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波乱の卒業式
しおりを挟むあれから結婚式に向けて目が回るほど忙しくなった。
ドレス選び、招待客の選定、新居の準備、領地への視察、領地経営の勉強、などなど覚える事もやらなきゃいけない事もあり過ぎて、あっという間に時間は過ぎていった。
シリルが討伐に行く事も当然あった。
でも変わった事が一つある。
熱を散らす相手がケネスではなくなった事。
専属の娼婦の方が相手をしていると噂で聞いた。噂が流れてすぐシリルは説明してくれた。抱いているのではなくて、治療行為の一環で決して同じ相手ではない事、制御も出来てきているので、前ほど熱を溜めなくなった事、長期の時だけはどうしようもない事を話してくれた。
ケネスの時は私もまだ子供だったからショックだったが事情を聞けば納得出来た。
今ではケネスも大変だと思えるようになった。
ケネスだから安心していた。
なのに今は別の女性が相手なのが、やっぱり嫌だった…例え治療だとしても。
シリルは王族だ。臣下せず王子として城に残っていたら側室を持っても文句は言われない立場の人間だ。
そう教育もされた。だから頭では分かっている。でもやっぱりモヤモヤする。
そんな態度が出ているのだろう、討伐後、シリルは私の前に顔を出さない。
それが余計私をモヤモヤさせる。
仕方ない事なのだけど。
なので比較的早く領地経営の勉強が進み、後は実際やりながらの方が分かりやすいし、分かるだろうと勉強の方は一応終了した。
その時間を利用して、魔獣の事を調べた。
魔獣がどうして、現れるのか。
魔獣の出現の理由が分かれば魔獣を殲滅出来るのではないか。そう考えた。
王立図書館で調べても私が知ってる以上の事は分からなかった。
なので、城の図書室にある持ち出し禁止の蔵書の閲覧許可を申請した。
すぐ許可が取れたので、立ち入り禁止区域に案内された。
魔獣関係の本を探し、どれが良いかと見ていると、他にも比べると薄い絵本のような本があった。
古い本らしく丁寧に扱わないと崩れてしまいそうだ。
なので本台に置いて表紙をめくった。
本のタイトルは、『魔女になった姫』。
『竜を崇めている国の王子様と隣国のお姫様はとても仲が良く、周りも結婚を待ち望んでいた。
ある日遠い国から来たお姫様が国にやって来ました。
王子様はそのお姫様を見ると“私の番”だと言いました。
それからは、あんなに仲が良かった隣国のお姫様とは会わないようになりました。
お姫様は毎日泣いて、悲しんでいました。
そしてとうとう王子様と遠い国のお姫様は結婚しました。
悲しんだ隣国のお姫様は森の中の湖に身を投げて死んでしまいました。
それからは、湖から魔物が生まれるようになりました。
王子様は魔物たくさん殺しましたが、ある日魔物に殺されてしまいました。
すると魔物はピタッと出なくなりました。
湖で死んだお姫様が王子様を連れて行ったのだとみんなが言いました。
みんなは湖にお花を捧げました。』
それで終わっていた。
つまりお姫様の想いが魔獣になったの?
お姫様はまだ湖の底で悲しんでるんだろうか…。
お姫様を弔ってあげたら魔獣はでないのだろうか…。
何百年前の話なのかわからないが、水の底にお姫様の死体がありそうだと思った。
図書館の職員が時間だと呼びに来た。
挨拶して家に帰って考えた。
湖…何処の湖だろう。
地図を出して湖を探す。大きな湖は観光地にもなっているし、近くに森もない。
でも昔がどうだったのかは分からない。
いつも討伐はどこでやってるんだろう。
聞いた事もなかったから分からない。
地図を持って行き、父に聞いたら“この辺だ”と教えてもらった。
その森の近くに左程大きくもない湖がある。
「お父様、この湖の事を何か知っていますか?」と聞くと、
「あまり知らないが、何の石碑か分からないものがあるって事くらいかな。
後は余程の強者じゃないと行けないらしい…かな」
と教えてくれた。
そこに間違いないような気がする。
私でも気がつくのにどうして今まで誰もなんとかしようと思わなかったんだろう…。
あ、そうか先祖返りが少ないからか。
滅多に生まれない先祖返りの王子が魔獣を倒してくれるし、死んだら次の先祖返りまでは平和だから魔獣がどうして生まれるのかも深く考えなかったのだろう。
そうか…そういう事なのか…。
「リジーはどうして急にそんな事をきにするのかな?何か引っ掛かるの?」とお父様に聞かれたので、魔獣はどうして生まれるのか、どうやったら魔獣の出現を止められるのかを考えて王立図書館で調べた事を話した。
「なるほど…。意外と正解に近い気がするね…。一度陛下に話してみよう。
もしその通りなら討伐もなくなるし、殿下も落ち着いてリジーが悲しむ事も無くなるしね。」
と言って頭を撫でてくれた。
私に元気がない事を心配していたんだろう。
「ありがとう、お父様。」
お父様はすぐ陛下に報告して、調査する事が決定したそうだ。
だが、調査は魔獣に阻まれ中々進まなかった。
そんな中、いよいよシリルの卒業式が近付き、結婚式も近付いてきた。
卒業パーティーにはシリルの婚約者としてパートナーを務めた。
遠くにケネスの姿も見えた。
騎士科の女性なのか、騎士服の女性が隣りにいる。
あの人がケネスの好きな人なのだろうか。
「リジー、ケネスが気になる?」
「久しぶりに見たからね。隣りにの人がケネスの好きな人?」と聞くと、
「まさか!全然違うよ。あぶれた者通しでパートナーになったらしい。
挨拶する?」
去年の二の舞にはなりたくないので断った。
「ケネスがこっちに来ない以上私からは行かないよ。」
「そっか…」
「でも、おめでとうって伝えて欲しいかな。」
「分かった、伝える。
後は結婚式だな、リジー。」
「そうだね、来月だよ。」
2人で話していたが、シリルは騎士科の友人に挨拶するけど、私は遠慮した。
ケネスもいるだろうから。
1人炭酸水を飲んでいると、
「こんにちは」と誰かが挨拶してきた。
顔を見ると、ケネスのパートナーの女性だった。驚いて挨拶すると、
「初めまして、私はナイル伯爵家長女、キャシーと申します。」
「ブリジット・スケイルです。」
「ブリジット様とお呼びしても宜しいでしょうか?」
急に?と思ったが、もう会う事もないかと思い、了承した。
「私になにか?」と言うと、
「ずっと言いたかったのです。ブリジット様は随分男性を弄ぶ方なのだと。」
「は?言ってる意味が分かりません。」
あーこれはシリルかケネスの事が好きなのだろう…やだなぁ面倒だなぁ…
「ブリ「すみません、やっぱり家名で呼んでください。貴方は私が気に入らないのですよね?そんな方に名前で呼んで欲しくはありません。おそらくシリルかケネスを好きなのでしょうが、私は何ら彼等を弄んではおりません。逆にあの騒ぎを知っていてよく言えますね。私は婚約を白紙にしたかったから飛び級して1日でも早くこの学院から卒業したかったんです。
その後真摯に謝罪してくれたシリルとケネスと和解したんです。
学院にいたのも、2人と接触したのも、恐らく貴方より少ないですよ、私。
それでもシリルは私を選んでくれたし、ケネスとはこの一年全く会っていません。
それのどこを見て弄ぶなどと言うのでしょう?教えて頂けますか?
ケネス、教えてくれますか、私は貴方を弄んでいると思っているの?
シリルもそう思っているの?」」
少しずつザワザワしていたのには気付いてた。
シリルとケネスが心配して近付いて来たのも気づいた。
だから聞こえるように騒いだのだ。
2人が近くにいた事に驚いた彼女は顔色を変えた。
「ブリジット様、お久しぶりです。弄ぶなど誰が言ったのやら。逆に弄ばれたいほどですのに。
それよりも久しぶりにお会い出来たのにこの為体、申し訳ございません。
1日だけと思い、余っていたから選んだパートナーは、命知らずだったようです。
依にもよってブリジット様に喧嘩を売ろうとは。
後ほどこの者は陛下と王妃様に報告した後、処罰を与えたいと思います。
どうか今はお許し下さい。」
と一切笑う事もなく彼女を見つめながら言った。
あれ?私に挨拶してたのに私を見ないの?と思ったが、
「ケネス、良かった、卒業おめでとう。直接言えて良かった。」
と言うと、グッと目を瞑った後私を見て、あの綺麗な笑顔で、
「ありがとうございます、ブリジット様」と言った後、
「これは回収致します。大変申し訳ございませんでした。」と言って彼女を連れて行った。
「リジー、大丈夫だった?あれに何を言われたの?」とシリルが心配気に聞いてきた。
「大丈夫。何だか私は男性を弄ぶ女らしいわよ。」
「俺は弄ばれたいな、リジーになら。」と言って私の額にキスをした。
周りがキャーと黄色い声が聞こえたが、何だか疲れてしまった。
「シリル、私カーラの所に戻るわ。シリルはゆっくりして。
ケネスにごめんねって伝えて。」と言ってカーラの待つ控室に向かうと、見たことの無い令嬢達がいた。
今日は千客万来だ。
無視して通り過ぎようとすると、誰かに足をかけられて転んだ。
「まあ、大丈夫ですの、ブリジット様!何も無いところで転ぶだなんて!」と騒いでいる。
今、彼女達は控室の方に背中を向けている。
私は彼女達の遠くにケネスがいるのに気付いた。あちゃーと思っていると、
「ブリジット様、大丈夫ですか?」と私に手を出した。
あんなに遠くにいたのにいつ来たの?と思うほどあっという間に来た。
「うん、大丈夫。足をかけられて転んでしまったの。」
私はこんな事で彼女達には負けない。
使えるものは何でも使う。
「足をかけられた?」
「誰かは分からなかったけど、多分シリルかケネスのファンよ。今日は貴方達会える最後だから私はとても人気者みたい。
私が来たら獣みたいな目で見てた人達の一部がこの人達。
余程文句があるみたいだから、何の文句があるか聞いてみたいんだけど、良いかな?」
「もちろんです。さあ貴方言いなさい、許可が出ましたよ。」
私達の迫力に圧倒されていたが1人勇者がいた。
「わ、私は貴方の我儘放題、やりたい放題が我慢出来なかったわ!学院にも来ないくせに飛び級なんてズルをして、シリル様とケネス様を侍らして、まるで女王様のような振る舞いに我慢出来なかったのよ!」
「出そうよ、ケネス。私は我儘放題、やりたい放題でズルをして飛び級したんですって。
そして2人を侍らして女王様のように振る舞っていたのかな?」と言うと、
「ブリジット様は2学年飛び級出来るほどの成績でしたし、シリル様にも私にも学院でお会いしたのは3年間でたったの数ヶ月のうちの数回です。
シリル様ですら、私と数回違うだけです。
ブリジット様が体調を崩し、自宅で卒業資格をとりましたが、体調さえ崩しませんでしたら、もう一年早く卒業出来ていました。
侍りたかったのですが、陛下に禁止されていましたので、シリル様も私も近付くことすら出来ませんでした…悲しい思い出です…」
「だそうですけど、いつ私は2人を侍らせていましたか?何処でいつ侍らせてました?
そちらの方教えて下さいませんか?」
と勇者の後ろにいた見覚えのある人聞いた。
おそらく無理矢理連れて来られたのだろう。
同じ学年だった時はよく私を助けてくれていた。
「メアリー様、貴方はいつも私を助けて下さっていました。どうか友人はよくお選び下さいませ。」
と言うと、「ごめんなさい、ブリジット様…お父様に命令されて嫌々こちらの方々に…本当に申し訳ございません…」
それを聞いたケネスは、
「そちらの方はブリジット様のお味方なのですね、分かりました。それでは別室でブリジット様に怪我をさせたとして傷害罪の現行犯のあなた方は警備の者に話しをして下さい。
私は一刻も早くブリジット様の怪我を治療しますから。」
と言い、駆けつけた警備隊に彼女達を引き渡した。
「ありがとう、ケネス。ケネスが見えたから強気でいけたよ。」
と言うと、私を抱っこした。
それもお姫様抱っこというやつだ。
「申し訳ございません、足を怪我さらているので、カーラ様がいる控室までこのまま連れて行きますので。」
そう言うケネスの耳は真っ赤だった。
「フフフ…ケネス、耳が真っ赤よ、大丈夫?」
と言うと、
「ぶ、ブリジット様!そ、そういう事は口にしないものですよ!」と照れていた。
「はーい」と返事はしたがクスクス笑っていた。
控室に行くとカーラが真っ青な顔で寄ってきた。
ケネスが説明すると、
「まあ!なんて事⁉︎ケネス様、降ろして下さい、治療しますからね、膝が、お嬢様の膝が⁉︎」と大騒ぎだ。
ケネスがソファに私を下ろすと、
「ブリジット様、痛くはないですか?後は何もされませんでしたか?」とあちこち確認している。
「フフ、相変わらずケネスは心配性だなぁ、大丈夫、何もされてないよ。
ケネスは元気だった?」
「はい…元気…でした…」
「元気じゃなかったみたいだね…」
「ブリジット様はお変わりございませんか?」
「うーーん、どうだろう…なんていうか…ケネスがシリルの従者だった時の方が安心出来た…かなって感じ?」
それだけで何となく分かったのだろう、ケネスが謝った。
「私が離れたばかりに…申し訳ございません…」
「違うよ、ケネスのせいじゃない!私の器が小さいのかな…仕方ないし…我慢させたらまたあんな事になっちゃうし…しょうがないよ…。でもね、たまに変な手紙は来るよ…私は何度もシリルに指名されるのよ、とかね…あ、シリルには内緒ね。」
「そんな手紙が来ているのですか⁉︎いつですか?何回ですか?いつ頃から来ているのですか!」
ケネスの迫力が凄くて笑ってしまった。
「大丈夫、王妃様とかサーシャ様に告げ口してるから。1人減ったら1人増えるって感じで減りはしないんだけどね~」
と言うと、
「今すぐ私が「ケネス様!いつまで治療させないのですか!退けなさい!」」とカーラに怒られていた。
私の治療が終わると、
「私には何も力がないので何も出来ませんが、ブリジット様が困っている時はいつでもお助けします。だからどうか怪我など致しませんように。」と言って私の手を取ると手の甲に微かに触れるほどのキスをして出て行った。
「ケネス様はなんというか、ブリジット教の信者みたいですよね~お嬢様を崇めてるって感じで、私はケネス様を応援しますね~」
とカーラがよく分からない事を言っていた。
波乱の卒業式はこうして終わった。
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