない。
酷い父親だ、俺は。
だってこの子を抱きながら考えている事は、可菜の子は無事に産まれたんだろうかという事だから。
どうか幸せになって欲しい。
もし、今後一度でも俺に会いたいと思ってくれた時は、この子に恥ずかしい父親だと思われないような男になっていたい。
そう思った。
そしてこの日が里奈に会う最後の日だ。

「無事に産まれて良かった
里奈もこの子も幸せになれるように祈っている。もし、この子が俺に会いたいと思った時、里奈が会わせても良いと思ったならいつでも連絡して欲しい。」

「今更名前呼びって・・・。

でも無事に産まれて良かった。
名前は決まってるの、“広輝こうき”せめて最後に名前を呼んであげて。」

「広輝…広輝、ごめんな。
もう抱いてあげられない父親でごめん。
でもどうか幸せになって欲しい。
お前が困った時は俺を頼ってもいい。
でもお前はママにカッコいい父親を探してもらって、その人に幸せにしてもらえよ。
本当にごめん…。

でも、産まれてきてくれてありがとう、広輝。」


親子三人の時間は、たったの数分で終わった。

それからの一年は早かった。
ほぼ残務も終わり、俺と父が辞めるだけとなった。
そして、里奈に離婚届を送った。
里奈の父親に会い、辞表を渡し、里奈との離婚を告げた。
里奈からなのか義母からなのかは分からないが、義父は知っていたらしく、

「娘可愛さでやった事は娘を不幸にしただけだった。
君にも君の御両親にも迷惑をかけた。
それにも関わらず今まで真面目に仕事をしてくれた事は感謝している。
だが娘にした事は許さない。
今後我が家に関わらないのであれば、私も君達には何もしない。

君の恋人には辛い思いをさせた。
その事だけは申し訳なかった。」




そして俺はやっとただの伊藤拓也になった。















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