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卒業と別れ
しおりを挟むシリルとケネスへのトラウマを克服した日の翌日、私と父が陛下に呼ばれていつもの部屋に案内された。
既に陛下と王妃様とシリルがいた。
挨拶を済ませソファに座ると、王妃様が私を抱きしめた。
「ブリジット、元気になって良かった…ちゃんと食事も取れてるようだし、睡眠も取れてるのね、この馬鹿息子のせいで毎回ブリジットばかり辛い思いをさせてごめんなさい…それでもシリルを見捨てないでくれてありがとう…本当にありがとう…」
いつでも王妃様は実の息子のシリルよりも私を優先してくれた。
シリルの優しさは王妃様に似てるのかもしれない。
「ありがとうございます。陛下や王妃様がいつでも私の味方でいてくれたから私はこうしてここにいる事が出来ます。
こちらこそ、ありがとうございます。」
「フフ、ブリジットは可愛いわね、それじゃあこれからの話しをしましょう!」
王妃様のその言葉で今後の事がどんどん決まっていく。
もうすぐ私は学院を卒業するが、卒業した後は、結婚した後にシリルが爵位を賜わり、シュラスト公爵になり、私はシュラスト公爵夫人になる。
した私がすることは、シリルが卒業するまでに結婚式の準備を進め、公爵家の執務を覚える事になる。
領地もあるため、領地経営、領民との交流、領主代理との連携などやる事は山積みだ。
飛び級した事は正解だったような気がする。
シリルは学院に通いながら今までのように勉学、訓練、執務、討伐、領地経営の勉強と今の倍は忙しくなる。
しかし、シリルとケネスは私が療養している間、闇落ちしていた為、学院を休んでいても鬼気迫る勢いで勉強した為、もう少し頑張れば、卒業の単位は取れるのだそうだ。
なので勉強優先で卒業資格を先ずは取る事になった。
既に私は終了しているため、シリルとケネスに勉強を教える役目を賜った。
週に2回、シリルとケネスと共に王宮で勉強をする事になった。
暇な私はシリルとケネスにあげるハンカチにせっせと刺繍していた。
シリルには小さな黒竜の刺繍、ケネスには小さな赤竜の刺繍をした。
刺繍は王子妃教育で嫌ってほど練習した。
だから1日2枚刺繍した。
1週間で1人7枚。
とりあえずこれで良いだろうとラッピングし、勉強の日までに完成させる事が出来た。
王宮のシリルの執務室で3人勉強を始めた。
ほぼシリルもケネスも躓く所はないが、たまに分からない所を私が教えると言う大して私が役立っている感じもない事に申し訳なく思った。
「ごめんね、私あまり役にたってない…」
と言うと、
「「そんなわけない!」じゃないですか!」
2人揃って真剣な顔で言った。
ビックリしてパチパチ瞬きしていると、
「そんな可愛い顔、ケネスに見せないで、鼻血出しちゃうから!」なんて言うから笑ってしまった。
「そうだ、私、2人に渡すものがあるの。今度は危ないものじゃないよ、手作りだから。」
とハンカチを2人に渡した。
2人が包みを開けると、
「うわ…ハンカチ…こんなに刺繍してくれたの?」とシリル。
「私のは赤竜の刺繍が…家はありませんが、家宝にします!」とケネス。
「いやいや、ケネス、使ってくれたら嬉しいよ。7枚あるから替えも充分でしょ?
前にあげるって言ってたのに、遅くなってごめんね」
「ハンカチ…ブリジット様の香水の香りがします…私、ブリジット様の香水の香りが好きなのですが、その香水は何処に売ってるのでしょうか?後学の為に教えて頂けないでしょうか?」
そうだ!確かケネスには好きな子がいたんだった!
「良いよ、「リジー、リジーの香りは俺だけが纏って良いものだよ。」」
シリルのヤキモチなのかケネスに私の香水を持たせたくないようだ。
でも今後女の子の贈り物に香水は定番だ、教えておいて損はない。
「でもねシリル。そこの香水は自分で調香出来てね、女の子に人気の店なの。
ケネスだって贈り物する事もあるでしょ?
だから店だけでも教えてあげてたら今後助かる事もあると思うの。」
「ありがとうございます、ブリジット様。
ブリジット様と同じ香りはシリル様に叱られますので別の香りの物を買いたいと思います。お店を教えて頂けるだけで充分です。」
ケネスがそう言うとシリルは「分かった」と黙った。
「うん、後でお店の名前と住所教えるね。
さあ、お茶でも飲んで休憩しよう。」
2人は何故か蹴り合っていたが、ケネスが私に気付いてお茶を淹れてくれた。
そんな楽しい毎日を過ごしているうちに、私の卒業が間近になった。
そんなある日、シリルが真剣な顔で私に言った。
「リジー、覚えてる?新学期になったら俺はリジー優先になって、ケネスはリジーに会う事がなくなる事。」
そうだ、そうだった。
シリルが3年になったら、私の前からケネスは存在を消す。
実際はシリルの従者として今までのように側にいるんだろうが、私の前に姿を見せる事がなくなる。
あの時は2人を見たくなかったからそれで納得したが、今はケネスがいないのは寂しい。
かと言って、やっぱり討伐の後は気まずい。
それが正解だとは思うが、今になるとどうして良いのか分からない。
あの優しい人はどうなるんだろう…。
「リジー大丈夫?」
「大丈夫。忘れてた事に驚いてた。
あの時は2人を見たくなかったからそれで良かったけど、今はどうして良いのか分からない…」
正直にシリルに伝えた。
「俺はその方が良いと思ってる。リジーは寂しいかもしれないけど、一生会えないわけじゃないと思う。
実際俺の従者なのは変わらないから。
俺達が落ち着いたら、また会えるようになると思う。
先ずは俺もリジーもこれからの1年やる事が山積みだ。
やるべき事を2人でやって行こう。」
シリルが納得しているなら良いが、ケネスはどうなんだろう…。
モヤモヤしたものが胸の奥にある。
そんなモヤモヤを抱えたまま卒業式を迎えた。
卒業式の後の卒業パーティーは私もエリザも出席した。
私はシリルと、エリザも婚約者の方とパーティー参加した。
シリルの側にケネスはいない。
「ねえ、シリル、ケネスは?」と聞くと、
「ケネスは卒業生じゃないから参加出来ないよ。控室で待機しているよ。」
「後で少しケネスに渡したいものがあるんだけど、会っても良いかな。
今日が最後なんでしょ?明日からは会えないんでしょ?
最近はほとんどケネスに会えなかったから、どうしても会いたいの、ダメ?」
「ダメじゃないから帰りに会えば良いよ、いっその事城に泊まれば良いよ、お祝いパーティーをしよう!
侯爵には連絡するよ、カーラも泊まれば良いし!」
急にテンションが上がったシリル。
「そこまではしなくても…でもケネスとゆっくり話せるなら泊まりたい…なあ…なんて。」
そこからのシリルは早かった。
我が家に連絡を入れ、王妃様や陛下が是非卒業のお祝いをしたいから城に泊めても良いだろうか、良いよね的な連絡を王家の印璽が入った封書を王妃様に書いてもらうと、次はカーラに今日はこの後城に泊まるからカーラも泊まれと強制した。
流石に部屋は別々にしたが、朝までお喋りだあーとはしゃいでいた。
もちろんケネスにも伝達済みだ。
卒業パーティーは夕方に終わるので、一旦帰ると言うと、
「何故?」と首を傾げるシリル。
「だって着替えも下着も寝衣もリジーのもカーラのもあるよ。どうして帰るの?帰ったら侯爵、絶対屋敷から出さないよ。」
と言われれば何も言えない。
なので、今は私の泊まる部屋にカーラとぼんやりしている。
「お嬢様…一体何がどうしてこうなったのでしょうか?私には全くわかりません。
突然、シリル様が控室にやってきて、“今日城に泊まる事になったから。カーラも一緒にね。侯爵には連絡したし、母上にも許可取ったよ。今日は夜更かしし放題だよ!”
と言って出て行かれた背中をポカンと見つめた私の気持ちが分かりますか、お嬢様!」
「うん、私もそうだったから分かるよ。
私はケネスとは今日が最後だから渡したい物があるから少し話しをしたいって言っただけなんだよ。
そしたらいつの間にかここにいるの…」
そうなのだ、気付けばここに居た。
エリザにも挨拶出来ずに会場を後にした。
帰ったら手紙を書こう。
「とりあえず着替えてお茶にでもしましょうか。」
カーラはクローゼットを開けて私の着替えを物色すると、
「お嬢様!凄い数のドレスです!それに確認しましたら、下着も寝衣もお嬢様にお似合いの物ばかり。
さあさあ、ドレスは窮屈ですのでワンピースに致しましょう。」と言って私を着替えさせた。
着替えてカーラとお茶を飲んでいると、シリルがケネスを連れてやってきた。
「ケネス!ごめんなさい、急にこんな事になってしまって…。ケネスも忙しいだろうに、本当にごめんなさい。」
と言うと、
「いえ、ブリジット様が私に何か用事があると聞きましたので他の仕事を調整しましたので問題ありませんよ。
それで用事とはなんでしょうか?今じゃない方が良いですか?」
「いやいや今でも良いよ。話す時間もないかと思って、手紙にしたから。待って待ってくるから。」
カーラが手荷物の中からケネスの贈り物を取りに行ってくれ、すぐ戻ってきた。
「この中に手紙も入ってるから読んで。
ちょっと長いけど、ケネスに会えなくなる事忘れてて…もっと前に思い出してたらもっと良い物あげれたんだろうけど…時間がなくて…。
色々あったけど、ケネスはやっぱり優しい友達で、いつでも会えると思ってたから…。
ちゃんと話ししたいのに、うまく言えなくてごめんね。
だから後は手紙読んで。プレゼントも使ってくれたら嬉しい。
ごめんね…私のせいで何かと迷惑かけて。」
とボソボソ言ってケネスに渡した。
「ブリジット様…ありがとうございます…。
お会いする事は出来なくなりますが、いつでも近くでお守り致しております。
私の事など気にせず、これからはシリル様とお幸せになって下さいね。
プレゼントも大事に使わせて頂きます。
手紙も後で読ませていただきますね。」
といつもの優しい笑顔で、そう言ってくれた。
「あーーーっと、ちょっと俺とケネスは用事終わらせて来るからもう少し待ってて。じゃあちょっと行ってくるね!」
と2人はまた居なくなった。
カーラと私は顔を見合わせ、首を傾げると、
「相変わらず忙しない方ですね、シリル様は!」
そんな事を言っていたが、シリルが戻ってきたのは、陛下や王妃様、サーシャ様、マリア様との夕食も終わり、寝支度が終わる頃だった。
“夜更かしし放題”とか騒いでたわりに、何か沈んでいる。
「ケネスが俺の従者を外れた…。まあ、従者を外れたが、学院へは一緒に通うし、討伐も一緒に行くけど…ずっと一緒だったから…なんていうか…落ち着かない…。部屋も移動するらしいし…。」
と言って俯いていた。
「だったら今日はケネスと一緒にいれば良いじゃない。私はもう寝るし、朝には勝手に帰るわ。
早く行ってくれば?」
なんだかモヤモヤしたものが私をイライラさせた。
「リジー?怒ってる?」
「今日はケネスと話したかっただけで、勝手にシリルが私をここに泊まらせたんでしょ!
シリルは戻ってきたけど、ケネスは戻って来なかった。
あの後何が合ったのか知らないけど、ケネスは来ない、シリルは落ち込んでる、私ここにいる意味あるのかしら?
今からでも家に帰るから、今夜はケネスとゆっくりして。」
とイライラしてシリルに当たってしまった。
「それはごめん。でもやっぱり急だったから驚いて…。」とシリル。
こうなってしまっては楽しく夜更かしなど出来ないだろう。
「私は良いからケネスの側にいてあげて。
こんな状態じゃ楽しく会話なんて出来ないもの。私は一旦帰るわ、両親も心配してるし。」
そう言ってカーラに帰り支度を始めた。
「ごめん…ごめんなさいリジー。怒らせるつもりじゃなかったんだ。今日は俺とケネスとリジーでずっと一緒にいられると思ったら嬉しくて、突っ走ってしまった…。」
そうシリルは好きな人に囲まれて長時間一緒にいられる事に喜んだだけだ。
私と居られるからではないのだ。
「てっきりシリルは私が泊まる事に喜んでたのかと思ったら、3人で居られる事に喜んでたのね。ケネスがいないなら、もう私が泊まる理由はないわ。私もケネスに渡せたからもう用はないし。
悪いけど馬車の手配だけしてくれる?」
「待って待って、俺は急な話しにショックだっただけで、リジーが泊まってくれる事が嬉しかったんだよ!ケネスは関係ない。」
しばらくシリルと言い合いしていたが、埒があかないので、とりあえず私は明日の朝帰り、シリルには部屋から出ていってもらい、疲れて早々に寝た。
次の日夜明け前に起きてしまい、体調が悪いから帰ると伝言を頼み、家に帰った。
初めて外泊は気まずいまま終わった。
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