帰らなければ良かった

jun

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ブライアン視点


「団長!」

「ブライアン、ラルスも。お前ら、大丈夫なのか?」

「大丈夫です。団長一人に任せっきりですみません。」

「無理はするな。でも戻ってくれるなら助かる。ラルスは大丈夫なのか?」

「ああ、俺も大丈夫だ。イーグルに顔を出した後、こっちに来た。エドに話しを聞いてから動こうと思ってな。
で、女を捕まえて自供させたと聞いた。」

「ああ、お前達にもあの時の事を聞きたい。」

執務室までの移動の時間も惜しいのと、団員にも情報を共用するにも丁度いいだろうと詰所での聴き取りとなった。

俺とラルス団長がお茶を持ってきた時の話しをした。

「じゃあお茶を持ってきたのは、あの助手のスーザンで間違いがないんだな?」

「ああ、間違いない。喉が渇いていたので二人で一気に飲んだんだ。その後すぐ眠気に襲われた。」

「あの女は最初、茶髪で緑色の目の若い女が俺に頼まれて差し入れを持ってきて、お前らに差し入れを渡したと言っていた。
だから、俺はフランシスが逃げたと思ってすぐ、貴族牢に行ったんだ。だが、フランシスはいた。出た形跡もない。何かおかしいと思い、もう一度聞こうと医務室に戻る途中に気付いた。殴られて気絶したのではないなら、薬を嗅がされたのだと思い込んでしまった。だが、ミッシェルは薬品の匂いがしていたが、あの女は薬品の匂いがしていなかった事に気付いて、後追った。」

そして女が乗った馬車を追うとイザリス公爵家に着いた。
馬車は体調不良の夫人を往診する医師が乗っていたと言われ、屋敷を後にしたが、何か不自然だった。
ひょっとすると女は乗っていなかったのかと思い至り、脇道を探すと女が小屋の中に隠れていたので連行したと団長が説明した。

「で、女が母親を盾に脅迫されて、あんな事したと?」

「そういうことらしい。助けてくれと懇願された。とにかく今から公爵邸に行く。
何も見つからなかったら、俺は不名誉除隊だ。」

「そんな、団長!」

聞こえていた団員達が騒ぐ。

「見つからなければだ!見つければいい!」

「エド、母親は公爵邸にはいないぞ、おそらく。どうする?」

「俺がその女の自宅に行きます。何か手がかりがあるかもしれません。」

「シックスも行かせる。シックスが怒っていてな、何かさせないと納得しそうにない。

済まないが、誰かイーグルに行って、シックス副団長を呼んできてもらえるか?」

「俺、行きます!」
と近くにいた団員が言い、走って行った。

「助かる。じゃあその二人で自宅は頼む。後は公爵夫人か…。公爵は何も知らないのか、知っているのか…。そもそもなんでこんな事をする?」

「フランシスの恨み、あたりじゃねえの。あの母親ならやりそうだ。何にも考えてない。公爵もあの女の裏の顔を知らないで、溺愛している…もうあの人も世代交代して田舎に引っ込まないとな。」

「しかし、逆に証拠がないのではありませんか?夫人の頭の中にしか犯罪計画の証拠がなさそうです。母親を誘拐した実行犯と公爵家との関係を証明しなければ、家宅捜査しても意味がありません。」

「そうだな、行っても何も出ない可能性が高い。お前を除隊にする訳にはいかない。
もう一度捜査方針を練り直す。」

「済まない…一人で突っ走ってしまった。
無駄足を踏むところだった。」

「落ち込んでる暇はないぞ。だが、お前は少し休め。ずっと休んでないだろ?
俺とブライアンはぐっすり眠った。
俺達に今度はやらせてくれ、お前一人でここまでよくやった。お前が気付かなきゃ、シシリーは死んでいた。
だから、少しだけでも休め。」

「しかし、団長の俺が休む訳には…」

「団長、俺とラルス団長がいます。
どうか、少し休んで下さい。団長が倒れたら、シシリーが自分のせいだと起きた時泣きますよ。」

「そうか…なら少しだけ休ませてもらう。でも、何かあったらすぐ起こしてくれ、必ずだ。」

「分かった分かった。早く行け」

団長は渋々自分の執務室へ行った。

「さて、では始めよう。
シックスが来たら、ブライアン、後数名スーザン・ボタニアの自宅へ向かわせよう。

証拠が出次第、公爵邸へ家宅捜査する。
ブライアン達が男爵邸に行ってる間、俺はスーザンをもう一度尋問するが、その前に、

最近、イザリス公爵、夫人に対しての噂でもなんでも良い、知ってる者はいるか?
俺は親戚だが全く付き合いがない。
夫人が最近行きつけている店、会ってる人物、なんでも良い、知らないか?」

「あ!俺、姉と夫人が会ってるの見た事があります!」
とヤコブ。

「ナタリアとイザリス夫人が?」

「はい。偶然見かけました。声はかけませんでしたが、カフェのテラス席にいました。
何か小さな箱を渡していました。」

「箱…。しかし、あの女はどこまで関係してるんだ…。あ、ヤコブ、済まない。」

「いえ、もう姉とも思っていません。あの人がした事は絶対許せませんから。」

「ナタリアかぁ…今、地下だな?後で話し聞くしかないな。何か喋るかもな、ポロッと。」

「俺、やります。」

「ダメだ。ブライアンに会えたと喜ばすだけだ。あの女も俺がやる。お前は証拠を探せ。」

「ラルス団長、俺、公爵の噂を聞いた事があります。」

「公爵?なんだ?」

「ここ数年の公爵は時折、支離滅裂な時があって、何か薬でもやってるんじゃないかって噂になってます。公爵家の分家筋の下位貴族達が必死に隠しているそうです。最近見かけないのは薬を抜いてるんじゃないかって。」

「知らなかった。そんな噂あったのか?」

「公爵が参加した夜会でちょっとした騒ぎがあったらしいんです。何かは知らないですが、その時の公爵の様子が普通ではなかったらしくて、その夜会に参加していた人達が、そういえばって感じで広がったらしいです。」

「薬…」

「ラルス団長、ひょっとするとナタリアがイザリス公爵夫人に何か薬を渡しているのでは?」

「あり得る話しだな。ナタリアから崩すか。」

「ラルス団長、ナタリアの尋問は任せます。ですが同席させてはもらえませんか?
あの女は俺に執着しています。
俺がいれば何かしら話すと思います。」

「ブライアンは大丈夫なのか?あの女、俺でも気持ち悪いと思うぞ。」

「気持ち悪いですが、何かされるわけではないので、大丈夫ですよ。
なんか、ラルス団長、ウチの団長に似てきましたよ。」

「やめろ!俺はあんな筋肉バカじゃないぞ!」

「アハハ、後で団長に言っときます。」

「あ、それはやめて。

と、そういうわけで、ブライアン、シックス、後二、三名で男爵邸の捜索。
ブライアンが誰を連れて行くか選んでくれ。

さっきの公爵、夫人の事で思い出した事があったら、俺に言ってくれ。

俺はスーザンにもう一度話しを聞く。

ブライアン達が戻り次第、俺とブライアンでナタリアの尋問をする。

残りは家宅捜査まで待機。

以上だ。」


シックス副団長が到着した。

「団長、先程エドワード団長からスーザンに手紙を渡したのが誰か探して欲しいと要請があり、イーグルの数名に調べさせた所、ボタニア男爵の家の者だが、至急この手紙をスーザンに渡してほしいと、王宮の門番に手紙を託した男がいたそうです。
若くはなく執事っぽかったと門番は言っていたそうです。」

「執事…。分かった。じゃあ、シックスはブライアンとボタニア男爵の家に行ってくれ。」

「了解しました。」

そしてシックス副団長と合流した後、一番隊と二番隊から立候補した二名を引き連れ、男爵邸へ向かった。












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