私は貴方から逃げたかっただけ

jun

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狂気

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一瞬、窓から見えたその人は、女の人だった。

まさか。
そんなわけない。
私の実家を知ってるわけない。
え?雅彦が教えたの?
でも、たまたまいた人かもしれない。
ハッキリ見たわけじゃないもの。

そっとカーテンの隙間から見てみた。

家の前というより、私の部屋の前の道路にこの部屋を見上げていたのは菜緒さんだった。

こちらを見上げて笑っている。

笑ってる?

頭が混乱しているのか、思考を停止させているのか、あの人がここにいる理由を考えるよりも、ただ怖いしか考えられなかった。

何が目的でここにいるのか分からない。
いつまでいるのだろう。

あ!お母さんの様子がおかしかったのはあの人がここに来たのでは?
家に訪ねて来たから、お母さんは外に出てほしくなかったんだ。
ああ、そうか、だから玄関に出て私を待ってたんだ、心配で。

あの人が立っている場所は、私がバスを降りて歩いてきた方向の逆側だ。

だから私は気付かなかったんだ。

吐き気もあったが、部屋から出る事が怖かった。

あの人は私を追い詰めようとここにいるんだろう。
明確に私に対して悪意を持っている。
その悪意が私だけならいい。
もし、家族にいってしまったら…

そんなのダメだ。

だったら、やっぱり私がここを出て行くしかない。

正直怖い。怖くてたまらない。

でも、お父さん、お母さん、陸に危害を加えられる方が怖い。


なら実行しよう。

先ず、警察に来てもらおう。

写真を撮って証拠を残そう。

手が震えてスマホが持てない。


「お母さん、お母さん!」

お母さんは下から階段を駆け上がってきた。

「麻美!」

廊下にいた私に駆け寄った。

「お母さん、迷惑かけてごめん。私、気付かなかった…。あの人が来たのね、家に。
お母さん一人の時に…怖い思いさせて、ごめん…。
警察呼ぶから、その前に、私の部屋から見つからないように、あの人の写真撮ってほしいの…。
私…手が震えて…写真が撮れないの…。
ごめんね、お母さん…」

「麻美…あんたが謝る事なんてないよ。
お母さんは大丈夫。ただ麻美が心配なだけ。お母さん、写真撮るからね。その後電話するから。大丈夫だからね。」

お母さんは、スマホを持ち、窓に近付いた。

カーテンを少しだけ開け確認した。

「もういないみたい。でも、麻美は外に出てはダメ!お父さんと陸が帰って来るまでお母さんも外に出ないから。
麻美と一緒にいるから。」

「お母さん、ありがとう…」

「玄関には鍵もかかってる。家中の鍵も確認した。陸のバットもある。麻美にはお父さんのゴルフクラブを貸してあげる。
だから、下でお茶でも飲もう、ね?」

「うん」

二人で一階に降りて、お母さんがカフェインが入ってない麦茶を出してくれた。

「お母さん…あの人は何しにここに来たの?」

「最初、麻美の東京の友達って来たの。
急に連絡が取れなくなって、心配で来たって行ってた。
でも、なんか嫌だったのよ、その人の事。
目がね、心配してる目じゃなくて、笑ってる感じ。
なんていうの、感じ悪いママ友?って感じ?だから、家には入れなかったの。
麻美は帰ってませんって。
だって、あの時麻美はホントに帰って来てなかったしね。
そしたらね、顔を見るまで安心出来ないからここで待っても良いかって聞くのよ。
だから、麻美と本当に友達なのかって聞いてやったのよ、そしたら、あの人、
“私は麻美ちゃんの彼氏の雅彦くんとも仲が良いんです。よく二人でウチの店にも来るんですよ。”ってゆうたから、お母さん、ピーンときたわ!
“あ~あなたが~”ってゆうたった!
そしたら、あの女、
“あ、お母さん、聞いてるんですね、私と雅彦くんの事。”ってほざくから、

“ええ、ええ、よーーーく聞いてます、他の女の男に手ェ出して、誇らしげに自慢してくるクズな女の事。”ってゆうたった!
そしたら、あの女一瞬、ウッって顔になったから、その隙に、
“それでは失礼致しますぅ~”って言ってドア閉めて、中から、
“これ以上ウチの敷地におったら警察呼びますから!”って言ったらようやく行ったわ!
でも、麻美がまだ帰って来てなかったから心配で玄関に仁王立ちしてた…。
何にもされなくて良かった…」

「お母さん、危ないからすぐ警察呼んで!一人だったのに、何かあったら…私・・・」

「ごめんね、お母さん、あまりにも失礼なあの人に警察より腹が立って腹が立って、我慢できなかったの…」

「お母さんが何もされなくて良かった…。
お父さんには言った?」

「帰って来てからにしようかと。麻美、怖がらせるかなって思ってね。」

「あのね、お母さん、お父さんか陸が帰ってきたら、コンビニに荷物出してきて欲しいの。陸に頼んでいいかな?私は怖いから外に出られないし…。」

「陸に頼もう。荷物って何?」

「瑞希に渡す物があって、すぐ送りたかったんだ」

「陸に行っとく。もうおらんかな?」

「どやろ…」

二人で、リビングの窓から外を見てみた。

レースのカーテン越しに、さっきいた場所を見たが、いなかった。

お母さんが、バタバタと走って、隣りの和室に行ってそぉーっと外を伺うと、

「やっぱり…」

と言った。


和室の障子の隙間から見えたのは、あの人だった。













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