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恋人から愛人になった女
しおりを挟む拓也の奥様、里奈さんが私に会いに来た。
てっきり罵倒されるのかと思いきや、おそらく私達の事を知り、自分のせいだと罪悪感に苛まれていて謝罪しようと思ったのかもしれない。
私と拓也がこんな関係になる前なら私も文句の一つも言えただろうが、今は私が謝罪する立場だ。
それに里奈さんが拓也の子供を妊娠した…。
罵倒された方がマシだった…。
拓也が奥様と上手くいっていない事は分かっていた。
拓也は何も言わなかったし、私も何も聞かなかったけれど、ボソッとたまに家庭の事をつぶやく拓也は疲れきっていて、それ以上は聞けなかった。
それ以上聞いてしまうと、私の中の仄暗い欲望が溢れてしまいそうだったから。
拓也は仕事が終わると、このマンションに真っ直ぐやって来る。
私が家にいる時は「おかえり」と迎え、私の作った夕食を食べ、お風呂に入り、私を抱いて、深夜拓也は帰って行く。
決してここが拓也の家ではないのだ。
拓也には別の家があり、その家には触れられる距離に“妻”がいる。
時折呟く拓也の奥様の話し。
「たまに勝手に俺の上に跨って、一人で良がってる時があるけど、俺は可菜以外には勃たないのにな」
そう言えば私が安心すると思っている拓也は、私が傷付いているとは思っていない。
何処の世界に、自分が愛している男に裸で跨って良がる女の話しを聞いて安心出来るのだろう。
抱きはしないが、肌には触れさせる。
抱きはしないが、同じベッドに寝ている。
愛してはいないが、必ず自宅には帰る。
そして、子供が出来た。
今、私のお腹にも拓也の子供がいる。
いつもゴムを付けてとお願いしても、ピルを飲んでるなら大丈夫と言って中に精を出す拓也は、私を妊娠させようとしているのはすぐに気付いた。
でも奥様の事を呟く拓也は、決して自分からは離婚を切り出しはしないのだなと気付いた。
事情があるのは知っているし、理解もしている。
結婚するしかなかったから、私達は身体の半身を引き裂かれるような思いで別れた。
拓也と別れて、辛くて、悲しくて、死んでしまおうかと思うほど苦しくて辛い毎日だった。
病院で再会した時は、窶れきった拓也の姿に涙が出たし、側にいてあげたいと思った。
一緒にいてあげたいと思った。
拓也が私のマンションに来るようになったけど、以前と同じではなくなった。
拓也は私と同じシャンプーとボディーソープを使っていたのに、高級なシャンプーとソープを使い始めた。
自宅で使っているものと同じにしないと、奥様に気付かれるからと。
そして散々私を抱いた後、拓也は自宅へ帰って行く。
どんなに拓也が私を愛していても、私が拓也を愛していても、私は隠される存在、“愛人”だ。
そして私のお腹の子は不義の子になるのだ。
拓也は奥様が生んだ子を可愛がるだろう。
そういう人だから。
そうすると、必然的にここに来る回数は減るし、無意識に私が生んだ子と、伊藤拓也と奥様の子を比べるだろう。
同じように拓也が愛しても、そこには必ず“差”が出来る。
そしてまた拓也は無意識に私を傷付ける。
それに私は耐えられるのだろうか。
無条件に拓也を愛し続ける事が出来るのだろうか?
無意識に呟く奥様との関係は、以前とは少し変わってきている事を拓也は気付いていない。
「アイツに触られても慣れたのか吐き気が無くなったよ、これも可菜のおかげだな。」
拓也は奥様の存在に慣れてきている。
言葉に出しているのに、拓也は気付いていない。
何れ、奥様を抱くようになるだろう。
そしてまた子供が出来るだろう。
もう私は限界だ。
こんな生活は嫌だ。
誰にも言えない拓也との関係。
大っぴらに二人で出かける事も出来ない、部屋でセックスするだけの関係。
こんな生活を拓也とはしたくなかった。
受け入れたのは自分だが、やっぱり間違っていた。
拓也とまた別れたくないから、必死に考えないようにしてたけど、もうダメだ・・・。
私には耐えられない。
でも、別れると拓也に言っても別れてはくれないだろう。
今の拓也は“悲劇のヒロイン”のように自分の事を思っている。
別れるなんて言ったら、泣いて縋るだろう。
そんな姿を見たら私は、やっぱり別れないと言ってしまうと思う。
だって愛しているから。
どんなになってもやっぱり拓也を愛しているのは変わらない。
でも、もう嫌だ。こんな関係は嫌だ。
奥様とカフェで別れてから、かなりの時間が経った。
電気も付けずに、マンションのソファに座っていた私は、いつもなら拓也が来てもおかしくない時間だという事に気付いた。
夕食も作っていない。
でも、今夜は来ないかもしれない。
里奈さんが拓也に妊娠の事を話しているのだろうから。
可愛らしい人だった。
でも窶れきっていた。
そんな生活をさせてしまっているのは、私のせいだ。
例え、私達が愛し合っていた恋人だったからと言って、あの可愛らしいお嬢様は私達の事を何も知らずに結婚した。
だから今自分を責めているんだろう。
愛人の私に謝罪しようとまで思い詰めているんだろう。
彼女が悪いのだろうか?
あの姿を見れば、最初にきちんと話せば分かってくれたのではないだろうか?
拓也は何も里奈さんに言わなかったのだろう、諦めてしまったから。
その時、玄関の鍵が開いた音がした。
「可菜ー!」
拓也が私に駆け寄り抱きしめた。
「里奈に何もされなかった?酷い事言われたの?身体は大丈夫?」
と私を心配する拓也の顔をジッと見た。
「里奈って呼んでるんだね・・・」
「え?どうしたの?可菜?」
「私の前では名前も出さなかったけど、奥様だもんね、名前呼ぶよね。」
「どう、したの?可菜?」
「拓也は気付いてないけど、拓也は里奈さんの存在を最初ほど嫌悪していないよ。
肌に触れても、触れられても平気でしょ?
挿れなくてもそれ以外はされてるんだから。
子供も出来たし、生まれたらその子を拓也は可愛がるのが想像出来る。
だって堂々と愛せる子供だもの。
外で手を繋いで歩ける我が子なんだもの。
そうすると子供の親として、夫婦の会話もするようになるね。
お宮参り、誕生日、七五三、入学式、卒業式、これからたくさんのイベントがある度、二人は夫婦として横に並ぶ機会が増えていくんだね。
そのうち二人目も出来て、また同じイベントを繰り返して、結局良い夫婦になれると思うよ。
その陰で、私はこの子と二人きり。
拓也とこの子が表で手を繋ぐ事もないし、出かける事もない。
たまに来る“おじさん”に懐く私の子供。
大きくなった子供はどう思うだろう…。
この人とお母さんはどういう関係なんだろうって。
もうやめよう。
拓也を愛してるから、これ以上は一緒にいられない。
仲睦まじい姿を想像して嫉妬に狂う自分にはなりたくない。
子供には、“お母さんは貴方のお父さんを世界で一番愛しているのよ”と言いたい。
だから辛くても、もう会わない。
苦しくても、もう拓也とは一緒にいない。
拓也が離婚しない限り、私は貴方とは会わない。
だって、貴方は一度でも里奈さんに私の事を言わなかったから。
里奈さんに、私を愛しているから結婚は出来ないと一言も言っていないから。
私は里奈さんの我儘で結婚を推し進めたのかと思っていた。
でも里奈さんは知らなかった。
里奈さんのお父様が勝手にやった事だった。
里奈さんのお父様のやり方は確かに許せないし、拓也とおじ様が必死に抵抗していたのも知っている。
でも、拓也は里奈に対しては何も抵抗しなかった。
無意識に受け入れていたのね…。
邪魔なのは私だった…。
ごめんね、拓也。
邪魔してごめん…。
もうここも引っ越す。
病院も辞める。
東京も離れる。
拓也が幸せになれるように遠くで祈ってる。
さよなら、拓也…」
拓也は目を見開いたまま、動かなかくなった。
「別れる?」
「うん、別れるよ。」
「どう、して?」
「拓也は最初から私じゃなく里奈さんを選んでたから。」
「選んでた?」
「無意識にだろうし、会社の為だったんだろうけど、初めから里奈さんと結婚すると決めてたんだと思う。
だから里奈さんには私の事がバレないように里奈さんのお父様にしか私の事を言わなかったんだと思うよ。
“保険”みたいなものにしたんじゃないかな、私も里奈さんも。
私の事を里奈さんに言わなければ、里奈さんとは結婚出来る。
里奈さんと結婚する必要がなくなったら、愛し合ってる私と結婚出来る。
どっちに転がっても拓也は結婚出来るもんね。
拓也は私を愛しているけど、離婚してまで一緒になろうとは思っていない。
私は一生隠れて暮らすのは嫌。
例え夫がいなくても、堂々とこの子と表を歩きたい。
この子に父親はいらない。
貴方には貴方の子供がいるんだから。
拓也の様子を見て分かったよ。
里奈さんから妊娠した事を告げられても、動揺はしなかったでしょ?
絶望はしなかったでしょ?
私はしたわ。
拓也が里奈さんとセックスしたんだって実感させられたもの。
これからも何度もあるわ。
それに私は耐えられない。
拓也が他の女性の横に立ち、一緒に歳を取っていくのを側では見ていられない。
だからお願いします。
別れて下さい、お願いします。」
と土下座して頭を下げた。
拓也は固まったまま何も言わなかった。
随分経った頃、
「分かった。
でも、可菜を愛してるのは信じて欲しい。
里奈なんかより、可菜だけを愛しているのを信じて欲しい。
離れていても俺は可菜とお腹の子を愛していると忘れないで欲しい…。
待っていてとは言わない。
可菜に好きな奴が出来て結婚しても俺は可菜を死ぬまで愛するよ。
ごめん…ごめんなさい…可菜を……傷付けてごめん…。
自分勝手でごめん…。
可菜に甘えてばっかりだった…。
でも…いつか、いつか、子供に会わせて。
他人のふりでもいい、一度で良いから…」
そう言って拓也は出て行った。
こうして私と拓也は二度目の別れとなった。
~三年後~
「ママー、バァバがオケツが痛いってーー!」
「ともくん!オケツじゃなくて“腰”!腰だから!」
息子の智也と母が公園から帰ってきて、玄関先で騒いでいる。
「可菜ーー、お母さん、腰やっちゃったかもー!」と叫ぶ母に、台所で昼食を作っていた手を止め玄関に行くと、母は玄関でうつ伏せに伏せっていた。
「ばあば、オケツが痛いんだって、ママ治してあげて!」
母に肩を貸し、今日は休診日で閉めていた診察室に母を連れて行き、治療をした。
三年前、拓也と別れた私は実家に帰り、両親に全て説明し、拓也と別れた事、二度と拓也と会わない事、そして妊娠している事を告げ、病院も辞めて東京を離れると言った。
病院は辞めても、東京を離れる事はないだろうと言う両親を説得し、なんとか了承を得ることが出来た。
父は私と同じ医者だが、いわゆる“町のお医者さん”だ。
そこを将来継ぐのは兄だ。
兄は今は別の病院に勤めているが、いずれは父の後を継いで、患者さんと近い存在の医者になりたいと思っている。
丁度いい機会だと父は兄に“高橋医院”を譲り、私と一緒に両親もここ、宮城県に引っ越し、父と私で整形内科医院を開業した。
両親が側にいるだけで、出産は安心出来た。
そして生まれたのが、可愛い息子、智也だ。
両親も私もこの子には敵わない。
父も母もメロメロだ。
智也は目元が拓也に似ているが、基本、私似だと思う。
外遊びが大好きで、毎日付き合わされる母はヒーヒー言っている。
何に数回、兄のお嫁さん、美穂ちゃんが華ちゃんを連れて遊びに来てくれる。
華ちゃんは智也の一つ上だけど、智也の世話をよくしてくれる。
だから智也は華ちゃんが大好きだ。
美穂ちゃんやお兄ちゃんが来てくれる時に、必ず渡されるものがある。
拓也からの手紙だ。
あれから会った事はないし、連絡を取ったことも、来たこともない。
ただ兄の所に手紙を持ってくるんだそうだ。
私はその手紙を読んでいない。
兄も、私が読んでいないと拓也に伝えてくれている。
それでも月に一度持ってくるんだそうだ。
何度断っても、目の前で捨てても持ってくる拓也に兄は諦めたらしく、大人しく受け取っては、たまにこっちに来た時まとめて私に渡すのだ。
捨てようと思うが、やっぱり捨てられないでいる。
気になるなら読めば良いのに、その手紙に、二人目が出来たと書かれているかもしれない、
家族写真が入ってるかもしれないと思うと、怖くて開けることが出来ない。
新しい出会いがない事もない。
結婚を前提に付き合いたいと言ってくれた人もいる。
だが、頷く事ができなかった。
まだ忘れられないから。
「ハア~~ヤダヤダ!」
「可菜…手紙読んでみたら?」
腰の治療が終わり、コルセットを巻いて動けるようになった母は、何度も手紙を読めと薦める。
「まだ読めない。この手紙に少しでも拓也と家族の事が書いてあったら、私は私じゃなくっちゃう…智也の良いお母さんじゃなくなっちゃうから・・・・」
「可菜…拓也くん、離婚するらしいわよ。
美穂ちゃんが拓也くんに言われたらしいわよ、今度離婚する事になりましたって。」
ビクッと身体が揺れる。
「まだ離婚はしていなんでしょ?私には関係ないから。」
「前にね、智也と公園に行った時、遠くに拓也くんがいてね、私に会釈して行っちゃったけど、智也に会いたかったんじゃないかな。
智也に会う権利は拓也くんにもあると思うの、お母さん。
だって自分の子供だもの…その事が書いてあるんじゃないの?
一度だけで良いから会わせてって言われたんでしょ?
可菜は会いたくなくても、拓也くんは智也に遠くからでも、抱っこしてあげられなくても見ていたいんじゃないかなって、お母さん思うんだよね…。
ごめんね、お母さんが決める事ではないけど、ほんの少し智也の母として考えてみたらどうかな?」
智也を拓也に会わすのは構わない。
私が拓也に会いたくないのだ。
“じゃあ、また”って言って帰る、後ろ姿を二度と見たくないのだ。
「もう少し考えさせて…。必ず読むから…。」
「捨てる事も出来ないんだから、読むしかないのよ、可菜。」
そう言って母は、父のところにいる智也の所に行った。
途中になった昼食の支度を思い出し、台所に行くが何だか作る気が起きない。
全て片付け、買い物に行こうと鞄を持って両親に声をかけた。
「買い物に行ってくるからー!智也よろしくー!」
「ママーぼくもいくー!」と遠くからパタパタと走ってくる智也に、
「すぐ帰ってくるよ、ばあばとじいじとお留守番しててね。」
「ヤダヤダ、ママといくーーー!」
珍しく駄々をこねる智也に、
「じゃあ、行こうか?ママの言うことちゃんと聞ける?」
「うん!」
と言って二人で手を繋ぎスーパーに向かった。
買い物を済ませ、智也がいつも行く公園を通り過ぎようとした時、
「あ!お兄ちゃんだ!お兄ちゃーーん!」
と言って公園に行こうとする。
「待って、お兄ちゃんって誰?」
繋いでいた手から智也の手がスルッと抜けて走っていった智也を追いかけた。
「お兄ちゃん、今日は遊べる?」
と話しかけている、智也と目線を合わせる為しゃがんでいる男の人を見て、足が止まった。
「拓也…」
「可菜…」
「あれ?ママとお兄ちゃんはおともだち?
じゃあぼくのおウチにいこう、ね、お兄ちゃん。」
智也が無邪気に拓也の手を掴み、引っ張って行こうとする。
「ごめんな、お兄ちゃん、ママにお話しがあるんだ。智也、待っててくれる?」
「いいよ~、ぼく砂場で遊ぶ~」
と言って砂場に行ってしまった。
「可菜…ごめん、勝手に智也と会って…。
でも最初は偶然だったんだ、声をかけようなんて思ってなかったし、遠くから少しだけって思ったんだけど、目の前で転んだ智也に手を出してしまった…。
お義母さんは知り合いの人と話してて…智也に気付かなかったから…。
それで…」
「・・話しって…何?」
「先週、離婚した。アイツも納得してだし、子供の親権は向こうが持ってる。
俺は・・・生まれた子供とは一歳になった時から会ってない。
会わないんじゃなくて、里奈と話し合って決めた。
離婚するなら俺の記憶が無い方がいいって…。
里奈は妊娠中も実家に帰ってたし、向こうの親も、もう俺はいてもいなくてもいい存在だったから…。
父さんはもうあの会社にはいない。
俺も辞めて、新しく父さんと小さいけど会社を立ち上げた。
仕事はパソコンさえあればどこでもやれる。
給料は安いけど、智也の面倒も見れるし、料理も覚えた。
洗濯も掃除もちゃんと出来るようになった。
ゴミの分別も出来るし、ご近所付き合いもちゃんとやれる。
だから可菜、待たせたけど、俺と結婚して下さい!
智也の父親にさせて下さい!
ダメでも、また来るから!
何度でも、可菜が誰かと結婚するまで諦めないから!」
「ちょっとまったぁーー!」
と智也が走ってくる。
「テレビで見たことあるよ、男のひとが女のひとに、こうやって、手ぇ出すと、ちょっとまったーって言うの、見たことあるよ!」
私と拓也は顔を見合わせて、
「「プッ・・・アハハハ」」
「あー、笑ったあー、だって見たことあるもん、ぼくー!」
と頬を膨らます智也を抱き上げ、
「智也に止められちゃったけど、このお兄ちゃんね、智也のパパなの。
パパね、智也と一緒にいたいんだって。
どうする?」
「うわあ────ぼくのパパなの──!
どおしていわなかったの──はやく言ってよ──!」
「ごめん、恥ずかしくて言えなかった。
智也はパパ、一緒にいてもいい?ママと智也と毎日一緒にいても良い?」
「あたりまえでしょー、パパだもん、もう─おそいよー、まってたんだよー!」
「ありがとう…ありがとう…智也…」
智也を抱きしめ泣く拓也に、
「パパ?泣いてるの?ダメだな~おとこはないちゃダメなんだよ~!ばあばにしかられるよ!」
「・・・そう、だな、男だもんな…でも…智也とママといられると思ったら嬉しくて…」
子供に叱られている拓也を見て泣いている私を智也が見つけると、
「あ!ママも泣いてる!ママは女の子だから、ヨシヨシね!
ダメよ、ヨシヨシしてあげるからおいでー!」
と呼ぶ智也に私達親はただ泣くばかりだった。
まだ、この先は話し合わなければならない事はたくさんある。
でも、智也に拓也を父親だと言える事が嬉しい。
今はその事を心から喜ぼう。
家に帰れば、両親は驚くだろうな。
「とにかく帰ってお昼ご飯食べよ」
智也を真ん中にし、三人並んで歩いた。
太陽は真上、しばらく影の部分は少ない。
ようやくこの場に立てた。
拓也と陽の当たる場所に立てた事が嬉しかった。
これからもたくさんの事があるだろう。
でも、あれ以上に辛い事などもうあると思えない。
「今日のお昼は、グラタン。夜はちらし寿司!」
「やったー、グラタン好きー!」
「俺も好き。可菜の事はもっと好き。」
と小さく拓也が言った。
〈完〉
*本編完結です。
番外編少し続きます。
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