私は貴方から逃げたかっただけ

jun

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優しい先生と怯える雅彦

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あれから父と陸、雅彦は次の日に帰り、母はその後数日いてから大阪に帰った。

次の週末に雅彦がまた高知に来て、土曜日に二人で検診に行く予定だ。

なんだか勢いで結局雅彦とこんな感じになっているが、このままで良いのか迷ってしまう。
雅彦の両親は土下座までして私に謝罪してくれた。
なのにどんな顔で両親に会ったらいいのか分からない。

雅彦とは子供の事もあるし、まだ愛情もあるけど、有耶無耶なままになっているあの人の事が片付くまでは気持ちが定まらないのかもしれない。

そんな気持ちのまま、検診の日になった。
先生との“交換日記”はまだ続いている。

ざっと私の事を説明したら、物凄く驚いていた。そして無事だった事を喜んでくれた。
検診で雅彦に会えるのが楽しみだと言ってくれたので、良かった。


金曜の夜にこっちに来ていた雅彦と病院に行った。

「ここに麻美は入院してたんだね…」

「うん。あの時入院したから元気になれた。先生も優しかったしね。」

「グッ・・イケメン先生め…。」

「そんなライバル視しないでよ!先生はみんなに優しいんだから!」

「あんな優しいメッセージ遅れる男は、みんな敵だから。麻美を狙う輩と同じだから!」

「はいはい、気をつけます。でも、ちゃんと挨拶してよ!」

「第一印象が大事だから!」

先生に対抗意識を燃やしてる雅彦と診察室に入る。

「谷川さん、お久しぶりです。顔色も良いですし、体調良さそうですね。」
といつもの優しい笑顔で話す先生が雅彦の事を見た。

「谷川さん、こちらは、ひょっとして…」

「はい、こちらは「弟さん?」」

「「え?⁉︎」ち、違います、あの…婚約者です…」

「ふふ、分かってますよ、冗談です。失礼致しました。」

「あ、あ、あの、いつも麻美がお世話になっております!私は佐々木雅彦です。」

「ご丁寧ありがとうございます、私は谷川さんを担当しています、名取です。
では、診察しますね。ご主人もいらっしゃいますし、赤ちゃん診ましょうか。」

私はベッドに横になり、看護士さんが先生が見やすいようにお腹を出し、毛布をかけてくれた。

「では、少し冷たいです、すみません。失礼します。」
と言って毛布を捲り、ローションを塗ってお腹の赤ちゃんのエコー画像を見せてくれた。

先生は色々赤ちゃんの大きさを測り、私と雅彦に説明してくれた。
雅彦は前のめりで画像を見ていて、先生はそんな雅彦の様子を嬉しそうに見た。

「ご主人さんが、とっても赤ちゃんを大事にしてくれているのが、良く分かりますね。
ご主人、ここにいる赤ちゃんがお二人の赤ちゃんです。心臓も元気に動いていますよ。音、聞こえますか?」

「え、もう聞こえるんですか?」と雅彦は驚いている。

「聞こえますよ、ドクドクドクドクって音、分かりますか?」

「あ、なってる!聞こえます!うわあ…すごい…」

「これからどんどん大きくなって、性別も分かってきますからね。楽しみですね。」

「はい!俺、こんな小さな、それも俺と麻美の赤ちゃんで…本当に嬉しい、です…」

「やだ、雅彦、泣いてる?」

「だって…俺…この子、会えなくなるとこだったから…」

「まあ…ね。」

「ふふ、お父さんとお母さんが仲良しで良かったです。それが赤ちゃんには幸せですからね。特にお母さんが幸せな気持ちになれて、担当医として、とても嬉しいです。」

「先生には本当にお世話になりました。」

「いえいえ、お腹が冷えてしまいますから、エコーは終わりますね。お支度終わったら、こちらに座ってくださいね。」と言ってカーテンを閉めてくれた。

小さめの声で、
「麻美、凄く先生優しいんだけど!俺、怒られると思ってた…」

「怒るわけないでしょ!雅彦の事なんて話した事なかったもの。少し説明はしたけど…。」

「あんなに優しくて、イケメン…」

とブツブツ言っている。

カーテンを開け、椅子に座ると、

「私は怒りませんよ、佐々木さん、いえ、ご主人。」

「あ、すみません…聞こえますよね、こんなに近ければ…ほんと、すみません!」

二人で恥ずかしくて俯く。

「今日は他の検査も終わっていますし、もう終わりになります。こちらは今日のエコー写真になります。お渡ししますね。
次なんですけど、谷川さんは大阪に帰られますか?」

「はい、そろそろ帰ろうと思っています。」

「大阪はもう病院を決めていますか?もし宜しければ紹介状をお書きしますが?」

「名取先生が紹介して下さる病院に通いたいです!」

「分かりました。今日は少し時間がかかりますけど、次にしますか?」

「はい!来週また俺が来ますから。」

「ふふ、じゃあ来週また来てもらえますか。用意してきますから。」

「すみません、よろしくお願いします。」

と雅彦と先生で予定を組まれてしまった。


二人で挨拶し、診察室を出た。

会計を待つ間、
「麻美・・・危なかったよ俺…後少し遅かったらあの先生に麻美を奪われていたかもしれない…」

「はあ⁉︎そんな事あるわけないでしょ!」

「分かる、俺には分かる!後少しで麻美と先生は繋がってしまう所だった!」

「何言ってんの?何が繋がるの?」

「“運命の糸”だ!」

「ハァ…じゃあ雅彦とは別れないとね。」

「なんで⁉︎」

「だって私と先生は運命の糸が繋がりそうなほど相性がいいんでしょ?」

「俺と繋がってんの!でも、切れそうだったから別ルートに行きそうだったんだ!」

「もう漫画と小説の影響受け過ぎ!なんなんそれ!どっかから転生してきたの?雅彦と先生は攻略対象者なの?どんだけ自分が男前だと思ってんだか!私は主人公のヒロインか!」

「いや、ホントなんだって!でも、俺が勝った・・・はず。」

「分かった分かった、さあ会計して帰ろう!」

全く何言ってんだか…。

でも、たまに雅彦はこういう事を言う。
すっきやなぁと思って気にしてはいないけど。


本人一人でドキドキしたり、怒ったりしてるが、なんだか楽しそうで見ていて飽きない。

なんだかんだで私は雅彦の事が大好きだ。














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