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邪魔者なんていなかった
しおりを挟むあれから大分経った。
あの後、城に戻り陛下と王妃様、私の両親を含めて改めて何があったのかを説明した。
新たに分かった事は、シリルにあった膨大な竜力は、陛下やサーシャ様と変わらない量になっていた事。
シリルにあった逆鱗が無くなった事も話した。
王妃様は全て聞き終わる前に、泣き出してしまい、陛下も目頭を押さえていた。
「良かった…本当に良かった…」と泣いていた。
私の両親も抱き合って泣いていた。
シリルの記憶も戻り、誰も怪我する事なく戻った事を喜んだ。
この事は公式記録として残し、王家が厳重に管理、保存する事に決まった。
そして国中に魔獣が消えた事を発表した。
何故消えたのか詳しい話しはせず、“竜王様のお力添えにより、魔獣の根源を消滅させた”という事にした。
サーシャ様とマリア様の結婚式もあり、国中がお祭り騒ぎになったし、陛下がお祝いとして国中、隅から隅まで祝い酒と祝い菓子を振る舞ったのもあり、1ヶ月ほどの騒ぎだった。
その騒ぎの中、私とシリルは学院の図書館に向かった。
学院も1週間の休みはあったが、1ヶ月も休みにはならない。
なので私達はいつもお世話になってる司書さんに会いに来たわけだ。
今回もシリルはあの司書さんに助けられたらしい。
私もあのお姉さんには助けられてきた。
卒業式に渡したハンカチも大事に使っていてくれたそうだ。
お馴染みの扉を開けると、司書さんは変わらずそこにいた。
「うおッ!なんと今回はお二人という事は、仲直り成功したんですね、殿下、あ!そういえば殿下じゃなくなってたんですよね、すみません、公爵様。」と相変わらず元気そうだ。
「シリルでいい。ああ、仲直り出来た。それもこれも君のお陰だ。なのでお礼を持ってきた!」
「さすがシリル様!お菓子ですか?お菓子ですね!助かりますぅーー」
このお姉さんのテンションに中々ついていけないが、これはこれで懐かしくて笑ってしまう。
「司書さん、私達こんなにお世話になったのに未だにお名前を存じません。
今更でお恥ずかしいですが、お名前をお聞きしても宜しいですか?」
と言うと、明らかに肩を落としたのが分かった。
「それ…ずっと思ってました…いつ聞かれるんだろうって…。
お二人が鈍チンなのは知ってましたが、何年の付き合いだと思ってるんですかーー!
良いですか、ようやく名前を言う時がきましたよ、私の名前はフリージア・イリスです!よくある名前でお恥ずかしいですが…」
とモジモジしている司書さんを無視し、私とシリルは驚いて顔を見合わせた。
こんな偶然あるんだぁ…。
“フリージア”と“イリス”。
イリス男爵家の令嬢だったのか…。
「あれ?どうしました、お二人とも。」
「フリージア様は男爵家のご令嬢だったのですね、気付きませんでした…てっきり平民の方だと…。」
「いえいえ、元平民ですよ。旦那さんがイリス男爵家の人なので。
ウチは貧乏なので私も働いてるんです。
お菓子は子供達が喜ぶんです!旦那様のシリウス様も甘い物は大好きなので!」
なんと⁉︎王子までいたとは⁉︎
イリス男爵家が本当は魂を継ぎしものなのではないのかと思うほどだ。
こんな明るくて優しい奥様を持ったイリス男爵は幸せだろう。
聞けば男爵は、趣味で物語を書いているのだとか。
子供達に絵本は買ってあげられないが、自分で書いたお話しを読んで聞かせている優しいご主人なのだそうだ。
これも何かの縁なのかと思い、私達はざっとあの3人の話を書いて、物語を書いて欲しいと依頼すると、悲し過ぎず、残酷過ぎない、だが切ない物語をイリス男爵は書き上げた。
それを読んだ王太子妃のマリア様は号泣したのだとか。
相変わらずフリージアさんは図書館で働いているが、休みが欲しいと騒ぎはしても楽しく学生を見守っているらしい。
私の親友エリザはなんとロジェと結婚した。
いつの間に⁉︎と思ったが、考えてみれば何度も遊びに来るのだ、仲良くもなろうものだ。
カーラは・・・幸せになって欲しいと祈っている。
ケネスは楽しく独身生活を送っているらしい。
長くシリルのお相手として有名過ぎて、誰も寄ってこないのだとか。
それが理由ではないんだろうけど、楽しくやってるのであれば良いと思う。
そして私はというと、
「ウッ・・・ウェ…吐きそう…」
悪阻に悩まされていた。
シリルは私を心配するあまり、熱を出した。
なんで?
「ハア~本当に旦那様は情けない!
心配過ぎて熱出すって…子供じゃあるまいし!そして自分の部屋に戻りもしないで簡易ベッドまで持ち込んで奥様から離れないなんて…掃除するにも邪魔なんですよ!」
とカーラがプリプリ怒っている。
「ハアハア、リジー・・手、握って・・・頭撫でて・・」高熱でもないのに今にも死にそうな声でそう嘯くシリル。
「もう!しんどいならそっちのベッドで寝なさい!」
「ヤダ!絶対イヤ!」
「私、吐きそうなの…シリル汗臭いから…」
ハッとした顔で私のベッドから出ると、浴室に駆け込んだ。
「やっといなくなりましたよ、奥様…。
出産となった時、倒れてしまうのではないですか、あの調子では…。
ケネス様に来て頂かないとダメですね!」
2人でクスクス笑っていると、どんだけ猛スピードで洗ったのか、ガウンは着ているがビシャビシャのシリルがバーンと浴室のドアを開けて仁王立ちしていた。
「リジー、お待たせ!」
「いやいや待っておりませんよ、旦那様…。
そんな濡れた犬みたいな姿で来ないで下さいよ、奥様が濡れてしまいます!
ちゃんと拭いてから来て下さい!」
と言われてまた浴室に戻った。
「全く・・・あの方は本当に王子様なのでしょうか?品がないというか、雑というか、まあ、それが良いところでもあるんでしょうが、こうも落ち着きがないのはどうなんでしょうか、奥様。カーラは心配ですよ…」
と嘆いている。
もう直ぐ私は20歳になる。
16歳からこの4年間、色々あった。
悲しくて、苦しくて、辛かった時もあったけど、今は幸せだ。
邪魔なのは私だと思っていた。
けど邪魔な人なんて誰1人いなかった。
「旦那様!邪魔です!退いて下さい!」
《完》
****************************
これにて完結です。
たくさんの方に読んで頂き、感謝感謝でございます。
体調を崩し、連載中のモノも多々ある中、新作を読んで下さった方々、目にとめて読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
この作品の番外編はシリルの浮気疑惑の話しを書こうと思っております。
まあ、先の読めそうな話しですが、宜しければお読み下さい。
ありがとうございました!
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