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ご褒美

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シリル視点



リジーへの手紙の内容をどうしようか悩んでいる。
2枚目の手紙も笑って欲しい。
けど笑わせるためだけの手紙は書きたくない。
前の手紙も笑わせようと思って書いた訳じゃない。
だから俺が頑張ってる事を書こうと思った。
前は俺だとバレないようにと普通の白いレターセットにしたが、今度はグリーンのレターセットにした。
リジーの瞳の色だ。
なかなか上手く手紙が書けないので、もう少しいろんな事を克服しようと色々やった。
苦手な近衛団長に頼み込んで1日秘書をやったり、ターニャにマナー指導をしてもらったり、嫌いなピクルスも口に入れて丸呑みしてやった。
そして一番やりたかった事をした。

リジーにクッキーを作ってあげたかった。
あの討伐の時、無事に帰ってきたらクッキーを焼いてくれるとリジーは言っていた。
こんな事になってリジーはクッキーを焼く気持ちの余裕なんかないだろう。
だから俺が焼いてリジーにあげたかった。
料理長に教えてもらいながら作ったら驚くほど綺麗に出来た。
ついでに軽食用にサンドイッチを作ろうとゆで卵を作ったら、白身が消えた。
料理長が剥いた卵は白身があるのに、俺が剥くと白身がない。
何個剥いても黄身しかない。
「シリル様…後は私が。」と料理長に言われてしまい、厨房を出た、クッキーを持って。

自室にクッキーを持って戻るとケネスがいた。
「あれ?そのクッキーどうしたんですか?」
と聞くから俺が焼いたというと、目を見開き驚いていた。
そして、
「ブリジット様のクッキー食べたいなぁ…」とボソッと言うから、
「お前にはやらん!折角分けようと思ったのに。でもリジーに渡すからクッキーをラッピングしてくれ。」
また驚くケネスは、
「え?ブリジット様にあげるの?ちょっと毒味させて!大丈夫なんだろうな!」
と敬語もなくなったケネスは一枚食べると、
「あ、意外と美味い。ナッツが良い!」と言ってラッピングの準備しに出て行った。

その間に手紙を書いた。
ケネスが戻ってきてクッキーをラッピングすると、
「ちょっと手紙読ませてよ、俺も確認したい。」と言い、俺の手紙を読んで笑っていた。
「ブリジット様、また笑ってくれると良いな。」と嬉しそうだった。
俺は便箋に香水を少し付けてから封筒に入れた。
どうせエリザ嬢が読むんだろうから封はしない。

次の日エリザ嬢を呼び出し手紙を渡す。
また爆笑して合格点をもらった。
クッキーも渡して欲しいと言ったらまた爆笑していた。
今から行ってくると走って出て行ったエリザ嬢は楽しそうだ。
良いなぁ、リジーに俺も会いたい…。

そして手紙を渡した翌々日、エリザ嬢がニヤニヤしながら執務室に来た。

「これどうぞ。それでは私はこれで!」と言って出て行こうとするので、慌てて引き留めた。
「待て、報告はないのか?」

「それを見たら分かります。」と言ってニヤニヤしながら帰って行った。

紙袋の中を開けると、手紙が2通とクッキーが2個。
出してみて固まった。
宛名は俺とケネス。クッキーにもカード付きで俺とケネスの名前が書いてある。
カードには“お疲れ様”。

離れているケネスは気付いていない。
「ケネス、手紙が…リジーから手紙が来た…」
驚いたケネスが近寄ってきた。
自分宛ての手紙とクッキーを見た途端、蹲って泣いた。

俺は震える手で手紙を見た。宛名は俺の名前が書いてある。
差出人は“リジー”。

封を開け、便箋を取り出すとリジーの香りがした。泣きそうだ。


『親愛なるシリルへ

手紙とクッキー、ありがとう。
クッキーは美味しかった。ちゃんと味もしたよ。少しずつ味覚も戻ってきたからちゃんと味わって食べました。

1枚目の手紙嬉しかったし、読んでて楽しかった。ありがとう。

2枚目もシリルの姿が想像出来てたくさん笑いました。

私もシリルに会いたい…けど、怖い…。
会えそうな気もするけど、発作が出たらシリルを傷つけそうで怖い。
でも遠くからでも顔が見たいとずっと思っています。
もし、もっと勇気が持てたら連絡します。

身体に気をつけて。無理はしないでね。
大好き、シリル。


リジーより』


気付けば泣いていた俺は手紙を濡らさないように、上着の袖で涙を拭いた。

気付けばケネスは号泣していた。
手紙を胸に抱きしめ、ありがとうございますと何度も呟いている。

大の男2人で号泣している執務室は誰も近寄ってこなかった。
目を真っ赤にし、泣き過ぎて浮腫んだ顔はすれ違う誰もがギョッとしていた。
そんなのも気にならないほど俺達は浮かれていた。

城に戻ると、直ぐに父と母に手紙を見せた。
母も号泣していた。
父は「良かったな」と言って、抱きしめてくれた。
途中参加の兄も、涙を浮かべながら「良かった…本当に良かった…」と言ってくれた。

ケネスはとっくに自分の部屋に戻り、今は何度も手紙を読んでいるんだろう。
後で見せてもらおう、絶対!

和やかな夕食が終わり自室に戻って直ぐケネスがやってきた。

「本当は見せたくはないが、俺も見せるからお前のも見せろ!」と言ってきた。
俺も見せたくはないが、ケネスの手紙を見たいので交換した。


『大好きなケネスへ


先ずは謝らせて下さい。
私のせいで怪我させてごめんなさい。
ケネスは私のせいじゃないって言うと思うけど、一応けじめとしてね。

帰ってきたらクッキー焼いて待ってるって言ったのに遅くなってごめんね。

ケネスは優しいから私の事もシリルの事も心配ばっかりしてると思うけど、私も大分良くなってきてるので安心してね。

次はお守り代わりの何か手作りの物を贈ります。

身体に気をつけて。
早く会えるように頑張ります。


リジーより』


クゥーーーなんだか悔しい。
手作りの物俺も欲しい。

チラッとケネスを見ると俺と同じような顔をしている。
どうやらケネスも悔しいようだ。

「お前、リジーから手作りの物貰えるの、俺も欲しいんだけど!」

「お前馬鹿なの?ブリジット様が俺にだけくれる訳ないだろ!お前にも渡すに決まってんだろうが、ついでに。」

「でも…良かった…良くなってきてるだな、リジー…名前を聞いても怯えてたのに…。
俺に会いたいって…顔を見たいって…俺も会いたい…」

「大丈夫だ、ブリジット様は強いし、負けない。俺達も頑張ろ、いつか必ず会える。
焦らず待とう。」

2人でまた泣いたけど嬉しくて切なくて、でも満足した1日だった。
















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