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長い言い訳をする理由
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*今日は7時に1話、19時に2話投稿しますよ。
********************
私が倒れた日、家族はもうシリルのと婚約は解消でも破棄でもなく白紙にしてもらおうと決めた。
多分シリルはケネスを離さない。
結婚しても討伐の任務がある限り討伐に私を連れて行くことなど出来はしないのだから。
例え連れて行ってと頼んでもシリルは連れて行ってはくれないだろう…だってケネスが一緒に戦ってくれるのだから。
それでもあれだけ何度も私に会わせて欲しい、話しを聞いて欲しいと言うのであれば最後に話しだけでも聞こうということになった。
高位貴族用の応接室での面談にしたのは、応接室の隣りに護衛用の小部屋があり、何かあればすぐ駆けつける事が出来るから。
その小部屋は隠し部屋のような作りで、出入り口は応接室側と隣りの普通の応接室側にもある。
その小部屋には父と兄が待機する予定だが、今ではシリルは我が家の使用人全員に敵認定されたらしく、シリルが来る日は会いたくも見たくもないからと会わないように目立たないように仕事をするとかで、朝食後は物音もしない静けさだった。
父と兄は待機し、母は自室に篭った。
執事のカールがシリルが到着した事を私に伝えた後、すぐシリルを迎えに行った。
そしてシリルは私の向かい側のソファに座り、ケネスとああいった関係になった経緯、シリルが死ぬまで何処からともなく現れる魔獣を倒す限り、私と結婚するまでの間や妊娠出産の期間はやはりケネスを頼るしかない事、私を愛しているから婚約は解消したくない事、絶対私と結婚したい、などを時折涙を浮かべながら何度も何度も言っていた。
私が“婚約継続”と言うまで終わりそうもないので、痺れをきらした父と兄は、朝から夕方まで言い訳を続けるシリルに一言言いたくて応接室に駆け込んできた。
「殿下は娘を愛していると仰いますが、その娘よりも大切になさってるケネス殿と一緒になれば丸く収まるのではないのですか?
朝から晩まで一緒にいて、学院も討伐も一緒にいる事が出来るケネス殿と結婚でも何でもすれば良いではないですか!
昼間から盛りまくった猿が如く腰を振り、それほど寵愛されている方がいる殿下に、優先される事もない娘を差し出さなければならないのですか!
殿下程の方ならば最初から側室でも良いと嫁いで来てくださる令嬢が山程おりましょう。
どうかもう娘を解放してあげて頂きたい…お願いします…」
泣きながら訴える父の姿に駆け寄り抱きついた。
兄も、
「殿下…妹と婚約してまだ半年経っておりません。どうか婚約は白紙にして頂きたい…。
慰謝料や迷惑料など一切何もいりません。
今後殿下の御前に我がスケイル侯爵家は立つことは致しません。
どうか婚約を白紙にして下さいませ…」
と頭を下げてくれた。
シリルは黙ってそんな二人を泣きそうな顔で見ながら、
「もうダメなのだろうか…リジーは俺の事を嫌いなのだろうか…俺は番に愛してはもらえないのだろうか…死ぬまで番を抱く事は出来ないのだろうか…リジーは俺の番なのに…リジー、リジー、リジー、リジー・・・・・」
肩で息をし始め、私の名前を呼び続けるシリルは狂気じみていて父も兄も私もシリルから距離を取った。
ばっと顔を上げハアハアと荒い息を吐く様は野生の獣のようで、私を見つめる瞳は獲物を見つけた瞳だった。
「シ、リル…大丈夫?少し、休憩しましょう…ね?」
あまりの様子に心配になり、声をかけてもハアハアと肩で息をし、
そして「ケネスを呼んで、くれ、急いで、頼む…部屋を、貸して欲しい…」と言って私達から離れて窓辺に寄った。
今シリルに何が起きているのか分かった。
初めて見るシリルのその姿は苦しそうで側に行って支えてあげたいと思ったが、目の前に婚約者の私がいるのにここにはいないケネスを求めるシリルに、私の中の何かが切れた。
「殿下を私の部屋に連れて行って下さい!
私が呼ぶまで誰も私の部屋の周りは人払いを。お父様、医者をいつでも呼べるようにして頂きたいです、私達の初夜は優しいものではなさそうなので!」
父が慌てて、
「リジー!ダメだ!お前が相手をする必要はない!婚約を白紙にするのだろう!」と叫んでいる。
「この屋敷でシリルとケネスが一晩中熱を散らしたら、私は二度とこの家には住みません!ここはスケイル侯爵家です!王宮や学院のサロンではありません!そんな事絶対私は許さない!
シリルは私の番よ!誰にも渡さない!」
初めて大きな声で叫ぶ私にシリルが少し落ち着いたのか、
「ダメだ…リジー…優しくも出来なければ一回で終わるわけでもないんだ…頼む…馬車を出して欲しい…」
弱々しく頼むシリルにさらに私の怒りは膨れた。
「馬鹿にしないで!何処の世界に自分の番を愛人に譲る人がいるのよ!
例え私の方が浮気相手であっても私は貴方の番なの!これ以上私を馬鹿にしないで!」
と泣き叫ぶ私を兄が抱きしめてくれた。
父が「クソ!」と吐き捨てながら応接室を出て行った。
「リジー、支度させるから待っていてくれ…」
と言って兄も応接室を出て行った。
「ダメだ、ダメだリジー、頼む…リジーをこれ以上傷付けたくないんだ…馬車を貸してくれ。」と泣きそうな顔で懇願するシリル。
「それが一番私を傷付ける行為だってまだ分からないの、シリル!
これで婚約破棄も解消も白紙も出来なくなったとしても、私は今のシリルの状態を見てしまった以上、帰すわけには行かないわ。
そして苦しめばいいわ、一番大切な人を裏切って私を抱いてしまったと!
別の人を初めて抱いたと教えてあげればいいわ、貴方の最愛の恋人に!」
泣き叫ぶ私を何の涙なのか知らないが、泣きながら見つめるシリル。
そんな私達は“番”なのに幸せに初夜を迎える事が出来ないなんて誰が思っていただろう。
余程ケネスの方が大事に抱かれただろう。
唇を噛み、必死に号泣しないよう堪えた。
シリルはただ私を見つめていた。
兄とカーラが私達を迎えに来た。
これから悲しい初夜が始まる。
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私が倒れた日、家族はもうシリルのと婚約は解消でも破棄でもなく白紙にしてもらおうと決めた。
多分シリルはケネスを離さない。
結婚しても討伐の任務がある限り討伐に私を連れて行くことなど出来はしないのだから。
例え連れて行ってと頼んでもシリルは連れて行ってはくれないだろう…だってケネスが一緒に戦ってくれるのだから。
それでもあれだけ何度も私に会わせて欲しい、話しを聞いて欲しいと言うのであれば最後に話しだけでも聞こうということになった。
高位貴族用の応接室での面談にしたのは、応接室の隣りに護衛用の小部屋があり、何かあればすぐ駆けつける事が出来るから。
その小部屋は隠し部屋のような作りで、出入り口は応接室側と隣りの普通の応接室側にもある。
その小部屋には父と兄が待機する予定だが、今ではシリルは我が家の使用人全員に敵認定されたらしく、シリルが来る日は会いたくも見たくもないからと会わないように目立たないように仕事をするとかで、朝食後は物音もしない静けさだった。
父と兄は待機し、母は自室に篭った。
執事のカールがシリルが到着した事を私に伝えた後、すぐシリルを迎えに行った。
そしてシリルは私の向かい側のソファに座り、ケネスとああいった関係になった経緯、シリルが死ぬまで何処からともなく現れる魔獣を倒す限り、私と結婚するまでの間や妊娠出産の期間はやはりケネスを頼るしかない事、私を愛しているから婚約は解消したくない事、絶対私と結婚したい、などを時折涙を浮かべながら何度も何度も言っていた。
私が“婚約継続”と言うまで終わりそうもないので、痺れをきらした父と兄は、朝から夕方まで言い訳を続けるシリルに一言言いたくて応接室に駆け込んできた。
「殿下は娘を愛していると仰いますが、その娘よりも大切になさってるケネス殿と一緒になれば丸く収まるのではないのですか?
朝から晩まで一緒にいて、学院も討伐も一緒にいる事が出来るケネス殿と結婚でも何でもすれば良いではないですか!
昼間から盛りまくった猿が如く腰を振り、それほど寵愛されている方がいる殿下に、優先される事もない娘を差し出さなければならないのですか!
殿下程の方ならば最初から側室でも良いと嫁いで来てくださる令嬢が山程おりましょう。
どうかもう娘を解放してあげて頂きたい…お願いします…」
泣きながら訴える父の姿に駆け寄り抱きついた。
兄も、
「殿下…妹と婚約してまだ半年経っておりません。どうか婚約は白紙にして頂きたい…。
慰謝料や迷惑料など一切何もいりません。
今後殿下の御前に我がスケイル侯爵家は立つことは致しません。
どうか婚約を白紙にして下さいませ…」
と頭を下げてくれた。
シリルは黙ってそんな二人を泣きそうな顔で見ながら、
「もうダメなのだろうか…リジーは俺の事を嫌いなのだろうか…俺は番に愛してはもらえないのだろうか…死ぬまで番を抱く事は出来ないのだろうか…リジーは俺の番なのに…リジー、リジー、リジー、リジー・・・・・」
肩で息をし始め、私の名前を呼び続けるシリルは狂気じみていて父も兄も私もシリルから距離を取った。
ばっと顔を上げハアハアと荒い息を吐く様は野生の獣のようで、私を見つめる瞳は獲物を見つけた瞳だった。
「シ、リル…大丈夫?少し、休憩しましょう…ね?」
あまりの様子に心配になり、声をかけてもハアハアと肩で息をし、
そして「ケネスを呼んで、くれ、急いで、頼む…部屋を、貸して欲しい…」と言って私達から離れて窓辺に寄った。
今シリルに何が起きているのか分かった。
初めて見るシリルのその姿は苦しそうで側に行って支えてあげたいと思ったが、目の前に婚約者の私がいるのにここにはいないケネスを求めるシリルに、私の中の何かが切れた。
「殿下を私の部屋に連れて行って下さい!
私が呼ぶまで誰も私の部屋の周りは人払いを。お父様、医者をいつでも呼べるようにして頂きたいです、私達の初夜は優しいものではなさそうなので!」
父が慌てて、
「リジー!ダメだ!お前が相手をする必要はない!婚約を白紙にするのだろう!」と叫んでいる。
「この屋敷でシリルとケネスが一晩中熱を散らしたら、私は二度とこの家には住みません!ここはスケイル侯爵家です!王宮や学院のサロンではありません!そんな事絶対私は許さない!
シリルは私の番よ!誰にも渡さない!」
初めて大きな声で叫ぶ私にシリルが少し落ち着いたのか、
「ダメだ…リジー…優しくも出来なければ一回で終わるわけでもないんだ…頼む…馬車を出して欲しい…」
弱々しく頼むシリルにさらに私の怒りは膨れた。
「馬鹿にしないで!何処の世界に自分の番を愛人に譲る人がいるのよ!
例え私の方が浮気相手であっても私は貴方の番なの!これ以上私を馬鹿にしないで!」
と泣き叫ぶ私を兄が抱きしめてくれた。
父が「クソ!」と吐き捨てながら応接室を出て行った。
「リジー、支度させるから待っていてくれ…」
と言って兄も応接室を出て行った。
「ダメだ、ダメだリジー、頼む…リジーをこれ以上傷付けたくないんだ…馬車を貸してくれ。」と泣きそうな顔で懇願するシリル。
「それが一番私を傷付ける行為だってまだ分からないの、シリル!
これで婚約破棄も解消も白紙も出来なくなったとしても、私は今のシリルの状態を見てしまった以上、帰すわけには行かないわ。
そして苦しめばいいわ、一番大切な人を裏切って私を抱いてしまったと!
別の人を初めて抱いたと教えてあげればいいわ、貴方の最愛の恋人に!」
泣き叫ぶ私を何の涙なのか知らないが、泣きながら見つめるシリル。
そんな私達は“番”なのに幸せに初夜を迎える事が出来ないなんて誰が思っていただろう。
余程ケネスの方が大事に抱かれただろう。
唇を噛み、必死に号泣しないよう堪えた。
シリルはただ私を見つめていた。
兄とカーラが私達を迎えに来た。
これから悲しい初夜が始まる。
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