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番外編 負けず嫌いなアーリア
寝かしつけるはずが・・・
しおりを挟む今日はとても天気が良くて気持ちが良いので、庭園をレオンとお散歩しています。
レオンが生まれてから何度も歩いた庭園。
私は知らなかったのですが、散歩道の途中、ルドの執務室から散歩している私達が見えるのだそうです。
それをルドはずっと見ていたと聞きました。
どんな気持ちで見ていたのかと思うと胸が苦しくなりますが、今は私達を見つけると手を振ってくれます。
なのでレオンは大きな声でルドを呼びます。
「とーーーさまーーー!」
手を振るレオンに、窓を開けルドが応えます。
「レオン、母様と散歩か。母様が転ばないようように気をつけなさい。
レオンも気をつけるようにな。」
ルドの声は張り上げなくても、低音なのによく通る声なのです。
「あの方、声まで凶器なのですね。
ご覧になって下さい、あちらの通路でメイドが2人、あちらではご令嬢が2人、胸を抑えていらっしゃいます。
王太子殿下が敵とみなした者には心臓を止まらさんばかりの超低音での威圧、お二人にはあのように甘やかな声で女性の心を鷲掴みする低音ボイス…恐ろしい人でございます。」
真顔でそう話すベル。
何を言ってるのかよく分からないけれど、ベルなりに褒めているのでしょう。
相変わらずルドは人気者です。
「リア、身体が冷えてしまう、そろそろ部屋に入りなさい。
足元も気をつけなさい。」
あ、あちらのご令嬢が倒れられました!
だ、大丈夫でしょうか⁉︎
「リア?聞いているのか?」
あ!あちらのメイドは泣いて…る?
「リア。」
「あ、はい!聞いております!戻りますね、行きましょう、レオン。」
手を振りレオンと戻ります。
なるほど…凶器ですね…。
レオンはルドにとても似ています。
将来あのように全身凶器になってしまうのでしょうか…。
こんなに愛らしいのに、あんな色気のある男性になるのかと思うと、なんだか心配してしまいます…。
今からしっかり教育していかねばと心に誓いました。
レオンの部屋に戻り、お昼寝の時間です。
今日は王太子教育がお休みなので、お散歩の後はお昼寝です。
レオンは部屋着に着替えると、パタンと寝てしまいました。
あ…レオン…寝つきが良いんだったわ…。
寝かしつける必要ないわ…。
今思い出しました・・・もうレオンは赤ちゃんではありません。
寝かしつける必要もありません。
唯一の特技も使えるのはお腹の子が生まれてから…。
「ハア…私は何で勝てるのかしら…」
思わず呟いてしまうと、
「アーリア様?何か勝負をしていらっしゃるのですか?」とベル。
「あのね、私が勝手にルドと勝負してるのよ。ルドはなんでも出来るでしょ?
私はレオンとお腹の子の母親なのに、何もしてあげられないの。
だから何かルドに勝てるものはないかしらと思って色々やったの…。
どれもルドには勝てなかった…。
ダメね、情けないわ…。」
結局、私は何もルドには敵わない。
なんだか自信がなくなってしまった。
しょんぼりしていた時、ルドがレオンの部屋に来ました。
「さっきリアの様子がおかしかったから見に来てしまった。
何かあったのか?」
レオンのベッドの側の椅子に座っていた私を、窓際のソファまで私を抱き上げ座らせるルド。
「身体の事か?それとも何かあったのか?」
心配気に顔を覗くルド。
「身体は大丈夫、なんともないわ。
ただ…母親なのにレオンとお腹の子に何もしてあげられない事が悲しくなってしまっただけなの…心配かけてごめんなさい…」
「何故そんな事を思ったんだ、リア。
リアが何もしていないなんて誰かに言われたのか?」
眉間に皺を寄せてしまったルドに違うと言いましたが、皺が取れません。
ルドに知られるのは恥ずかしいですが、私が最近ルドと張り合っていた事を話しました。
ルドは私を抱きしめ言いました。
「俺はレオンが生まれてから、たった30分しか会わせてもらえなかった。
徐々に増やしてやったが、もっと会いたかった。レオンにもリアにも自由に会いたかった。でも会えなかったストレスをレオンの服やおもちゃを作る事で発散していただけなんだよ、リア。
何かやっていないとおかしくなりそうだった。
幼子の事など何も知らなかったから最初は失敗ばかりだった。
何度も何度も作り直した。
そんな事を5年もしていたんだ、上手くもなる。
リアの作った靴下もよだれ掛けも、俺が作ったものより温かで優し気な、大人になっても母が作ってくれたものだと自慢出来るものだよ。
王族となれば母親手作りの物など、父ですら持っていない。
だがレオンと生まれてくる子は持てるのだ、それはきっと宝物となる。
俺も母手作りのものなど持っていない。
料理など作ってくれた事もない。
王太子妃の仕事をしながらリアは、レオンやお腹の子の為に何かしてあげたいと思った事が既に凄い事なんだよ、リア。
俺は身籠った身体で物を作るなんて出来ないよ。
どれだけ乳をあげたいと思っても俺にはあげられない。
どんなに生まれるまでの間、お腹の子に手を尽くしてあげたいと思っても、俺には出来ない。
リアはお腹の子を既に育てているのに、俺はこうしてリアの話しを聞いてあげることしか出来ない。
だからリア、何もしてあげられないなんて思わないで欲しい。」
優しく頭を撫でながら囁くように話すルドの声はとても安心出来て、今まで何をそんなに躍起になって張り合っていたのかと思いました。
そしていつの間にかルドの腕の中で眠ってしまいました。
目が覚めると、レオンのベッドで眠っていた私をレオンが横で見ていました。
「母様、起きた?」
「ごめんね、レオン、母様も眠ってしまったみたい。」
「父様がさっきまでいたんだよ、父様が抱っこしてたら眠っちゃったって言ってた。
父様に抱っこされるとあったかくて眠くなっちゃうの、母様も同じだね!」
結局、寝かしつけも負けてしまったみたいです。
私の旦那様に勝てるものはないのかもしれませんが、もう勝負しようとは思いません。
ルドの作る物を子供達と一緒に楽しみたいと思います。
無事子供が生まれましたらご報告したいと思います。
ありがとうございました。
*次の『ジェラルドの子育て相談』で終わります。
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