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番外編 辺境伯の小さなお墓
俺の先生
しおりを挟む俺はマット、5歳。
親は知らない。赤ん坊の頃この孤児院に捨てられてたらしい。
最近、この孤児院に男の先生が新しく来たんだ。
この先生、なんでも出来るのに、女の人が怖いんだって。
だって、たまに物凄く綺麗な女の人と俺より小さい子供を連れた人が来る時は、すぐ隠れちゃうんだ。
その人の旦那さんもすごくカッコいいけど、少し怖い。
だって隠れてる先生をずっと睨んでるんだ。
見えないのに。
でも、ライールは可愛い。
俺の弟だったらなぁ~って思う。
ライールには一年に一回しか会えないけど、
俺がオニキス騎士団に入ったら、ライールを守ってやるんだ。
先生はすごく剣術が上手いんだ。
でも、ライールのお父さんとお母さんは先生より強いんだって。
あんなにカッコよくて、あんなに綺麗なのに剣も強いってズルいと思う。
それでも俺達の中では先生が一番だ。
俺達男の子はみんな先生が大好きで、先生みたいに強くなりたいんだ。
俺が10歳になった時、気が付いた。
先生はライールのお母さんの事が好きなんだって。
だから、ライールのお母さんとお父さんが来た時は隠れてるって事がわかった。
だって先生がライールのお母さんを見る目は、トムがメアリーを見る時の目と同じだったから。
トムはメアリーの事が大好きだから、いつもメアリーの事を見てる。
先生も隠れてずっとライールのお母さんを見ている。
だからライールのお父さんはあんなに睨んでるんだ。
なんだか先生が可哀想。
一度、先生に聞いた事がある。
「先生はライールのお母さんが好きなの?」
「おま、何言ってるんだよ、そんな事あるはずないだろ!あの方達は貴族で、俺は平民なんだぞ、知り合いでもないのに、そんな事絶対他所では言ってはいけないよ。」
と言ってたけど、目がキョロキョロしてた。
俺が12歳になった時、オニキス騎士団の入団試験を受けた。
一応合格したけど、12歳だから下っ端の下っ端、雑用ばっかだったけど、合間に騎士団のおっさん達が剣の相手をしてくれたり、勉強を教えてくれたり、楽しかった。
ほんの少しだけど、お金も貰えた。
孤児院の小さい子達にお菓子を買ってあげれたから、嬉しかった。
雑用の中に、汚れ物を洗濯場に持っていく時がある。
臭いし、汚いし、洗うの大変だろうなと思ってた。
俺が持っていく時は、いつも誰もいなくて、
だから大きなカゴの中にそれを入れて帰るだけなんだけど、その日は人がいた。
女の人一人、俺達の汚れ物を洗っていた。
大変そうだから、
「お疲れ様です。これもお願いします。」
と言ったら、ものすごく驚いた顔をされた。
その後、嬉しそうに、
「ありがとうございます。」
と綺麗なお辞儀をされた。
ライールのお母さんくらいの歳くらいかなと思った。
その後、何回かその女の人に会った。
その時は必ずお礼を言った。
騎士団の先輩に、
「あまりあの人と関わらない方が良い」
と言われた。
どうしてだと聞いたら、ライールのお母さんを短剣で刺した人なんだとか。
でも、ライールはいつもあの人の所に行って、楽しそうに喋っているのを見ていたから、本当かなぁと思ってた。
俺が14歳になった時、あの人の家が出来て、外出も出来るようになった。
そしたら俺がいた孤児院に来るようになったんだ。たまにだけど。
自分のお給料を貯めて、子供達にお菓子やおもちゃや絵本を買ってきてくれるんだ。
そのうち先生と話すようになったけど、なんか知り合いっぽいんだよな。
一度だけだけど、先生と剣を交えてた。
意外とあの人上手かった。
その頃かな、何回か国王様の専属の近衛騎士のゴツいおっさんが来た。
その人は訓練場からあの人を見てた。
先輩のおっさんが、
「この人はあの人の父親なんだ。遠くからしか見ないけど、最近はライール坊ちゃんのおかげで、あの人少し明るくなったから安心したんじゃないかな。」
そういえば昔、あの人ライールのお母さんを刺したとか聞いたような…。
「あの人はどうしてここにいるんですか?
ライールのお母さんを刺した人なんでしょ?だったら、ここじゃない方が良いんじゃないかなと思うんですけど。」
それから先輩に詳しく聞いた。
あの人は騎士になりたかったけど、試験の時、ライールのお母さん、シシリー様に勝ちたくてズルをして入団試験の権利を剥奪されて、逆恨みでシシリー様を刺して、その時お腹にいたライールの兄ちゃんを死なせてしまった。
でも、心からは反省していないから、自分がなりたくてもなれない騎士を毎日見せつけ、
それもシシリー様の実家だから味方もいないこの場所が一番罰になるという事だったらしい。
なるほどね。
その辺の関係で先生と知り合いだったって事かな。
でも、あの人は自分のした事を心から反省して、自作の墓を作って毎日手を合わせてるんだって。
先生も多分、何かやらかした人なんだと思う。
首に大きな切り傷の跡がある。
あれは自害しようとした傷だと思う。
その辺は大人の話しになるんだろうな。
俺が正式にオニキス騎士団の騎士になった頃、先生とあの人が良い感じになった。
でも、街でみる恋人同士みたいな感じではない。
同僚みたいな感じだ。
俺が20歳になった頃、先生は病気になった。
どんどん痩せていって、最後は寝たきりになったけど、あの人がつきっきりで面倒みてた。
毎朝、墓参りにはいってたけど。
俺が22歳の時に先生は死んだ。
穏やかな顔だった。
25歳の時にあの人も死んだ。
あの人も穏やか顔だったらしい。
先生が鍛えた子供達は俺も含めて全員オニキス騎士団に入った。
ロドニー団長が、
「お前達の師匠は、シシリーの相棒だったくらい強かったんだぞ」
と教えてもらった。
そうか…シシリー様の相棒だったんだ…。
先生、先生の昔の事は別にどうでも良いけど、俺らにとっては、先生であり、父親だったんだ。
これから先生に“親孝行”しようと思ってたんだけどな…。
これからは俺が先生の代わりに孤児院の男の子達を鍛えていくから安心してくれよな。
あの世であの人と幸せになれよ。
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