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キャリーのその後

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時間は少し遡る。


出産までにキャリーの処遇を父と母に頭をさげ決めさせてもらった。
母はまだ俺を完全には許していないので、離宮にキャリーをいさせる事で俺に罰を与えたかったようだが、生まれてくる子供の為にキャリーをこの王宮には置いておけないと頼み込んだ。

俺がブチ切れた日から、怯えながらマナーや一般常識、勉学に取り組んだようだ。
余程怖かったのか以前とは違い、ずっと俯きひたすら教師の課題をこなし、おとなしくしていたが、マナー指導は震えが酷くてなかなか合格が貰えなかったようだが、やっと合格点が取れたと最近連絡がきた。
アーリアに対して反省したかは、心からなのかは正直分からないが、あれほど怯えているのだ。逆恨みや復讐もしないだろうと思う。

もうすぐ子供も産まれる。
息子のいるこの城の敷地にあのような者を置いておきたくなかった。
なので、貴族としてはまだまだだが、低位貴族としては問題なくなったのなら、解放しても良いだろうと思い、極秘にキャリーの両親を呼んだ。

キャリーの父親、アギラ男爵と夫人は普通の両親だった。
不貞の末に出来たキャリーを、夫人は夫を許せなくても子供には罪はないと我が子と変わらずきちんと育てていたそうだ。
キャリーの存在が俺とアーリアとの婚約解消の原因と知り、アーリアの家にすぐ向かい、土下座して謝罪したそうだ。
爵位も返還し、慰謝料も払うと言ったそうだが、爵位を返還する必要はないし、慰謝料もいらないと突っぱねられたそうだ。
謝罪も受け取ってもらえず、娘は王宮に連れて行かれ、社交界では爪弾きされ、キャリーの異母兄の縁談も破談になってしまったらしい。
キャリーの事は許せないが、まともな男爵家が俺のせいでもあるこの騒動のせいで、そこまで地に落としてしまった事を悔やんだ。

キャリーを離宮から出すにあたり、男爵に今後のキャリーについてと今回の説明を言える範囲でしようと呼び出した。

俺の前に座る、応接間にいる男爵夫妻、兄はこれから何を言われるのか不安で皆、顔色が悪い。

「今日は態々呼び出して済まなかった。
顔を上げて欲しい。
今まで詳しい事も説明せずにきてしまい、申し訳なかった。
今から言える範囲で説明するので聞いて欲しい。その後、キャリー嬢の処遇を話したいと思う。」

そして俺は今までの事を話した、何故キャリーが離宮に幽閉されていたのか。

「離宮でキャリーは中等部卒業までの知識とマナーは獲得した。
まだ覚える事は多いが、以前に比べれば多少今後次第で変わると思う。
なので高等部の教育は規律の厳しい修道院に入れ、必要な知識を学んだ後は自宅に戻っても構わない。

男爵の大事な娘を傷ものにしてしまい、申し訳なかった。
勘違いさせた私が全て悪いのだ。
ただ横にいるだけと思っていたのは私だけだった。キャリーを含め、皆が俺とキャリーをそういう目で見ているとは、思ってもなかった。
全て私の責任だ。
だが王族を謀ったキャリーには罰を与えねばならない。
これで納得はしてもらえないだろうか。」

俺の話しを黙って聞いていた男爵は、

「娘は・・良く言えば天真爛漫、悪く言えば自己中心的で我儘な娘でした…。
何度叱っても私達では矯正出来ませんでした…。
学園に入って殿下との噂を耳にした時も、何度も諌めました…私も、妻も、息子も…。
息子は学園でトールズ侯爵令嬢の評判も知っておりましたし、殿下が婚約者を大事にしているのも知っておりましたから、妹を叱っておりました。
結局私共の話しなど一つも聞かずに、結果殿下とトールズ侯爵令嬢との婚約も破談にしてしまいました・・・。
謝罪も慰謝料も拒否され、社交界からも拒否されました…。
ですが、娘のした事は決して許される事ではございません。
何とかトールズ侯爵家、王家の皆様にはこれからも誠心誠意努めてまいろうと思っております。」
と言い、三人は俺に頭を下げた。

「男爵家には俺の私財から子息の縁談を破談にしてしまった慰謝料を払いたいと思う。
男爵家への風当たりについては徐々に無くしていきたいと思う。
夜会で会った際はご子息のリアム殿に必ず声をかけるようにしよう。
男爵に話しかければ良からぬ噂がまた流れるやもしれんからな。
リアム殿にも良い縁談が有れば紹介しよう。」

「殿下、発言しても宜しいでしょうか。」
とリアム殿が初めて言葉を発した。
許可を出すと、

「この度は妹が取り返しの付かない大罪を犯してしまい、申し訳ございませんでした。
私の破談は仕方のない事です。
最後まで私に寄り添うと言ってくれた元婚約者が結婚するまでは私の縁談の事は考えて下さらなくても構いません。
せっかくのご厚意を受けられず申し訳ございません。」

俺の浅慮のせいで、ここにも傷付けた者がいた事に、目を閉じ深く息を吐いた。

「そうか…承知した…」

こうして男爵家との会談が終わり、俺は離宮に向かった。

離宮に現れた俺に、皆に緊張が走ったのが分かった。
侍女長が急いで俺を迎えた。
訪の理由を話しキャリーの元へ行くと、キャリーは静かに読書をしていた。

侍女長が俺が来た事を言うと、振り返り俺を見てブルブル震え出したが、きちんとカーテシーをした。

「お前に何かをする事はない。
お前の事は報告で聞いている。きちんと教師の言う事を聞いていた事も知っている。
お前のここでの罰は終わった。俺からお前への罰はもうない。
明日、お前はここを出て修道院に入る。
そこで高等部の勉強をしなさい。
それが終われば罰は終わる。
必死に勉強すればそれだけ修道院を出るのは早いだろう。

キャリー、俺はお前を利用していた。
市井を知る良い機会だとお前を拒絶もしなかった。
お前の気持ちも何も考えなかった。
結果、俺は何よりも大事なもの傷付け、失くした。
そしてお前の事も軽んじていた。
済まなかった。」

と頭を下げた。

「わ、私は…何も、考えていませんでした…。
ただ素敵な殿下の側に拒否される事もなく居られる事が、嬉しくて…何も考えずに…もしかしたら妃になれるのかもと思ってしまいました…。
だからあんな事もしてしまいました…。
殿下があれほどに婚約者様を愛していたのかも知りませんでした…。
そして私の…せいで…婚約者が…死んでしまったと…。
あの時は何も考えられなくて、なんで私がと、そればかり考えていました…。
時間が経ち、勉強をするうちに段々自分がどれだけ愚かで、恐ろしい事をしたのか知りました…。
本当に申し訳ございませんでした。
謝ってもどうにもならないのでしょうが、本当に、本当に、申し訳ございませんでした…。」
とさっきも見た土下座をしたキャリーに、

「アーリアは死んではいない。
ただ、もう表には出て来れない身体になってしまった…俺とお前のせいでな…。

しっかり修道院でも勉強をしなさい。
それがお前の贖罪だ。」


翌日、キャリーは離宮を出て修道院へ行った。


その一週間後、息子が生まれた。
















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