彼女の光と声を奪った俺が出来ること

jun

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特別な毒

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執務室でしばらくボォーとしてからハッとして父上の執務室に駆け込んだ。

「父上、アーリアが毒を、毒を飲んだと聞きました、ア、アーリアは…死んで、しまったのですか・・・」
ブルブル身体が震えはじめた。

「正確には死んではいない。だが貴族令嬢としては死んだ。
アーリアは幽閉され一生その場所から出れる事はない。」

「どう、いう事、ですか…」

「はぁ…お前は忘れたのか?
アーリアは王妃教育まで進んでしまった。
その知識を外に出す事は出来ない。
もし王族との婚約又は婚姻が破綻した場合、特別な“毒”を飲んで幽閉される、アーリアと婚約した時、アーリアが契約書にサインしたのをお前も覚えているだろう?
お前は早くアーリアと婚約したいと騒いでいたが、その契約を知って納得したのではなかったのか!
そんな事なら我慢すれば良かっただろうと思うか?
お前の仕打ちに耐えられず、毒を飲んだ方がマシだと思ったのだ、アーリアは!
お前と妾のせいでな!」

忘れていた・・・そうだった・・だから15歳まで婚約候補だったのだ。
それまでに俺が他を望む事があるかもしれないからと。
なのに婚約してから俺は・・・アーリアと婚約出来たことに安心して、気を緩めてしまった…。

「じゃあ、アーリアは目も見えず、声も出せず…一人で幽閉されるのですか…」

特別な毒。

王家の情報を漏らさぬ為の薬。

「アーリアにつけていた侍女数名が専属になってくれた。
アーリアが可哀想すぎるとな。」

「一度、一度だけでもアーリアには会えませんか…一度だけでいいですから…。
何処にいるのですか!今アーリアは何処にいるのですか!」

「お前に教えるわけがないだろう。どの面下げてアーリアの前に立つのだ。
見えなくても嫌だろう、アーリアは。
唯一残った聴覚なのにお前の声など聞きたくはなかろう。
お前と妾との情事の声を聞いておるのだからな。」

それ以上、何も言えなかった。
最後に父は、
「妾が離宮に入ったぞ。顔でも見に行ったらどうだ。喜んでるそうだぞ、良かったな、アーリアよりも大事な愛妾が側におって。」


父がこうなのだ、母はどれだけ怒っているのか考えなくても分かる。
だが、謝りにいかねばと母に会いに行った。

「あら、来ないと思っていたわ。
陛下に散々言われただろうから、私は何も言わないわ。
貴方の新しい婚約者は私達で決めます。
貴方を愛さなくても、執務と子供を産んでくれる人を探します。
愛妾は薬を飲ませ子供が孕まぬ身体にしますから、どうぞご自由に。
その子の予算は出しません。
貴方の私財から出しなさい。
ここまでは王妃としての言葉よ。

ここからは母として話すわ。

私は、結婚までは自由だと婚約者を蔑ろにする男が死ぬほど嫌いなの。貴方の父親がそうだったから。
だからアーリアの気持ちがよく分かる。
あの子の辛さは私が味わった辛さと同じ、それでも貴方の父親と結婚したのは、あの人が私にバレないように浮気相手を抱いていたから。
私は二人の情事を目にした訳ではないから。
もしアーリアのようにドアの向こうでしている事が分かる距離で知ったなら、アーリアと同じ薬を飲んだわね。
まさか息子も同じ事を…父親よりも酷い事をするとは思わなかった…。
無事貴方が国王になれたら、私はアーリアの所に行くわ。
それくらいしか私には出来ないもの…」

「申し・・訳…ありま、せん、でした・・・」
泣きそうで、それしか答えられなかった。

その後、どうやって自室に戻ったのかも覚えていない。
執務をしないとと思っても身体が動かない。

従者が食事をと持ってきてくれるが、食欲もない。
ただソファに座り、俯いていた。

トントンとノックされたが、返事はしなかった。
何回かノックした後、
「兄上、リーツです」と名乗ってから部屋に入ってきた。

「兄上…何か食べないと倒れるよ。ま、仕方ないけど。」

「用がないなら出てけ。」

「用はないよ、兄上を心配して顔を見にきただけ。
俺は王位なんていらないけど、万が一兄上が王位継承権剥奪されたら俺も覚悟決めなきゃだから、どんな感じかなと思っただけ。
俺は結構怒ってるよ。
だってリア姉が好きだから。
あ、兄上と同じ好きではないよ、家族としてね。
俺も今年入学して驚いたんだよ、リア姉が学園で言われてる事を聞いて。
何回も言ったよね、リア姉が泣いてたよって。皆んなに酷い事言われてるよって。
なんでリア姉じゃなくてあの女を三年間も側に置いたの?
やらせてくれるから?リア姉を蔑ろにしてまでその女とやりたかったの?
卒業したら結婚式だったんだよ!
せめて…リア姉の誕生日くらい一緒にいてあげれば良かったのに! 

もし兄上が継承権捨てるなら俺が王太子になるから。俺はアーヤ以外の女を視界に入れる気はないんで。」

そう言って弟は出て行った。
俺は一度も顔を上げなかった。
弟が正しい。
婚約者だけを見ていれば良かったのだ。
今更遅いが。

弟は俺達四人の後をちょこちょこ付いてきていた。
アーリアは弟の面倒をよくみていた。
リア姉と呼ぶくらいだ、本当の姉のように思っていた。
リア姉の赤ちゃんの名前今から考えているとよく言っていた。
でもここしばらく、そんな事も言ってこなくなっていたな…。
ギルバートもラインハルトも俺をジェラルドと呼ぶようになったのは…そうだ、キャリーがルドと呼ぶようになってからだ…。
アーリアもそうだ…ルドと呼ばなくなってジェラルド様か殿下としか呼ばなくなった。
そんな事も気にならなかったほど一緒にいなかったのか・・・。

“ルド”

もうアーリアが俺を呼んでくれることはない。
声を・・・聞くことも、出来なくなった…。

俺は・・・どうすれば良い…リア…。
















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