彼女の光と声を奪った俺が出来ること

jun

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番外編 ジェラルドの手作り作品集

膝あて

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レオンがハイハイをするようになった。

どこまでも行こうとするレオンを捕まえ、手作りのサークルに入れた。

だがレオンは固定されていないサークルを頭で押して移動しようとする。

サークルの改善点を考えたが、固定も出来ない、重さがあっては危険、ならばサークルを外そうと思い、サークルから出した。

今度は俺に突進してきた。
レオンを抱っこすると、膝が少し汚れている。
ラグを敷いてはいるが、多少汚れるのだろう。
汚れる事よりもレオンの膝が心配になった。つなぎのような服の裾をめくって、膝を見る。
擦れてはいないが赤くなっている。

うむ…

俺の部屋に置いてあるレオンの服を取り出した。

その夜、レオンの膝の部分に少し厚手の生地を縫い付けた。

うーーん・・・いまいちだな…

ただの丸い生地は可愛いレオンには似合わない。ならば…

ただの丸をクマにしてみた。
なかなか可愛い。

明日はこれを着せてみよう。


翌日、レオンにその服を着せてみる。
裸にし、オムツだけにすると喜ぶレオン。
バタバタ暴れるレオンに服を着せると、くるっと寝返りし、ハイハイを始めた。

うんうん、あれなら赤くなるまい。
部屋の端まで行くと、俺の方に戻ってきた。

抱っこして膝を確認する。

ん?これは何の跡だ?

レオンの膝の一部に小さな痕がある。
俺が縫い付けた膝あての部分を見てみると、裏の部分の糸の処理が悪かったようだ。
これは駄目だ。

レオンの服をまた脱がして、着てきた服を着せた。

そんな事をしている間に時間になってしまった。

泣き叫びながらレオンは行ってしまった。


その夜、縫い付けたクマを外し、今度はクマを当て布に縫い付け、クマと布の間に綿を詰めて膝の部分に縫い付けた。
糸の処理もちゃんとした。

翌日着替えさせたレオンはハイハイをするが、今度はコテンコテン転ぶ。
どうやら綿を詰め込み過ぎてバランスが悪いようだ。

服を改良するのは難しい。

行きたい所に行けないジレンマでレオンが泣き出した。
抱っこし、お茶を飲ませる。
そして着替えさせた。

「済まない、レオン。明日こそはその膝を父様が守ってみせる。」

そしてレオンは帰っていった。


綿を入れ過ぎたのなら少し抜けば良いが、加減がなかなか難しい。
何度かやり直し、とりあえず完成させた。

翌日、今度こそと着替えさせ、レオンをラグに座らせた。

今日のレオンは機嫌が悪い。
何故か座ったまま、グスグスと愚図り、俺に手を伸ばす。
抱っこすると、俺にしがみついてくる。

「どうした、レオン。どこか痛いのか?
熱はないようだが…。オムツも変えたし、ミルクも飲んだようだし…。
今日は父様に甘える日なのだな、では散歩に行こう。」

散歩して戻ってくると、既にメイドが迎えに来ていた。
少し顔色の悪いメイドにレオンを預けようとするが、レオンは俺を掴んで離さない。

「どうした?眠いのか?」
あまりにも泣くから途中までレオンを抱っこして連れて行く。

「今日は1日ぐずっていた。体調が悪いのかもしれない。あまりにもぐずる様なら医者に診せてほしい。」とメイドに告げてレオンをなんとか離して連れて行かせた。
レオンは「とーとー」と泣いていた。


その夜、俺は寝る前に肌触りの良い布でレオンの手袋を無心で作った。



翌日はご機嫌になっていた。
メイドが、「すぐ泣き止みましたからお医者様には診せてはいません。
なにか…虫に…刺されてしまったようです…塗り薬を塗りましたら楽になったようです…」
と何故か怯えながら報告してくれた。

「虫?何処を刺された?昨日は気付かなかったが。」

「足…足の指に小さな痕が…あり、ました…」

「そうか、後で見てみよう。」

レオンを受け取り、部屋でレオンの靴下を脱がせ、確認する。
右足の親指の先に小さいが赤くなってある所があった。
何の虫だ、レオンを刺した虫は!
針先ほどの小さな刺し傷を見て、虫除けを焚かなければと心に誓う。

「父様が虫を駆逐してやるぞ。もう安心だ。
ほら、頑張った褒美に父様が手袋を作ったぞ。存分にハイハイするのだ、レオン!」

膝あての付いた服に着替えさせ、手袋もつけた。

動き出したレオン。

ズデン!

泣き出すレオン。

どうやら手袋が滑って転んだようだ。

急いで手袋を取る。

「ごめんごめん、もう大丈夫だ。
さあ、行きなさい。」

ぶつけた額を撫でて泣き止ませると、元気良くハイハイするレオン。




ん?お尻にもクマがあったら可愛いかもしれない。




今夜も執務の後にレオンの服を改造しようと決めた。

















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