帰らなければ良かった

jun

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寂しいよ

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ミッシェル視点

ブライアンが号泣している。
あのシシリー以外興味もなく、シシリーと付き合うようになって、やっと人間らしくなったブライアン。
最愛のシシリーがこの数日で受けた精神的ダメージは計り知れない。
そして襲撃。
その後の流産。
ブライアンのダメージも半端ないだろう。
それでもなんとか踏ん張って、シシリーとの未来を思い、さっきまで笑っていた。

なのに…。

目覚めた時のシシリーの悲しみと、ブライアンの涙を見てしまった私は、泣いた。
悔しくて悔しくて、赤ちゃんが可哀想で、何もかも許せなくて、とにかく泣いた。

隣りにいるシックス副団長には来る途中軽く説明をした。
なので、状況は理解しているとはいえ、こんなに泣くのかと思うほど、隣りで泣いている。
それを見たら、私も本格的に泣き、ラルス団長も泣いて、何も知らない人が見たら何事かと思っただろう。

四人で泣くだけ泣いたら、ブライアンは寝てしまった。子供のように。

「寝かせてあげよう。」

と静かに言ったラルス団長は目も鼻も真っ赤だ。

シックス副団長はどこからか毛布を持ってきて、ブライアンにかけてあげていた。

それぞれ顔を洗った後、

ラルス団長はしばらくブライアンについているので、イーグルはシックス副団長が見るように伝え、シックス副団長は、

「シシリーもブライアンも所属は違うが、同じ騎士だ。仲間だと思っている。
何かあればいつでも言ってきて欲しい。」

といって帰って行った。

「良い人なんだよ、シックスは。」

「ですね。お話しした事があまりなかったのですが、優しい方なんだと思いました。」

「怒ると怖いけどね。」

「しかし、ブライアンがあんな子供みたいに泣くなんて…余程ラルス団長に気を許したんですね…凄いです、ラルス団長。」

「いや、我が家の昔話を少ししただけだよ。」

「そうなのですか…?何にしてもありがとうございました。ブライアンの友人としてお礼を言わせて頂きます。」

「いやいや、シックスも言ってたけど、俺達は仲間だからね。君達も俺の部下だと思ってるから。気にしないで。」

「ラルス団長、独身だったら私、惚れてましたよ。」

「あら、残念。でも奥さん一筋だからダメだよ。」

「フフ、羨ましいです、奥様が。」

「でしょ?」

「じゃあ、ここはラルス団長に任せて、私はシシリーに付いています。もし目覚めて誰もいなかったら、勝手に動きそうなので。」

「そうだね、シシリーはミッシェルに任せようかな。」

「はい。じゃあ失礼します。」


そして私はシシリーの病室へ行って側で目覚めるのを待っていた。

シシリー…

さっき、殺すなんて事より事件を解決しなければと思っていたのに、また言いようのない怒りが溢れ、こんな状況にした誰もかれもを消してしまいたい衝動に駆られた。

白い顔で眠るシシリー。

目覚めた時、赤ちゃんの事を知ったらと思ったら、散々泣いたのにまた涙が出た。

なんでなんでとそればかり考えている所に、先生の助手をしている女性がお茶をもってきてくれた。

「お、お茶をどうぞ…。」

「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていました。」

女性はオドオドしながら部屋を出て行った。

喉が渇いていた私はそのお茶を一気に飲んだ。

しばらくすると急に睡魔が襲ってきた。


気付けば眠っていた。


どれくらい眠っていたのか、目が覚めるとベッドに寝かされていた。

あれ?と思っている所に、先生がきた。

「あ~良かった。目が覚めたか。」

「先生、すみません、眠ってました。」

「ミッシェル、違う、眠らされたんだ。睡眠薬を飲まされた。」

「え?」

「睡眠薬で眠らされた。そして…シシリーが殺されかけた。」

「はぁ?シシリーが⁉︎シシリーは?シシリーは大丈夫だったんですか?誰が、誰がやったんですか?」

「落ち着け。シシリーはエドワードがすぐ気付いてギリギリ助かった。毒を注射されたようだ。目が覚めたなら、まだ安心出来るが、毒を注射されてどれくらいの時間が経ったのか分からん状態だ。解毒薬は効いたが、目が覚めない事には何とも言えん。」

「そんな…」

「ラルスもブライアンも眠らされた。今はエドワードが動いてる。ミッシェルは睡眠薬を飲まされた後、もう一度薬を嗅がされて眠らされた。
だから他の二人より目覚めるのが遅かった。心配したよ。」

「ラルス団長とブライアンはもう捜査に加わってるのですか?」

「ああ、エドワードしか動けんから、近衛に手伝ってもらっていた。」

「じゃあ私も…」

「ダメだ、お前はまだ薬が残ってる。もう少し休まないと倒れるぞ。」

「でも、」

「そんな体調で行ったら逆に迷惑をかけるぞ。もう少しだけ休みなさい。」

「はい、分かりました…。
あ、先生、シシリーは?」

「今は別の部屋にいる。意識はまだ戻っていない。動けるようになったら、シシリーに声をかけてやってくれ、早く目覚めるように。」

「はい…。」




犯人はどうなったんだろうか。
誰だったんだろう。
動機は何?
どうしてシシリーを?
私達を眠らせてまでシシリーを殺そうとした事が、収まっていた殺意をまた湧き上がらせる。

理由はきっといつもと同じ、
嫉妬、妬み、僻み。
女の一番汚い部分。

いつもだ。毎回毎回、飽きもせず、
“ブライアン様を誑かした”
“似合わない”
“身分違い”
“あなたなんかより私の方が!”

許せない。
心の底から許せない。
シシリーが耐えているのに私がキレてはと思っていたが、もう限界だ。

もし、今回の動機が何の問題のないシシリーへの恨みつらみだったなら、私はもう我慢しない。

団長に頼み、尋問は私にさせてもらおう。


待っていろ、くそ女ども!


そんな事を延々考えていたら、

「ミッシェル、その顔で笑うのは怖いぞ…」

と先生に声をかけられた。


私、笑っていたの?
こわっ!


「シシリー、早く起きてよ、シシリーが相手してくれないから、ロクでもない事ばっかり考えちゃうよ…。
寂しいよ、シシリー。

そういえばね、さっき、ブライアンが号泣してたよ、そしたらね、ラルス団長もシックス副団長も泣き出してね、大騒ぎだったよ。
私も泣いたけどね。

みんな、シシリーを待ってるよ、早く起きてよ…。飲みに行こうよ…ランチ一人は嫌だよ…シシリー、寂しいよ…」



シシリーの手を握り、そんな事を話しかけながら、だんだん眠くなり、そのまま眠ってしまう直前、誰かが部屋に来たような気がした。
あ~温かい…大好きな香り…だ…


そして深い眠りに落ちた。













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