私のような彼と彼のような私

卒業試験 ミゲル視点

職員室で担任に卒業試験を受けさせて欲しいと話している時、

「お、フェニール侯爵令嬢も来たんだな…」
と担任が言った。

「彼女が何か？」

「彼女もな、君と同じで相手の不貞で婚約破棄したんだよ。しばらく休んでたが、登校したんだな。
でも顔色が悪いから休学か留学かするのかもな…」

「俺と同じ・・・」

「彼女も成績は優秀だから頑張れば卒業試験受ければ良いのかもな。」

「フェニール侯爵令嬢・・・」

「気になるか？気になるなら卒業試験の事でも教えてあげたらいいんじゃないかな、先輩として教えられる事もあるだろうし。」

こんなに他所の家の事をペラペラ話す担任はどうなんだろうかと思うが、気にはなる。
彼女を見ていると、こちらを見た。
軽く会釈したフェニール侯爵令嬢は、凛とした美しい令嬢だった。
あんなに美人なのに相手は不貞などしたのか⁉︎
勿体無い！
二年生なのか…あんなに綺麗な子が一つ下にいたのかと驚いた。

とりあえず卒業試験は受けられる事になったので、日程が決まり次第教えてくれる事になり、それまでは自宅学習で構わないという事になった。

今日の授業を聞いたら明日から登校する必要はない。
午前中の授業が終わり、昼休みとなり食堂へ向かう途中、さっき職員室にいたフェニール侯爵令嬢が一年生の男に連れられ、正門に向かう所が見えた。
職員室でも顔色が悪かったから早退するんだろう。
あの男は身内か？

姿が見えなくなるまでその場で見ていた。
何故だか気になった。

あんなに顔色を悪くなるなんて余程相手の男を愛していたのだろう。
俺だってアナを俺なりに愛していたし、ショックだった。
卒業したら結婚するはずだったんだ。

なのに俺の横には誰もいない。

あまりにも衝撃が強くて今の今まで自分の気持ちに向かい合っていなかった。

傷付いてるだろう彼女を見ていたら、自分もそうだと気がついた。

いかん。泣きそうだ。

なんだか食欲も無くなり、食堂に足は向かなかった。

あの彼女は大丈夫だろうか…
休学するのだろうか…
留学するんだろうか…
俺と卒業試験を受けるだろうか…

俺と一緒には無理だろう。
まだ二年になって半年の彼女では一年半分の勉強を数ヶ月で終わらすのは不可能に近い。

だが俺が教えたら･･･いやいや知り合いでもない男と勉強などしないだろう。

でも力になってあげたいと思ってしまうのは何故だろう。
自分と同じタイミングで相手の不貞行為による婚約破棄になった仲間意識だろうか。
俺ほどの裏切りではないだろう。
妊娠するなど早々ない。
きっとキス辺りを見てしまったのかもしれない。

あんなに綺麗な子だ。相手も手を出せなかったのかもしれないな。
俺なら出せない。
触ったら汚れてしまうと思ってしまう。
だから相手は他で発散していたのかもな…。
綺麗なのも大変だな…。

勝手に想像していたが、実際は知らん。
元々女好きな奴だったのかもしれない。
そういえば、彼女は誰と婚約してたんだろう…

帰ってから調べてみようか。

そんな事を延々考えていたら昼休みが終わっていた。

午後の授業も終わり帰ろうかと思ったが、ふと思いつき、隣りの席の女子にフェニール侯爵令嬢を知っているかと聞いた。

「あ～ミゲル様も聞きましたの？彼女、婚約者が同級生の女の子を妊娠させたらしくて婚約破棄になったんですって…。
とっても仲が良かったんですよ、なのに…。
可哀想にずっとお休みしてるらしいですよ。」

妊娠⁉︎あまりの衝撃に「は⁉︎」と声が出てしまった。

お礼を言い屋敷に帰ったが、ずっと彼女の事を考えていた。

俺と同じではないか･･･。

俺でさえショックだったんだ。
彼女はどれほどショックを受けただろうか…。

今、彼女は泣いているんだろうか･･･。

彼女の事が頭から離れない。
俺と同じ痛みが分かる女の子。


一度話してみたいと思った。