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シシリーの願い
しおりを挟むエドワード視点
「団長、ベルの媚薬事件からジュリアーナまでの尋問の録音を聞かせて頂きたいのです。」
真剣な顔で俺を真っ直ぐ見てくるシシリーが、どうしてあんなろくでもない物を聞きたいのか気になった。
「理由は?」
「調書は読みました。ですが、あの時どう思っていたのか、どういう態度を取っていたのか、反省していたのか、反省、更生出来るのかを聞いて判断したいのです。
団長やミッシェルの気遣い、有り難かったです。あの時は私もブライアンもあれ以上の物は読めませんでした。
ですが、自分の心の中にあるドス黒い物が消化されずに残っています。
処罰が下された今、この黒い物を飲み込まなければならないのに、飲み込めません…。
小さくする事は出来ても、やっぱり飲み込む事が出来ないんです…。だから、
捕まった時から処罰が下るまでの様子を聞いたら、その黒い物を吐き出せば良いのか、飲み込めば良いのか判断出来ると思うので…。」
あの時、シシリーもブライアンも精神的にギリギリの所だった。
その後シシリーは刺された為、全く逮捕された女達には会っていない。
尋問の録音も聞いてはいなかった。
聞いても気持ちいいものではないと思ったから今まで聞かなかったのだろう。
でも、どんな風に話し、どんな感情だったのかは聞けば分かる。
「今になってどうして聞きたくなったんだ?」
「先日、町でベルの事を話している人達の話しをたまたま聞いてしまいました。
その話しでは、ベルが被害者として修道院に入れられた事になっていました。
そして、可哀想だと言われていました。
誰も知らないので仕方ない事だとは分かっています。ですが、どうしても許せないのです。ブライアンをあんな風に泣かせる原因を作ったベルが可哀想だなんて言われている事に腹が立って、悔しくて、憎くてたまらないのです。
今頃、ブライアンを想って生活していたらと思ったら、ドス黒い物がドンドン大きくなってしまって、自分でどうしていいのか分からないんです…。
みんなに相談して、小さくする事は出来ますが、無くなりません…。
だから、荒療治で尋問を聞こうかと…思いました…。」
町ではそんな噂が流れていたのか…。
噂を消すにはブライアンの事を公表するしかない。
しかし、そんな事は出来ない。
シシリーは周りを気遣う、基本、優しい性格だ。
そのシシリーがこんなにも特定の人間を嫌う事などない。
それほど憎いのだろう。
だが、その優しい性格が仇になり、憎悪や嫌悪という感情を出せないでいるのだろうと思う。
「分かった。しかし、一人では聞かせられない。ブライアンと聞くのも許可出来ない。
一気にではなく、一人、または二人までしか続けては聞かせない。
俺かラルスがいる場所でなら聞いても構わない、それでも良いか?
だが、かなり気分が悪くなるものだ。
大丈夫なのか?」
「はい。」
「今日はベルのみにしよう。」
そして、シシリーが取調室で聞きたいと言うので、シシリーは俺がベルに尋問した時に座っていた椅子に座り、黙って聞いている。
何度か吐きそうなのか、口を抑えては吐き気を飲み込んでいた。
涙は止められなかったのだろう…
ブライアンが媚薬を飲まされた時から翌日の様子を聞いて、ブライアンの姿が想像出来てしまい、嗚咽が止まらなくなった。
処罰をミッシェルに告げられている時のベルは、ブライアンに抱かれた事で、憎まれていたとしてもブライアンの特別になれたと思っているような態度だった。
全く反省はしていない。
シシリーは、まだ止まらない涙をこぼしながら、憎々しげに機械を見つめている。
「大丈夫か、シシリー。」
「・・・・はい。ありがとうございました。」
「何か納得出来た事はあったか?」
「ありました…。この黒い物は飲み込んではダメな物だと分かりました。
こんな汚いものは身体に入れてはいけないと分かりました。
あんな女が与えた物は、実体が無い感情や気持ちすら飲み込みたくはありません。
反省もせずにここを出た事も分かりました。修道院に行っても反省する事はないでしょう。ブライアンの事も、大事な思い出として持っているはずです。
私は謝罪も慰謝料もいりません。
ただ、あの女の中に大事に閉まってあるブライアンを返してもらいます。
どう返してもらうかは、団長、一緒に考えて頂けますか?
私一人では・・・・殺してしまいそうです・・・・」
「ああ、考えよう。だからシシリー、絶対一人で思い悩むな!俺もラルスもミッシェルもいる。あの時、お前と同じ感情を持った人間がここにいる。
だから、大丈夫だ。そのドス黒いものを持っているのはお前だけではないんだ。」
「団長…私…私、ベルを…消してしまいたい…」
「俺もブライアンもラルスもミッシェルも、みんな思っている。だが、必死に堪えている。
皆で考えよう。あの女の中のブライアンをどう返してもらうのが、あの女にとって一番致命傷になるのかを。」
「はい…ありがとう…ございます…」
「ちなみに、俺は毎月あの女の生活を報告してもらっている。何か企んだ瞬間すぐ動けるように。」
シシリーは今まで持った事がない莫大な負の感情を綺麗に纏めて、それをベルに返す事に決めたようだ。
俺は上司として、そして、ただの男として、何年かかろうと好きな女の願いを叶えてやろうと決めた。
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