彼女の光と声を奪った俺が出来ること

jun

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番外編 ジェラルドの手作り作品集

着ぐるみ

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季節は冬。
レオンは春になれば一歳になる。
言葉もだんだん増えてきた。

レオンはやっと伝い歩きをするようになった。
なので俺の作った手押し車は活躍の場がレオンにはない。
俺がレオンを乗せて押している。

レオンは相変わらず「あ、あ、あ、あ」と言っている。
そしてそんなレオンを微笑ましく見ているのだが、レオンの小さな耳が真っ赤になっているのに気付いた。

「レオン。」

俺が呼ぶと、「とーた」と振り返る。

レオンの顔を見れば頬も真っ赤だ。

確かにここは風が強い。
大変だと思いレオンを抱っこし、すぐに部屋へ戻った。

湯冷ましに少し熱湯をいれ、少しずつ飲ませる。
毛布で包み、奪われた熱を少しでも戻そうとした。

しばらくすると耳も鼻の先も普通になった。

この冬を乗り越える為に、レオンの防寒グッズを早急に考えなければ。

秋になる頃に、編み物をしたがレオンは毛糸のチクチクが気に入らないらしく、帽子もマフラーもしまったままだ。

なので新たな防寒具を作らねばならない。

そして柔らかい布地を選び、二枚重ねにし、間に薄く綿を詰め、耳の部分も隠れるように首の下でボタンで止められるようにした。
頭の上には猫の耳が付いている。

レオンが被ると子猫のようになるだろう。

黒猫にしてみたが、白猫も可愛いだろうから次は白猫だ。

次は首周りだが、チクチクせず温かく柔らかい布地…なかなか良いのが見つからない。

とりあえずレオンに被せてみる。

「レオン、温かいか?」

姿見の前で自分の姿を見つめるレオン。

「にゃんにゃん、かーいねー」

と言って自分を褒めている。

「では行こう、乗りなさい。」

レオンを手押し車に乗せ出発して。
鼻を隠す事は出来ないが耳は守られた。
だが首周りがやはり気になる。

「レオン、寒くはないか?」

「とー、にゃんにゃん!」

「そうか、気に入ったのだな、それは良かった。」

ご機嫌ならばそれで良い。

猫か・・・


俺はその夜、型紙を布地にあて、チョキチョキ切っていく。
袖部分も切り、猫耳フード同様、生地には綿を入れる。
もうお手のものだ。

そうして出来たものを見る。

明日はこれを着せてみよう。

一ヶ所忘れていた部分を慌てて作り、胴体部分に縫い付けた。


翌日、レオンに俺お手製の猫の着ぐるみを着せる。

上から下まで肌を隠せている。
完璧だ。
股の部分はボタンをつけ、オムツ替えも楽だ。

「レオン、黒猫だ、どうだ、気に入ったか?」

姿見を俺の足に掴み、見つめるレオン。

「にゃんにゃん、とーた、にゃんにゃん」

見上げて、俺に報告しているようだ。

「そうだな、レオンは子猫のように可愛いぞ。」

では、皆に見せに行こう。

手押し車に乗せ、いつものようにレオンと散歩に出る。

「キャーー、今日は猫よーー」と何処からか声がかかる。

昨日も猫だが?
レオンは「にゃにゃにゃにゃ」と言っている。
おそらくにゃんにゃんと言いたいが、振動でにゃ、しか言えないのだろう。

「そうだな、レオンはにゃんにゃんだ。」

「と、と、と、と」

これは俺を呼ぶ声。

手押し車を止め、「どうした?」

「ちっち、ちっち」

それは大変だ!
すぐに近くのトイレに連れて行く。

股のボタンを外しオムツを外すと、ギリギリで間に合った。
最近レオンは小用を教えるようになった。
凄い成長だ。

皆が拍手している。
レオンはニコニコだ。

「偉いぞ、レオン。父様にちゃんと言えたな。」
抱っこして頭を撫でると、
「よちよちよー」と俺のおでこを撫でるレオン。

思わずギュッとしてしまった。

「父様にヨシヨシしてくれたのか、レオン。」

「よちよちよー」


隅の方で俺達を見ていたメイドや通りかかった文官達が、ハンカチで涙を拭っていた。
何故お前達が泣くのだ?

「とー、まんま、まんま」

今度は腹が減ったレオンにおやつを食べさせる為、部屋に戻る。


黒猫レオンをカゴの中に戻し、俺は部屋へと急ぐ。

「にゃにゃにゃにゃにゃ」

クスクス皆が笑う中、俺とレオンは今日も散歩を続ける。
















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