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尋問
しおりを挟む二人で仮眠室から出ると、団長とミッシェルが、
「落ち着いたみたいだな」
「仲直り出来たみたいだね」
と声をかけてくれた。
「はい、ご心配をおかけしました」
「色々ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」
「お前達が別れる事がなくて良かったよ。
ブライアン、もしあの女を正式に訴えるのなら被害届を出してもらうが、どうする?」
「二度と会いたくはありませんが、許す気は一切ないので訴えようと思います。
ですが、シシリーが傷付く事が多いようなら相談して決めたいと思います。」
「私は絶対許しません。無理矢理性交渉をさせられた行為は、レイプです。
ブライアンが訴えると言うのなら、私はそれに従います。
泣き寝入りなんて絶対しません!」
「そうか、では被害届を提出してくれ。慰謝料はどうする?」
「今後の抑制にもなるようにとことんやります。こんな卑劣な行為をするとどうなるのか分からせます。引っ越しの費用、ベッドの買い替えなどお金はあればあるだけいいので。それに精神的苦痛は金額には表せられませんが、シシリーの分も含めてきっちり請求します。」
「分かった。では、そのように進めよう。
今日は二人とも帰って休め。シシリーは一週間、ブライアンは今日から三日間休みとする。家はどうする?あの家に帰るのは嫌だろう?」
「あの家はもう嫌です。今日は二人で宿屋にでも泊まり、それからの事は相談して決めます。」
「そうか、とにかく色々あったが、ゆっくり休め。シシリー、イーグルに行く事はそのままでいいのか?予定通り来月からでもいいが。」
「いえ、態々団長が話しを付けてくださったのでそのまま休み明けに移動します。引き継ぎはほぼ終わっておりますので。」
「確認事項はそれだけだ。何か質問はあるか?」
「あの女の尋問は終わったのですか?」
「薬の出所がハッキリしていない。興奮していてまともに会話にならない。時間をおいてからまた改めて尋問するつもりだ。」
「そうですか…。」
「私もシシリーと一緒にあの定食屋に行ってあの子と話した事があるけど、あんな子だったんだと驚いた。普通に愛嬌のある子だったのに、泣いて喚いてたと思ったら、急に何も話さなくなって、今は凶暴な野良犬みたいに目だけギラギラさせて、ブツブツ何か言ってる状態だったわね。」
「ブライアン、大丈夫?顔色が悪いよ。」
「うん、大丈夫だよ…少し思い出して気持ち悪いかな…」
シャワーを浴びる前の顔色に戻ってしまったブライアンは拳を握り締めて、今にも倒れそうだ。
「ライ、もう帰ろう。」
握りしめた拳を開かせ、手のひらを優しく撫でた。
「ありがとう、シシー、帰ろう。」
少し落ち着いたブライアンの手を握り、二人で団長とミッシェルに挨拶し、執務室を後にした。
一方執務室の二人は…
「ブライアンは余程シシリーを裏切った事がショックだったんでしょうね…。大丈夫でしょうか…。」
「媚薬混入は今までも何度かあった。男も女も被害はあるが、圧倒的に女性の被害者が多いし、身体も心も傷付けられるからな。
男性は女性ほどのトラウマにはならない事がほとんどだが、今回のように敢えてパートナーに見せつけるようなパターンはどちらにもトラウマを植え付ける。シシリーはたまたま早く帰ってきたから目撃する事になってしまったがな。」
「そうですね、本来明日が帰城予定でしたからね。でも、少しタイミングが良すぎませんか?何故昨夜実行したんでしょうか?シシリーが出立した日でも良かったし、帰ってくる間際じゃなくても良いと思うんですけど。」
「薬が手に入ったのが昨日だったんじゃないか?ま、聞けばいいだけだが。」
「団長、私が尋問して良いでしょうか?同じ女なら何か言うかもしれません。」
「そうだな、ミッシェル、もう一度あの女のところへ行こう。」
「はい」
騎士団内にある地下の監獄に向かい、鉄格子越しの尋問を始めた。
「ベル、私よ、ミッシェルよ。」
ノロノロと顔をあげたベルは、
「ミッシェル…さん」
「ええ、私よ。ベル、どこから薬を手に入れたの?媚薬なんてそこらへんの薬屋には売ってないわよ」
「・・・貰ったのよ…」
「貰った?誰に?」
「店に来たお客さんに貰ったのよ…。好きな人に飲ませたら良いって…。」
「そう。そのお客さんはよく来るの?」
「最近毎日来てた…。でも前にも来てた事がある人だと思う。ミッシェルさん達と一緒に…」
「私達って私、シシリーとブライアンとカールくらいとしか来てないわよ」
「多分、カールって人だと思う…最近は一人でフードを被って来てた…あの人…シシリーさんの事好きだから…」
「そうなの?」
「一緒に来てた時はシシリーさんの事、ずっと見てたから…。私もブライアンさんの事ずっと見てたから…同じだなって思ってた…」
「薬を貰ったのはいつ?」
「一昨日…明後日には帰ってくるから帰ってくる前の日に飲ませてシシリーさんに見せつけてやれって…。そしたらブライアンさんは私のものになるって…。」
「ベル、ブライアンとシシリーはもうすぐ結婚する事も、新居に引っ越したばかりなのも知ってたよね?ベルもおめでとうって言ってたよね?シシリーとも仲良くしてたよね?」
「諦めようとしてました…でも、ブライアンさんが私の物になるかもって思ったら…止められなかった…薬を飲ませて抱かれても、一晩中、私をシシリーと呼び、“シシリー、愛してる”と言われ続けて…悲しくて…途中から涙が止まらなかった…。
ブライアンさんに叩き起こされて、避妊薬無理矢理飲まされて…拘束されて…猿轡もされて…私の事を汚物を見るような目で見られて…私…なんでこんな事しちゃったんだろう…」
「ベル、シシリーもブライアンも今は落ち着いたけど、貴方の事を決して許さないそうよ。多分、多額の慰謝料を請求されるわ。
貴方のご両親もこれから大変でしょうね…。騎士団の人間は誰も行かないし、噂も流れる。」
「そんな、ブライアンさんは私をただで抱いただけじゃない!傷付いたのは私よ!」
「ブライアンは好きで貴方を抱いたんじゃないわ!薬で無理矢理発情させられて、それでもシシリー以外を抱きたくないから貴方をシシリーに見立てたのよ!目覚めた時のブライアンのショックが貴方に分かる?最愛の人を裏切ってしまったブライアンの気持ちが分かる?そしてその姿を最愛のシシリーに見られたブライアンが傷付かなかったなんて言わせない!ただで女を抱いたなんて言わせない!
私の大事な親友を意識を無くすまで傷付けて!ブライアンも同じよ!昨夜の事を思い出すだけで真っ青になって身体が震えるのよ!
私は絶対あんたを許さない!
そしてあんたに薬を渡したカールを絶対許さない!地獄に堕ちろ!」
「ミッシェル!」
「・・・すみません…感情的になりました…。」
「私はブライアンさんの事が好きだっただけよ!いつもいつも二人でイチャイチャしてるのを見させられて、別れてしまえばいいのよ!」
ガン!と鉄格子を団長が蹴った。
ビクッとしたベルに、
「俺もお前を許さない。大事な部下を傷付けた代償はキッチリ払ってもらう。
お前に薬を渡したカールの事も許さない。
覚えておけ、
二度とブライアンとシシリーの名前を口にするな。
一度でもお前の口からブライアンとシシリーの名前が出たら、その喉を潰す。
分かったな、二度と別れろなんて口に出すな。」
団長の響く低音の声にベルはブルブル震え出した。
「もう一度聞く。お前に薬を渡したのはカールなんだな?」
コクコクと小刻みに頷く。
「カールは帰ってくる前日に薬を飲ませてシシリーに見せつけろと言ったんだな?」
首を縦に振るベル。
「お前は何に薬を混ぜたんだ?」
「グラタンソースに混ぜました…私が持って行ったワインにも入ってます…。ブ、…あの方は私が持っていったワインは飲まず家にあるワインを飲んでいました…。
多分早く帰ってほしくて、急いで料理を食べたんだと思います…
一気に食べて、完食する頃には顔が赤くなっていたので薬が効き始めたんだなと思いました…」
「それで?」
「暑いんですかと聞くと、暑くはないが身体がおかしいと言った後、“シシリー、助けて、シシリーを抱きたい”と言って、私を抱きました…」
「最初からお前をシシリーと思っていたんだな?」
「・・・はい…」
「分かった。また聞きにくるかもしれない。その時は正直に話せ。」
「はい…」
こうして一回目の尋問は終わった。
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