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毒を飲んだ婚約者
しおりを挟む「ジェラルド様・・・ずっとお慕いしておりました・・・」
その日、未来の王妃と期待されていた侯爵家の令嬢が毒を飲んだ。
18歳だった。
「は?よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ。」
「ですから、アーリア様は毒を・・・飲まれたそうです・・。」
そう言って唇を噛んでいるのは、私の側近のラインハルトだ。
「毒…?アーリアが自害をしたと⁉︎何故⁉︎」
アーリアは王妃教育も優秀な成績で修了したし、数ヶ月後には結婚式も控えていた。
自害する理由が分からない。
「ジェラルドには…分からないだろう…お前はアーリア嬢を見ていなかったからな。
少しでも彼女に目を向けていたら気付いただろうが、お前の横にはあの阿婆擦れが張り付いてたからな!
それにお前は忘れている。
王太子妃教育が終わった者が婚約解消になどになれば最後どうなるのか!」
普段はいくら幼馴染みでもこんな口の利き方はしないラインハルトが私を睨みつけながら、俺の目の前に封書をバンと叩き込むように置いた。
「今日今をもって貴方の側近を辞めさせて頂きます。今までありがとうございました。」
自分の机を整理し、荷物をまとめて出て行った。
もう一人の側近のギルバートが、
「まあ、ジェラルドが悪いよな。本当は俺も辞めたいとこだが、一度に二人も抜けたら執務が滞る。だからハルの後釜が来たら、俺も今後の事を真剣に考える。
お前は頭は良いが馬鹿って事だな。
今のお前について行きたいとは思わない。
学園に入る前のお前に戻ったら側近のままでいてやる。
後、お前はアーリア嬢のとこには絶対行くなよ!」
ギルバートも執務室を出て行った。
そういえばいつからだろう、俺をルドと呼ばなくなったのは…。
ラインハルトもギルバートも幼い頃からの付き合いで、婚約者のアーリアと4人でずっと勉強も遊びも一緒だった。
俺をルド、ラインハルトはハル、ギルバートはギル、アーリアをリアと呼び合いほぼ毎日会っていた。
俺はアーリアが好きだったし、結婚もアーリアだけと結婚したいと思っていた。
側妃なんてもっての外だ。
ただ学園に通い出してキャリーといる時間が増えただけだ。
婚約者の義務は果たしていたし、誕生日の贈り物も送っていた。
夜会のパートナーもアーリア以外の女性に頼んだ事もない。
ただ卒業するまでは少しだけ自由でいたいと思っただけだ。
それは自由恋愛をしたいのではなく、自由に街を見て歩きたかっただけだ。
アーリアを連れて行けば護衛が増える。
そうなれば俺が誰かが街の者にばれてしまうから連れて行かなかっただけの事・・・それがいけなかったのか…?
キャリーは元平民の為か街に詳しく、どの店が美味しくて、どの店が人気なのか、どの店が安くて質が良いのか、社会勉強にもなるし、たまの息抜きにキャリーを連れて街に出掛けてはいた。
ただ俺との距離が近かった、というだけだ。
キャリーが抱きついてきても、市井では友人は皆すると言われたので放っていただけだ。
あれが欲しい、これを買ってくれと言われても嫌だと言って飴の一つも買っていない。
何度かアーリアにキャリーとの距離は友人の距離ではないと言われたが、市井ではこうらしいというと、アーリアは、
「そう…ですか…殿下が納得されていらっしゃるなら私には何も言う事はありません…」と言って、それきり何も言ってこなかった。
アーリアがキャリーの事で注意してきたのはそれだけだ。
なのにキャリーは、
「アーリア様に怒られた!」
「アーリア様が態と足をかけてきた。」
「アーリア様が~」
「アーリア様が~」
キャリーは俺に毎日アーリアの事を話すが、ずっと俺の横にいるのに、いつアーリアにそんな事が出来るというのか、頭が悪過ぎる。
キャリーは男爵家、アーリアは侯爵家、王太子妃になれるのはアーリアしかいない事が分からないのだろう、キャリーは。
キャリーがアーリアを貶めて、代わりに自分がと思っている事は分かっていたが、あまりにも分かりきった事も分からないキャリーに呆れていた。
キャリーが、
「私、卒業したら年上の人の後妻になるんだって。初めては学園に入る前にあげちゃったけど、思い出にルドに抱いてもらいたい…」
と言うので、処女ではないのならアーリアとの時の練習だと思い、キャリーを抱いた。
処女だと言ったのに、血が出たので問い詰めると、
「だってルドの事、好きだから初めてをもらって欲しかったんだもの…」
そんな事を言われても妾にはなれても正妃にも側妃にもなれない。
だが、さすがに貴族の令嬢を騙されたとはいえ傷物にしてしまったのは確かだ。
「ハア~お前は妾くらいにしか出来ないぞ「それでも良い!ルドの側にずっといたい!」
そんな話しをした後だった。
「ジェラルド…お前、アーリア嬢と約束してたの忘れてただろ?お前らのヤッてる声、廊下まで聞こえてたよ、ドアを開ける前にアーリア嬢は泣きながら走って行ってしまった…。
学園でヤルのはどうだろうな~ハルはアーリア嬢を追って行ったよ。
結婚する前から妾を作るって・・最低だな…未来の国王は。」
ギルバートがそう言って執務室を出て行った。
執務室の仮眠室にはキャリーが寝ている。
さすがにやばいと思い、キャリーをそのままにしてすぐに帰り、父と母に報告した。
男爵令嬢の乙女を奪ってしまったと。
そしてアーリアにその事を知られてしまった事を報告した。
「さっきアーリアが来た。お前との婚約を解消して欲しいとな。
そういう事か…お前は勉学だけは優秀だが、人の機微に疎過ぎて話にならんな…。
お前、今アーリアがどんな状況にいるのかも知らんのだろう?
社交界中に噂になっているぞ、お前とその妾の邪魔をする“悪女アーリア”とな。
ありとあらゆる嫌がらせをその妾にやってるんだそうだ。
日がな一日お前の横にいるのに、いつアーリアが嫌がらせしてるんだか教えてほしいものだ、なあジェラルド。
もう手をつけてしまったのならその妾は仕方ない。
離宮に閉じ込め、これ以上あの女に好き勝手しないようこちらで監視する。
お前は新しい婚約者を早急に決める。
以上だ。
後、お前はアーリアの10年以上の献身を無駄にした。今後アーリアに会う事を禁止する。
侯爵家に勝手に行く事も駄目だ。
おそらくアーリアは・・・、もうお前に話す事はない。」
「ジェラルド…貴方は大丈夫だと思っていたのに、やはりお前も陛下と同じだった…残念だわ。
アーリアはあんなに良い子なのに…何が気に入らなかったの?
あの子をこんな形で傷付けるほど嫌なら言ってくれれば良かったのよ…。
あの子は王太子妃教育が終わって王妃教育に入っていたのに…。
もうあの子は・・・」
さっきから何なんだ、父上も母上もアーリアが何だというんだ!
「私はアーリアを好いております。婚約を破棄する気はありません。
決してあの娘を好いて抱いたわけではありません!」
「入学してから約三年、お前の横にいたのはあの妾だ。
この三年間アーリアと共にいたのはほんの数回であろう?
どの口が好いているなどと言える!
私も王妃も何度も注意したな?
それを聞かずに側に侍らせたのはお前だ。
反論は許さない。」
その後何を言っても、聞いても答えてはくれなかった。
そして翌日アーリアが毒を飲んだと知らされた。
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