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片付け
しおりを挟む二人でランチを食べた後、宿屋に戻り、これからの事を相談することにした。
「引っ越しするんだよね?」
「俺はあの家には居たくない。シシーはあの家がいいの?」
「引っ越し出来るならしたいかな。」
「じゃあ、引っ越しは決定。明日家探し始めよう。一度、家にかえ・・・・・」
「大丈夫?片付けは私がやるよ。要らない物言ってくれたら捨てておくから。」
「いや、シシー一人にやらせないよ、俺も一緒行くから。」
「無理はしないで。」
「シシーもな。とにかく一度家に戻って荷造りしよう。」
「うん」
その日は早めの夕食を食べた後、何もせずに抱き合って眠った。
次の日、朝食を食べた後、新居を探す為不動産の紹介事務所に行き、通勤の利便さと予算内の家賃で探してもらい、前よりも便利で綺麗な家を見つけることが出来た。
定期的に掃除はしているらしいのですぐにでも入居は可能とのことなので、即決した。
その後は二人で自宅に向かった。
ついこの間まで幸せが詰まった自宅は、今ではただの事件現場となった。
とにかく片付けて荷物をまとめてしまいたい、その一心で家に入った。
ブライアンは玄関で動かなくなってしまった。
「ライ、少し換気してくるから待っててくれる?」
「…うん、ありがとう…」
急いで部屋に入り、キッチンに行きゴミ袋を取る。
テーブルの上にはベルが持ってきたであろう料理が並んでいる。
とにかく先に窓を開けていく。
寝室を開ける時、手が震えていることに気付いた。
昨日の光景が浮かぶ。
裸のブライアンとベルが抱き合っている姿。
脱ぎ散らかされた下着や服。
乱れたシーツや布団。
そして匂い…。
開けるのが嫌で嫌で堪らない…。
でも、ここをなんとかしないとやっと落ち着いたブライアンがまた取り乱してしまう。
グッと気合いを入れ、ここは事件現場なのだと思い直し、ドアを開けて、窓を開けた。
ゴミ袋を持ち、シーツやカバーを外し、ゴミ袋に入れていく。
少しでも痕跡があるものはゴミ袋に詰めた。
匂いがしないようにとサイドテーブルを開けようとした時、飲んだであろう避妊薬のゴミがあった。
あー本当にブライアンとベルは…
そう思ったら涙が出た…。
二段目の引き出しからアロマを出して、ロウソクに火を付け、アロマを焚いた。
キッチンに行き、別のゴミ袋にブライアンが食べたグラタンの皿を入れた。
ベルが持ってきたワインも袋に入れ、証拠の品を一つ一つ袋に入れた。
テーブルの上を綺麗にし、昨日の痕跡を消した。
玄関に行くとブライアンは俯いて拳を震わせて立っていた。
すぐに側に行き、ブライアンの手を取りギュッと握った手を開かせた。
「ブライアン、大丈夫?」
顔を覗くと、ブライアンが抱きついてきた。
「ごめん、また泣かせた…。」
「え?」
「シシー、泣いてる…見たくない物片付けてくれたんだろ…ごめん、俺がやらなきゃならなかったのに…」
「ごめん、泣いてたの忘れてた…もう大丈夫だよ、ブライアンこそ大丈夫?私はもう大丈夫だから。」
「大丈夫。シシーだけに辛い思いさせないよ、さあ俺も荷造りしないとな。」
ブライアンが部屋に入っていった。
一瞬立ち止まり、すぐに要らない物をゴミ袋に入れていった。
途中、私が最初に集めたゴミ袋をジッと見た後、片付けを進めた。
寝室以外のゴミの選別は終わって、最後の寝室に二人で入った。
匂いはもうない。
窓も開けているので、日の差した明るい寝室はいつもの寝室と変わらない。
でもやっぱり今までと同じ部屋とは思えなかった。
ブライアンはベッドを凝視していた。
顔色は白く倒れそうだ。
「ライ、言ってくれたら私が荷造りするよ、リビングで待ってて。」
「いや、一緒にやるよ。ありがとう、シシー。シシーが綺麗にしてくれたから大丈夫だよ。辛かっただろうに、本当にありがとう。不甲斐なくてごめんな…。」
「私は平気だよ。ライが心配だよ。無理はしないで顔色悪いよ。」
「正直、吐きそうだ…。でも今逃げたらいつまでも夢に見そうだから頑張るよ。」
「辛くなったら言ってね。」
そしてゴミと持っていく物を選別し、今必要な物だけをトランクに詰めていく。
後は実家に頼んで人を送ってもらって荷造りをしてもらう事にした。
アロマの火を消し、窓を閉めて部屋を出た。
出た瞬間、二人で息を吐いた。
気付かぬうちに力が入っていたのだろう。
顔を見合わせ笑った。
リビングの窓も閉めて、貴重品もカバンに入れて、家を出た。
これでこの家ともお別れだ。
二人で宿屋に戻り、荷物を置いてから私の実家に向かった。
お父様とお母様に引っ越しする事を報告して、あの家の荷造りをお願いした。
お父様とお母様は急な引っ越しに驚いていたが、何かを察したのか、追求される事はなかった。
荷造りも使用人を送って、新居に運んでくれる事にも快く承諾してくれた。
今夜は実家に二人で泊まるが、ブライアンは自分の実家に引っ越しの報告に行く為、
ブライアンは家の馬車ではなく、馬を借りて実家へ帰っていった。
ブライアンのハワード侯爵邸にはブライアンの両親、兄夫婦が住んでいる。
ご両親もお兄様も良い人だが、お義姉様は少し苦手だ。
ブライアンとの距離が近いし、何かと小言が多い。
ブライアンのファンの態度に似ていて好きになれなかった。
夕食が終わっても戻って来ないブライアンを心配し始めた頃、ブライアンが戻ってきた。
ブライアンは何故か怒っているようなので、
どうしたのかと聞けば、
「あの人が元凶だった!」
と言った。
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