帰らなければ良かった

jun

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それぞれの罰 カール・ケンネル元一番隊副リーダー

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ブライアン視点


あの思い出したくもない日からたくさんの女達を捕まえ、全ての女の処罰が決定した。


そして、最後になったカールがいる病院に来た。

ドアの前には、俺の部下が二人立っている。

「「お疲れ様です!」」

「おつかれ。中の様子は?」

「変わりありません。」

「中に入る。開けてくれ。」

鍵を開け、中に入ると、カールはベッドから上半身を起こし、本を読んでいた。
俺に気付くと、黙って本を閉じ、俺を見た。

「身体はどうだ?」

「・・・・・・・」

「あ…済まない、声が出せない事を失念していた。」

カールは首を振る。

「・・・お前の処分が決まった。
禁止薬物使用、証拠保管庫から証拠品を盗んだ窃盗、それらにより騎士団懲戒解雇、王都追放だ。
怪我が治るまではここにいて構わない。」

カールはコクンと頷いた。

「俺が一人で話すから、聞いててくれ。

俺はお前が嫌いだった。

シシリーと付き合う前は、なんとも思っていなかったが、付き合いだしてからは、シシリーの前と俺の前ではお前の態度は違ったからな。
お前も俺が嫌いだっただろう?
それでもお前はシシリーを傷付ける事はしないと信じていた。
でもお前は最もシシリーが傷付く方法で傷付けた。
俺はお前を許さない。
シシリーが許しても俺は絶対許さない。

シシリーが好きなら俺から奪うくらいすればいいものを、何もしない。何も言わない。
あんなに近くにいたのに。
俺よりずっと長くいたのに。
なのに俺と付き合い出してから急にあからさまになった。
取られると思ったなら、もっと早くに告白すれば良かったんだ。
シシリーならきちんと答えてくれた。
例え断るとしても。

自分が勝手に引いたくせに、俺を敵視し、シシリーの前では俺との仲を応援し、いなければ俺をシシリーに近付かせないよう邪魔をする小狡いお前が嫌いだった。

それでも!

シシリーの事だけは絶対傷付けないと信じていた!

俺だけなら良い、なのにお前は!


お前が退院してここを出るまで、シシリーにはお前の事は一切伝えない。

言いたい事はそれだけだ。」


俺をジッと見つめているカールにそれだけ言うと病室を出た。

ドアの外にいた二人は、気まずい顔をしていた。

「済まない、お前達に気を遣わせた。
カールの事、頼んだ。
中の様子をしばらくは確認してくれ。」

「「はい」」


カールにはもう会わない。
団長やミッシェル、ヤコブは会うだろうが、俺は二度と奴の顔は見たくない。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カール視点


ブライアンが言いたい事だけ言って帰って行った。

アイツが言う通りだ。

俺は勝手にシシリーを諦めた。
でも、諦めきれずにシシリーとブライアンの邪魔をし続けた。
ブライアンの事は、以前は好きだった。
シシリーとミッシェルはあまりブライアンの事を知らなかったが、俺は知っていた。
愛想はないが、可愛い奴だと男の団員達の中では有名だったから。

シシリーがそれに気付いてしまった。
ブライアンになんか興味なんてないって言ってたから、油断してた。
いずれはシシリーに告白しようと思ってた。
俺がリーダーになったらと。

でもシシリーの方が先にリーダーになった。

俺の隣りにはいつもシシリーがいた。
誕生日も俺と一緒だった。
悩みの相談も、楽しかった事は真っ先に教えてくれた。
なのに、ほんのちょっとの出来事でシシリーはあっさりブライアンを好きになった。
ブライアンもあっという間にシシリーを好きになった。
出会うべくして出会ったという感じだ。

悔しかった。でもお似合いだとも思った。

付き合い始めてからも俺といる時間の方が長かった。
それだけでも優越感に浸れた。

婚約して、結婚式が近くなると二人は新居に引っ越した。
二人は昼間は一緒に居られなくても家に帰ればずっと一緒にいられるようになった。
俺がいない所で。
だからその家に居られないようにしたくなった。
定食屋から帰る時、女に話しかけられた。
それがイザリス公爵夫人だったんだろう。
ごちゃごちゃ言っていたが、その時の俺はすでに計画を立て終わっていた。
だからあの女に言われたからやったんじゃない。


でも…


やらなきゃよかった…


やっぱりシシリーを泣かせたくなかった…


汚いものを見せたくなかった…


嫌われたくないから、表ではシシリーとブライアンを応援するフリをした。

軽蔑の目で見られたくなくて自害しようとした。

なのに死ねなかった…。



もう謝る事も、会う事も出来ない。


あんなに好きだった騎士団にもいられない…


もう…この王都にもいられない…。



少し考えたら何も残らないと分かったのに…

でも、どうしても、二人の新居を汚したくなってしまった…




あの首を切った状態でも死ねなかったなら、生きて悔いろという事なんだろう。

死ぬまで愛しい人にも会えず、触れる事も出来ず、やらなきゃ良かったと後悔しながら生きていけという事なんだろう…

だったら遠くで彼女の幸せだけを祈って生きよう。





声が出るまでに日にちがかかった。
三ヶ月ほど経ってやっと退院が決定した。
退院する日、団長とミッシェルが来た。

「お前が王都を出る所までを確認する。」

そう言って、俺と一緒に馬車に乗った。

三人とも何も話さなかった。


王都を出て隣りの比較的栄えている町で馬車を降ろされた。

団長が、大きなリュックを俺に渡し、

「お前の私物や細々した物が入っている。」

と言った。

「ありがとうございます。」

ミッシェルは泣くのを堪えているのか、怒りを堪えているのか、唇を噛んで小刻みに震えている。

「ミッシェル、見送りありがとう。元気で。」


「カール!あんたは馬鹿よ!あたしに相談すれば良かったのに!」


「ごめんな、ミッシェル。ほんとだな、お前に相談すれば良かったって思うよ。」


俺は振り返らずに前を向いて歩いた。
振り向いてミッシェルを見たら泣いてしまう。
泣く資格もないのに泣いてしまう。
だから前だけ見て歩いた。


とりあえず宿屋に入った。
部屋に入り、リュックを開けた。
中には私物と一緒に金が入っていた。
俺の貯めていた金とは別に。
金の入った袋の中に手紙が入っていた。

「お前のした事は許せない事だが、お前の気持ちは俺が一番分かっていた。
お前を止められず、済まなかった。」

団長のキッチリした文字でそう書かれていた。

団長もシシリーが好きな事は知っていた。
でもあの人は俺とは違い、心の底から二人を応援していた。
どうしてそんな事が出来るのか一度聞きたいと思っていた。
その時、聞けば良かったのかな…
団長に相談したら違ってたのかな…

団長…すみませんでした…。
あなたのようになれたら良かったのに…。


俺は手紙を握りしめて泣いた。



次の日から、俺は王都から出来るだけ遠くへと向かった。
途中、日雇いの仕事をして、団長から貰った金を使わないよう、自分の金も極力使わないようにした。
あちこちでいろんな仕事をした。
力仕事が多かったが、たまに臨時で金持ちの娘の護衛をしたりした。
付き纏われて鬱陶しかったが、たまに呼ばれるようになった。

そこで護衛仲間に聞いた話しに出た女がベルだと分かった。
ベルは修道院に入れられたらしい。
それも無体を働かされた女性ばかりがいる修道院に入れられていた。
その護衛仲間はベルが被害者だと思っていたようだが、実際は逆だ。
針の筵だろう。

気になって行こうかと思ったが、あの団長がベルを入れっぱなしで放っている筈がない。
きっと定期的に見張っているはずだ。
だから近付かない。

そして最終的に西へ向かった。
その頃はもうあまり考えず、気が向くままに行き先を決めた。

そこの孤児院で子供達に勉強と男の子には剣術を教えた。

辺境伯のオニキス騎士団は平民でも実力次第では入団出来るので、平民の男の子達には人気だ。

そして思い出した。
辺境伯はシシリーの伯父のガランド辺境伯だと。

まずいと思ったが、ここは隣り町だ。
そうそう会う事もないだろうと思い、そのまま子供達の側にいた。

その地に居座って三年程経った頃、辺境伯の所に、シシリーを刺した女が幽閉されているという事を知った。

そんな女を何故?と思ったが、よく考えれば、その女にとってはかなりキツイだろう。
シシリーの実家なのだ。
周りはシシリーを大事に思っている者達だけだ。
それが罰なのか…。

俺は誰が刺したかは知らない。
どんな女が刺したのか気になった。
だが、辺境伯領に足を踏み入れるのは躊躇した。

そんな時、馬車酔いをした息子を少し休ませて欲しいと王都から来た貴族が頼みに来たがどうしようと俺の所に孤児院の院長が相談しに来た。
子供の体調が悪いなら休ませてあげないとと一緒にその貴族の所に行った。
向かっている途中、子供を抱いた父親らしき人が遠くに見えた。


あ・・・あの銀髪は…ブライアン…。


院長に体調不良だと伝え、即座に踵を返した。


という事は、あの抱いていた子供はシシリーの子供だ。
そして辺境伯の所へ向かっているのだろう。

こんな事ってあるのかよ…。

会いたくはない、ブライアンには。

でも、あの馬車の中にシシリーがいるのかもしれない。


一目でも…会いたい…。


でも…合わす顔はない…。


ジッと部屋でブライアン達が帰るのを待っていた。

しばらくすると子供達がキャッキャッと遊ぶ声が聞こえた。
窓から見ると、銀髪でシシリーに似た男の子と孤児院の男の子達が走り回っていた。

ああ、あの子が…。
シシリー似てる…。
可愛いな…ん?ブライアンにも似てるのか?
フッ…どっちにしても可愛い。

孤児院の男の子と楽しそうに遊んでいる男の子は、貴族の子と思えないほど馴染んでいる。

きっと幸せなのだろう。
そしてシシリーも幸せなんだろう。


良かった。
会えなくても、幸せな事が分かって良かった。


涙が出た。


彼女が幸せで良かったと、本当に、心から、

そう思えた。

頭の片隅に、俺のした事で万が一シシリーが不幸になっていたら…と不安があった。

でも、幸せになっていた。


良かった…。



すると、カタンと音がした。


窓の外に銀髪の男の子がいた。

窓の外から、

「おじちゃま、いたいの?」

と俺を心配してくれていた。

窓を開けて、

「少しおなかが痛かったんだ。ありがとう。」

と言うと、

「これあげる!」

と手に持っていた綺麗な小石をくれた。

「良いの?」

と聞くと、

「おみまいなの!」

と言って走って行ってしまった。


「ありがとうー」

と言うと、

可愛い小さな手を振ってくれた。




「ありがとう…本当に、ありがとう・・・・」

小石を握りしめ、声を押し殺し泣いた。




気付いたらその家族はいなくなっていた。


俺は、辺境伯領へ頭を下げた。

あの可愛らしい男の子は、俺のシシリーへの想いを綺麗に無くしてくれた。

あの男の子を不幸にさせてはいけない。

あの子に貰った綺麗な小石は俺のお守りになった。


そして、この孤児院の子供達の誰かが、あの子を守る騎士なってくれるよう、俺は動けなくなるまで教え続けた。

誰とも結婚はしなかったが、一緒に暮らしている彼女に、

「俺が死んだら、このお守りも一緒に埋めてくれ」と頼んでおいた。






そして、数日後そのお守りを握りしめたまま笑顔で死ねた。














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