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私が悪い
しおりを挟む三人で団長の執務室へ向かった。
中へ入ると疲れた顔の団長がいた。
「おー休みの所悪いなぁ、カールの事は聞いたか?」
「簡単にしか聞いてませんが、カールが証拠保管庫から盗み、自分で首を切ったとしか聞いていません。」とブライアンが言うと、
団長がベルの供述と何故カールがこんな事をしたのかの説明をした。
私は知らなかった…ベルがブライアンを好きだった事も、カールが私を好きだったことも…。
カールは私よりも一つ年上で、入団は一年早かった。
それでも歳が近かったからすぐ仲良くなった。
ミッシェルと三人で訓練し、食事をし、休みも一緒に出かけたりした。
成人したら三人でよく飲みに出かけた。
ブライアンは三歳上で既に史上最年少副隊長になっていて、近寄れる存在ではなかった。
美形なうえ、侯爵家の次男坊だ。
団長は気さくに団員皆に話しかけてきてくれていたが、ブライアンは笑いもせず、孤高の騎士って感じで、団員とはほとんど親睦を深めようとしていなかった。
ある日、団長の執務室へ報告書を持っていった時に、制服のボタン付けをしているブライアンがいた。
なんでも出来そうなブライアンが悪戦苦闘している姿が面白くて思わず笑ってしまった。
「笑うな!」
「私がやりましょうか?」
それがブライアンと初めての会話だった。
私がボタンをつけ終わると、
「ありがとう」
とぶっきらぼうに言う姿もなんだか可愛くて笑ってしまった。
それから会うと一言二言話すようになり、数ヶ月経った頃、
「シシリーが好きだ。付き合って欲しい!」
と、耳を真っ赤にして言うブライアンが愛おしくて、
「私もブライアンが好き」
と答え、付き合い始めた。
会話をするようになった頃、それまで気にした事がなかったから知らなかったが、ブライアンの人気は半端なかった。
少し話すだけで、図々しいだの、身の程をしれだの、たかだか男爵の娘がだの、私を見つける度に訓練所に見学に来ている令嬢達、王宮で働く女性達から文句を言われ、いい加減うんざりしていたし、確かに男爵家の私よりも相応しい人がいると思って、ブライアンへの恋心に蓋をしようと思った時もあった。
そんな時、ミッシェルとカールが親身になって私の話しを聞いてくれて、
「頑張れ」と背中を押してくれてブライアンとの交際を受け入れたという経緯もあった。
ベルも、店にみんなで行けば、笑顔で接客してくれていたし、私達が付き合い始めた事を報告したら「おめでとうございます」と嬉しそうに言ってくれていた。
そんな二人の気持ちを全く気付かず、目の前でブライアンと仲良くしている所を見せつけていたのだ。
腹も立つだろう…
でも…
「・・リー、シシリー、大丈夫か!」
団長に声をかけられてハッとし、顔を上げると三人が心配そうに私を見ていた。
「すみません、考え事をしてしまいました…」
「シシリー、お前、ブライアンのファンに嫌がらせされてたのか?」
「え⁉︎」
「あ…」
ブライアンは驚いて私を見、私は気まずくて俯いてしまった。
「シシー、そうなのか?誰に何をされた!」
と殺気を出しながらブライアンが私に問いかける。
「まあ、何度か…」
「なんで言わなかった!いつから!」
「・・・・それは…」
ミッシェルが、
「カールはシシリーへのたくさんの嫌がらせに憤っていたよ。水をかけられ、制服は何度もボロボロにされ、媚薬を盛られたって。」
「媚薬⁉︎いつ、大丈夫だったのか?どうして言ってくれなかったんだ!誰かに襲われたのか!」
さらに殺気が増し、身体が震えそうだ。
「ブライアン、落ち着け。誰に何もされてはいないそうだ。シシリーは一人で耐えたそうだ。そうカールが言っていた。そんな事も知らないお前が許せなかったらしい。」
「私が言わないでとお願いしていたんです!大した事ではないし、付き合う前から何度もあったので慣れてましたから!」
「付き合う前から⁉︎・・・どうして…俺に相談しなかった…そんなに俺は頼りなく思われていたのか?」
「違う!心配かけたくなかったのよ!ライの人気は貴方が思ってるよりあるのよ、そんな貴方と付き合うんだもの、それくらい対応出来なければ付き合えないわ!」
「それでもせめて団長に相談するべきだった!今まで嫉妬や妬みから大事件に繋がる事案をたくさん見てきただろう!なのにそのお前が助長させてどうするんだ!知っていたらもっと早く公にして、俺が牽制する事も出来た!」
「落ち着け、ブライアン!シシリーが悪いわけではないだろう!それとも悪いのはシシリーなのか!」
と団長がブライアンを怒鳴った。
「申し訳ありません…シシリーに腹が立ったのではありません…気付かなかった自分に腹が立ってしまいました…。
ごめん、シシリー…」
「…ごめん、私が黙ってたから…ちゃんと報告すればこんな事にならなかった…。
ブライアンにも辛い思いさせなかった…。
ごめん…ごめんなさい…私のせいだ…」
私が誰かに相談していたら、カールは媚薬なんて盗まなかったし、ベルにも媚薬を渡さなかったと思う。
私の対応が間違っていたんだろう…。
「シシリー!あんたが悪いんじゃないよ!悪いのは嫌がらせした奴だし、媚薬をブライアンに飲ませたベルだし、媚薬を盗んだカールだよ!相談してほしかったけど、あんたが悪いんじゃない!」
「でも元凶は私だよ…私がいなければこんな事にはならなかった…」
「違う!
ごめん、シシー、責める気はなかったんだ。シシーがそんな事されてるのも知らなかった俺にカールが怒るのも仕方ないのかもしれないが、シシーは何も悪くないよ。
悪いのは俺だ。
寄ってくる令嬢達は無視するだけだったし、シシリーと付き合い出してから目立って寄ってきたのは昨日あったフランシス・イザリスしかいなかったから他は諦めたと思ってたんだ…。
シシーと付き合えて嬉しくて浮ついてて、そんな事も気付かなかった…。
ごめんな。
だからシシーが悪いわけじゃない!
俺が悪いんだ…。」
「お前らいい加減にしろ!何回も言わせんな!悪いのは小狡い事をした奴等!
薬を盗んで唆したカール!
そしてそれを飲ませたベルだ!
シシリーもブライアンも悪くはない!
ただシシリーは報告義務違反だ!」
「「すみません…」」
「じゃあ今のカールの状況を説明するぞ。
カールは自分で首を切った後、俺がすぐ止血した事とミッシェルが皆に迅速に伝え、医務室に行って医師を連れて応急処置が出来たからなんとか一命は取り留めた。
まだ意識は戻っていないが、監視の為二番隊と三番隊から一名ずつ監視として病院に付いている。しばらくは入院だろうが、回復次第、逮捕し取り調べが始まる。
その際お前達からも聴取すると思うからそのつもりでいて欲しい。
この件は俺とラルス、ミッシェル、ヤコブ、今、病院にいるチャーリーとダニエルだけで処理する。媚薬の事を知っている者はほとんど今の段階ではいない。
だが、こういった事はどこからか漏れることも多い。嫌な噂も流れるかもしれない。
お前達は何も悪い事はしてないんだ、堂々としていろ、分かったな。」
「「はい」」
「後、ベルにもカールにもお前達は面会禁止だ。今後も会う事はないと思うが構わないな?」
「・・・二人には一度会って話しを聞きたい気持ちもあります…」
「俺はあの女には会いたくありませんが、カールとは話せるようになったら一度話しを聞きたいです」
「分かった。まあ後々って事でいいか?」
「「はい」」
「じゃあ、お前達は今度こそゆっくり休め。」
「はい、何かあれば遠慮なく呼んでください。」
「私も呼んで下さい。ミッシェルもごめんね、色々迷惑かけて…。」
「何言ってんの、あんた達は友達だし、これは仕事だし、気にしてんなら今度奢ってよ!」
「分かった、ありがとうミッシェル。」
「俺も奢るぞ、ミッシェル。」
「二人から奢られるの楽しみにしてるからゆっくり休んで!」
団長とミッシェルに見送られて、私とブライアンは宿屋に戻った。
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