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番外編 ギルバートの贖罪
幽閉塔 八日目
しおりを挟む今日のアネットはずっとソファに座り、外の声を聞いている。
ルドとアーリアが散歩していたようだが、ルドは最悪な煽り方をしているようだ。
ちなみにアーリアはここにアネットがいる事をまだ知らない。
「リア、愛している。」
「ルド、私も愛しているわ。」
静かになったと思ったら、次に聞こえてきたのは、アーリアの甘い声。
アネットにしたら一番聞きたくなかった声だろう。
爪を噛み、髪を掻きむしり、ウーウー唸っている。
しばらく続いた艶ごとの様子は待機している俺達にも聞こえている。正直辛い。
横にいるメイドは顔を真っ赤にしている。
「リア、続きは夫婦の寝室でやろう、レオンは母上の所に預けてあるから、邪魔もされない。そろそろ弟か妹を作ってあげよう。」
それを聞いたアネットは、ソファに爪を立て、ガリガリと引っ掻いて暴れている。
悔しいだろう…死ぬほど。
アネットはずっとルドを狙ってきたから、誰かと付き合ったとかはないし、あんな声すら出した事はないだろう。
アネットには艶っぽさがない。
美人でスタイルも良いが、魅力が全くない。
ルドの隣りで笑顔で立っていても淑女的には満点だが、カリスマ性はなかったように思う。
優秀だから外交も社交も問題なく対応してたが、国王やルドがいたから他国の王族、外交官は友好的なだけだったのだろうと思う。
アネットと親しくしている他国の者はいなかったから。
特に王族の方達はルドがいなければアネットには近寄らなかった。
いずれアネットは破滅していたのかもしれないが、それまでにアネットは手駒を増やしていただろう。
裏で手駒を使い、虎視眈々とルドをアーリアから完全に奪う為に胸糞悪い企みをし尽くしていたかと思うと、顔が歪む。
また外の声が聞こえてくる。
「お祖母様、こちらです!最近はこの辺を散歩しなさいって父様が言っていたのです。
ほら、母様やお祖母様がお休み出来るように、ベンチもテーブルも用意してくれたのです!そこの大きな“魔女の塔”からお茶やお菓子をミラが持ってきてくれるんです!」
「フフ、“魔女の塔”ね…レオン、本当にあの塔には魔女がいるのよ。」
「え⁉︎本当ですか⁉︎父様が捕まえたのですか⁉︎今もいるのですか⁉︎」
「今もいますよ。でももう魔法は使えないの、レオンの父様が魔法を封じたから。
でもねレオン、お祖母様と約束して、絶対この塔に入ってはダメよ、呪われてしまうから。
その魔女はね、ずっとレオンの父様と母様を狙っていたの。
そして母様に呪いをかけたの。
でも父様が魔女をやっつけて、呪いを解いたの。
だから母様は目も見えるようになったし、お話しも出来るようになったでしょ?」
「母様は魔女のせいでお話しも出来なくて、目も見えなかったのですね…。
でもどうして魔女は母様に呪いなんかしたんですか?」
「魔女は父様が欲しかったの。だから母様が邪魔だったの。
父様、負けそうだったのだけど、最後の最後にとっても頑張ってやっつけたのよ、凄いわね、レオン。」
「はい!父様はすごいです!大好きなんですよ、ぼく。
父様は強いし、カッコいいし、魔女までやっつけるスゴイ父様です!
前に父様が言ってました、頑張るからって。
母様を守るために頑張って魔女と戦ってたんですね!」
「そうよ、でも魔女は魔法は使えないけどまだ父様や母様やレオンを狙っているの。
今までは父様1人で戦っていたけど、今はみんなで戦ってるから、大丈夫。
お祖父様も私も全力でやっつけるから、もう魔女には負けないわ。
レオンが大きくなった時、また魔女が現れるかもしれない。
その時は負けないようにレオンも父様のように強く、賢く、優しい男の子になりなさい。」
「はい!大きくなったら、今度はぼくが父様と母様を守ります!
あ、父様が弟か妹を頑張って母様とつくると言っていました。
だから弟と妹も僕が守ります、お兄ちゃんだから!」
「まあ、弟か妹を作ってるのね、楽しみね、レオン。」
「はい!」
「さあ、お茶でも飲みましょう。」
まだまだ続く、王妃様とレオン様の会話。
唇を噛み、自分の足を叩いて悔しがっているアネット。
どんなに怒っても、もう言い返す事もあの場に怒鳴り込む事も出来ないアネット。
つい気になった事をアネットに問いかけた。
「アネット、お前はいつまでそうやってるんだ?
どんなに腹が立っても、どんなに悔しくても、もうお前は何も出来ない。反撃も復讐も出来ない。
今、お前は自分がしてきた事の報いを受けている。報いを受ければ受けるほど、お前がしてきた事の酷さが分かる。
なあアネット、お前は今何を思っている?
確かに悔しいだろう、だが何故こうなったのかを考えはしないのか?
なんでこんな所に入れられ、そんな身体にされたのか考えないのか?
ジェラルドは考えたぞ。
何を間違え、どこで間違えて、どうすれば良かったのか考えて、これからどうすればいいのか、誰にも頼らず導き出した、自分を犠牲にしてでもアーリアを取り戻すと決めたから。
お前は自分だけは傷付かないようにだけしかしてこなかった。
他人だけを傷付けてきた。
だから誰もお前を助けない。
一人もお前を庇う人がいない。
そのことにも気付かず、ただ怒ってるだけのお前は、例え復讐を諦めていなくても、ジェラルドのように欲しいものは手に入れられない。反省した姿を見て始めて、周りは力を貸そうと思うんだ。
昔のお前なら完璧に反省したフリをして俺達を騙しただろう。
でも今はままならない自分にイライラしてお得意の弱々しい姿を偽れない。
何も出来ないお前は、今、何を考えているんだ、アネット。
悔しがることじゃなく、もっと考えろ。
死ぬまで考えろ。
反省なんか絶対しないだろうが、お前は考え続けろ。
あの時こうすれば良かった、あの時はああすれば良かった、そして気が付く、結果はどうやってもここに来ることになるってな。
ここに来ない為にはどうすれば良かったのか考えたら分かるぞ。
傷付けた人達を大事にすれば良かっただけだってな。
ここを出て行くまでの時間、外の声を聞くだけじゃなく、自分の事を考えろ。」
最初は俺の声に怒っていたが、段々大人しくなった。
そう、お前はいつでも頭を使って沢山の悪事を考えた。
また悪事を企むかもしれない。
それでも考え続けたら、少し、ほんの少し“あの時、ああすれば良かったな”と思う事があれば良いなと思うから。
アネットがここを出るまで、後四日。
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