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閑話 チャーリーはブライアンを愛でたい
しおりを挟む俺、チャーリー・シュルツはとても悩んでいる。
俺はイーグル騎士団の一番隊リーダーだ。
ちなみにシシリーとは同期で、俺達の年の入隊試験(騎士“団”なのに入団ではなく入隊なのは昔、騎士隊だった時の名残りだそうだ)は、
いろんな意味で伝説だ。
・ 美女が試験を受けに来た
・ 不正事件が起きた
・ 女子が実技試験でほぼ満点を出した
・ この年の入隊者は出世する
そういう俺もイーグルの一番隊リーダーだし、シシリーもミッシェルもファルコンのリーダーと副リーダーだ。
そして俺が大好きなブライアン先輩はシシリーの婚約者だ。
好きとは言っても、俺は男が好きなのではない!
ただブライアン先輩がモンブランを食べている時の顔が好きなのだ。
ブライアン先輩は、苺のショートケーキが大好きだ。
モンブランは五番目くらい、いやもっと下かもしれない。
でも嫌いではないからたまに食べる。
その時の顔が楽しくて、モンブランの時はコック長に教えてもらっている。
ブライアン先輩は、モンブランのネッチョリとした食感があまり好きではないのだ。
なので口に入れると、少し眉を寄せて、慎重に食べるのだ。
前に上の部分の栗のクリームを口いっぱいに入れた時に、喉の奥にあのネットリしたクリームがくっついてしまったことがあった。
俺はたまたま先輩から離れていたが、真正面になる位置に座っていたので、その一部始終を見ていた。
幸せそうに口に入れた栗のクリームをスプーン?に山盛り乗せて口に入れた。
すると、生クリーム感覚で食べてしまった先輩は、上顎と舌で押しつぶすようにしてしまったのだろう、押しつぶされた栗クリームは、喉まで押し出されてしまった(多分)。
「カッ…⁉︎」
と声を出したかと思うと、顔を真っ赤にし、涙を浮かべ、口の中で栗クリームと格闘している様子だった。
思わず見入ってしまったが、慌てて水ではなくお湯に少し水を入れて、飲みやすくしたお湯を持っていった。
ブライアン先輩は、砂漠でやっと水を見つけた旅人のように手を出し、ゴクゴク飲んだ。
「プハァーーー死ぬかと思った…」
と言った後、
「ありがとう、チャーリー。」
「いえ、大丈夫ですか?」
「口に入れ過ぎてしまった。」
「そう…ですか…」
と言って自分の席に戻った。
そして、さっきのブライアン先輩の顔を思い出してしまった俺は、真正面にブライアン先輩がいるにも関わらず、思いっきり吹き出してしまった。
少し離れている俺に、
「チャーリーーーーー、笑うな!」
と顔を真っ赤にして怒っていた。
それがまたおかしくて止まらなくなってしまった。
周りは何が起きたのか、分からないので、
「ケーキを食べているのに、珍しく怒ってるな、副団長。」
とザワザワしていた。
涙を流して笑っている俺。
それを見て怒るブライアン先輩。
だって、あんな綺麗な顔で、可愛くケーキを口に入れたのに、喉に詰まらせ、「カッ⁉︎」って・・・・。
それも、フォークではなくスプーン…
ダメだ…止まらん…
それからブライアン先輩は滅多にモンブランは食べなくなってしまったが、甘い物好きな先輩は、抗い切れず、たまに食べる。
その時の恐る恐る感が、また俺の笑いのツボを刺激する。
だから、俺はブライアン先輩が大好きなのだ。
どんなに辛いことがあっても、
団長に泣きたくなるような嫌味を言われても、ブライアン先輩の顔を見ると頑張れるのだ。
つい先日、俺の元婚約者がシシリーとブライアン先輩の酷い噂を流した事が判明し、二人に謝罪したら、
「食堂のスイーツを奢ってくれるなら許す」
とシシリーに言われた。
冒頭の悩みは、この事だ。
俺はブライアン先輩にモンブランを食べさせたい。
しかし、お詫びとしてのメニューではない。
選ぶなら苺のショートケーキだろう。
でも捨てがたい…。
二度とあんな奇跡のような場面には出くわさないだろうが、毎回期待してしまう俺。
スプーンで他のケーキを食べる事は多々ある。
しかし、モンブランはあの時一回だけだ。
あの栗クリームを少し食べやすくしたら、ブライアン先輩は目新しいケーキに心躍るのでは?
そこで俺は、コック長に相談してみた。
「コック長、モンブランの栗クリームをもっと滑らかにする事は可能でしょうか?」
実はコック長もあの時の先輩を見ていたらしい。
あれから先輩はモンブランを食べている時だけは、少し悲しそうな顔をするらしい。
それがとても気になっていたのだそうだ。
改良はしていってるらしいが、まだブライアン先輩の顔は曇ったままだ。
それから俺とコック長は暇を見つけては、栗クリームの改良に取り組んだ。
生クリームとの比率を変えたり、栗を漉す回数を増やしたりと何回も試食し、なんとか及第点を出せるものが出来た。
以前のモンブランは、上部の栗クリームが所狭しというほど、生クリームにかけられていた。それも絞り口が太い為、ボリュームがあった。
その絞り口を細い物に変え、改良したクリームをかけてみた。
見た目はとても良い。
だが、目新しさがない。
なので、生クリームの上から栗クリームをかけるのではなく、栗クリームの上から生クリームをかけてみた。
そして、ブライアン先輩の大好きな苺をのせてみた。
可愛い。
コック長と頷き合い、次の日のメニューに出す事にした。
俺はコック長の隣りで、ブライアン先輩を待った。
先輩が来る間、団員達に何でそこに?という顔をされたが、無言でコック長の手伝いをしていた。
そして、その時はきた。
団長と一緒に来たブライアン先輩。
「チャーリー、そこで何をしているんだ?」
エドワード団長が聞いてきたので、
「今日はコック長の手伝いをしています!」
と言うと、優しいエドワード団長は、
「そうか、偉いな、チャーリー。」
と褒めてくれた。
「チャーリー・・・」
と言って、片眉を上げるブライアン先輩。
「ブライアン先輩、今日は新作のケーキがありますよ!」
と言うと、
「お!じゃあそれも貰おう!」
と満面の笑顔で注文してくれた。
コック長と俺は、食事が終わりデザートに取り掛かるブライアン先輩を見守った。
先輩は、ちゃんとフォークを持っていた。
少し、“ん?”という顔をして、フォークで一口分取り、口に入れた。
一口入れた時に、“あ!”という顔をして、
モグモグしたあと飲み込むと、
ふわあっと笑った。
やった、モンブランであの笑顔を引き出せたと、俺とコック長はハイタッチして喜んだ。
ふと周りを見ると、食堂にいた全員が俺達を見ていた。
ブライアン先輩は見ていないが。
しかし、そんな事はどうでもいい。
そこで、ハタッと気が付いた。
俺が見たかったのはアレじゃないと…。
やってしまった…
モンブランを選ばせようと改良したかったのに、より食べやすくしてしまった…。
まあ、良いだろう…ブライアン先輩のあの笑顔が見れたのなら。
そして、後日俺は、シシリーとブライアン先輩にケーキを奢った。
シシリーがモンブラン、先輩は…苺のショートケーキだった…。
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