30 / 35
番外編 ジェラルドの手作り作品集
着ぐるみ
しおりを挟む季節は冬。
レオンは春になれば一歳になる。
言葉もだんだん増えてきた。
レオンはやっと伝い歩きをするようになった。
なので俺の作った手押し車は活躍の場がレオンにはない。
俺がレオンを乗せて押している。
レオンは相変わらず「あ、あ、あ、あ」と言っている。
そしてそんなレオンを微笑ましく見ているのだが、レオンの小さな耳が真っ赤になっているのに気付いた。
「レオン。」
俺が呼ぶと、「とーた」と振り返る。
レオンの顔を見れば頬も真っ赤だ。
確かにここは風が強い。
大変だと思いレオンを抱っこし、すぐに部屋へ戻った。
湯冷ましに少し熱湯をいれ、少しずつ飲ませる。
毛布で包み、奪われた熱を少しでも戻そうとした。
しばらくすると耳も鼻の先も普通になった。
この冬を乗り越える為に、レオンの防寒グッズを早急に考えなければ。
秋になる頃に、編み物をしたがレオンは毛糸のチクチクが気に入らないらしく、帽子もマフラーもしまったままだ。
なので新たな防寒具を作らねばならない。
そして柔らかい布地を選び、二枚重ねにし、間に薄く綿を詰め、耳の部分も隠れるように首の下でボタンで止められるようにした。
頭の上には猫の耳が付いている。
レオンが被ると子猫のようになるだろう。
黒猫にしてみたが、白猫も可愛いだろうから次は白猫だ。
次は首周りだが、チクチクせず温かく柔らかい布地…なかなか良いのが見つからない。
とりあえずレオンに被せてみる。
「レオン、温かいか?」
姿見の前で自分の姿を見つめるレオン。
「にゃんにゃん、かーいねー」
と言って自分を褒めている。
「では行こう、乗りなさい。」
レオンを手押し車に乗せ出発して。
鼻を隠す事は出来ないが耳は守られた。
だが首周りがやはり気になる。
「レオン、寒くはないか?」
「とー、にゃんにゃん!」
「そうか、気に入ったのだな、それは良かった。」
ご機嫌ならばそれで良い。
猫か・・・
俺はその夜、型紙を布地にあて、チョキチョキ切っていく。
袖部分も切り、猫耳フード同様、生地には綿を入れる。
もうお手のものだ。
そうして出来たものを見る。
明日はこれを着せてみよう。
一ヶ所忘れていた部分を慌てて作り、胴体部分に縫い付けた。
翌日、レオンに俺お手製の猫の着ぐるみを着せる。
上から下まで肌を隠せている。
完璧だ。
股の部分はボタンをつけ、オムツ替えも楽だ。
「レオン、黒猫だ、どうだ、気に入ったか?」
姿見を俺の足に掴み、見つめるレオン。
「にゃんにゃん、とーた、にゃんにゃん」
見上げて、俺に報告しているようだ。
「そうだな、レオンは子猫のように可愛いぞ。」
では、皆に見せに行こう。
手押し車に乗せ、いつものようにレオンと散歩に出る。
「キャーー、今日は猫よーー」と何処からか声がかかる。
昨日も猫だが?
レオンは「にゃにゃにゃにゃ」と言っている。
おそらくにゃんにゃんと言いたいが、振動でにゃ、しか言えないのだろう。
「そうだな、レオンはにゃんにゃんだ。」
「と、と、と、と」
これは俺を呼ぶ声。
手押し車を止め、「どうした?」
「ちっち、ちっち」
それは大変だ!
すぐに近くのトイレに連れて行く。
股のボタンを外しオムツを外すと、ギリギリで間に合った。
最近レオンは小用を教えるようになった。
凄い成長だ。
皆が拍手している。
レオンはニコニコだ。
「偉いぞ、レオン。父様にちゃんと言えたな。」
抱っこして頭を撫でると、
「よちよちよー」と俺のおでこを撫でるレオン。
思わずギュッとしてしまった。
「父様にヨシヨシしてくれたのか、レオン。」
「よちよちよー」
隅の方で俺達を見ていたメイドや通りかかった文官達が、ハンカチで涙を拭っていた。
何故お前達が泣くのだ?
「とー、まんま、まんま」
今度は腹が減ったレオンにおやつを食べさせる為、部屋に戻る。
黒猫レオンをカゴの中に戻し、俺は部屋へと急ぐ。
「にゃにゃにゃにゃにゃ」
クスクス皆が笑う中、俺とレオンは今日も散歩を続ける。
3,113
お気に入りに追加
5,448
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。


愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

【完結】さよならのかわりに
たろ
恋愛
大好きな婚約者に最後のプレゼントを用意した。それは婚約解消すること。
だからわたしは悪女になります。
彼を自由にさせてあげたかった。
彼には愛する人と幸せになって欲しかった。
わたくしのことなど忘れて欲しかった。
だってわたくしはもうすぐ死ぬのだから。
さよならのかわりに……
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。


忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる